105 / 143
ドキドキ同棲編
【閑話】つながり【美由希視点】
しおりを挟む
「み、み、み、みゆきちゃ、で、で、で、できた、よ!」
学習帳を両手で掲げながら、龍臣の妹である希帆ちゃんが達成感に満ちた顔をしている。
私や龍臣も通った小学校に入学した希帆ちゃんは、学ぶこと全てが初めてのものばかりで、何を勉強しても楽しい盛りの様だ。
いや、無意識のうちに算数の学習帳は仕舞い込んでいるから、算数は嫌いなのかもしれない。
「わ~!上手に書けたねぇ!!平仮名もカタカナも直ぐに覚えたのに、漢字もここまでマスターしちゃうなんて、やっぱり天才なのかなぁ」
その柔らかな髪をクシャクシャにしながら、希帆ちゃんの頭を思い切り撫でる。
この子は頭を撫でられるのが好きだ。
と言うか、甘えるのが大好きなのだ。
けれど、甘え方が分からないから、こんな時にどんな顔をしたら良いのか分からないらしい。
いつも口を真一文字にして微動だにしない。
泣くのを堪えているようにも見える。
「……龍臣にも見せてあげようねー♡きっと花丸くれるよー!」
龍臣の名前を出せば、希帆ちゃんの顔は途端に綻ぶ。
それから懸命に「たつおみお兄ちゃん」と発音しようとして、やっぱり失敗してしまう。
舌の構造的に滑らかな発音が出来ない希帆ちゃんは、長年、実の母親からその喋り方について厳し過ぎる教育を受けて来たらしい。
上手に話せないと食べられず、敬語で話さないと折檻される。
希帆ちゃんの妹である由香里ちゃんが泣き止まないと責任を問われ、何時間でも正座をさせられたそうだ。
これはお爺ちゃん先生から聞いた話を、龍臣と艶子さんに教えてもらった。
『美由希はもう他人じゃないからねぇ…、と言っても酷な話を聞かせちまって悪いね…』
可愛がって来た従業員が実の子を虐待していたと言う事実は、艶子さんを弱くさせてしまったみたいだ。
あんなに大きく見えていた艶子さんの肩が、驚くくらい萎んで見えた。
「み、み、み、みゆきちゃ、の、か、か、か、んじは、ど、ど、ど、どう、かく、…の?」
何も書いてないページをこちらに差し出しながら、希帆ちゃんがおずおずと尋ねてくる。
私は自分の漢字と、希帆ちゃん、そして由香里ちゃんの名前の漢字をそれぞれ書いた。
「これが、私。そして、希帆ちゃん…こっちは由香里ちゃん」
「わわわわわ~!!!」
「私の名前の中に、希帆ちゃんも由香里ちゃんも居るね~♡本当、私たちは家族になる運命だったのかもしれないね」
瞬きを忘れてしまったかのように、希帆ちゃんがそのページを食い入るようにみている。
些細な偶然だけれど、この子の心の渇いた部分を潤す希望になれば良い。
「……希帆ちゃんはね、希望に帆を張る、で『希帆』だよ」
キョトン、とした顔をしていたけれど、勤勉な希帆ちゃんのことだから後で辞書を引くだろう。
小さなキッカケで良い。
これまで受けた悪意を払うほど大きくなくて良い。
小さな、小さな光が、これからこの子たちに降り注ぎますように。
今は迷子の猫の様に頭を撫でられているこの子が、いつか自分が愛されていることに気付けますように。
「とりあえず、私はオムライスだけでも作れるようになるね、希帆ちゃん!」
突然意気込んだ私に驚きながら、希帆ちゃんは、ふにゃりと花が咲いたような顔で笑うのだった。
学習帳を両手で掲げながら、龍臣の妹である希帆ちゃんが達成感に満ちた顔をしている。
私や龍臣も通った小学校に入学した希帆ちゃんは、学ぶこと全てが初めてのものばかりで、何を勉強しても楽しい盛りの様だ。
いや、無意識のうちに算数の学習帳は仕舞い込んでいるから、算数は嫌いなのかもしれない。
「わ~!上手に書けたねぇ!!平仮名もカタカナも直ぐに覚えたのに、漢字もここまでマスターしちゃうなんて、やっぱり天才なのかなぁ」
その柔らかな髪をクシャクシャにしながら、希帆ちゃんの頭を思い切り撫でる。
この子は頭を撫でられるのが好きだ。
と言うか、甘えるのが大好きなのだ。
けれど、甘え方が分からないから、こんな時にどんな顔をしたら良いのか分からないらしい。
いつも口を真一文字にして微動だにしない。
泣くのを堪えているようにも見える。
「……龍臣にも見せてあげようねー♡きっと花丸くれるよー!」
龍臣の名前を出せば、希帆ちゃんの顔は途端に綻ぶ。
それから懸命に「たつおみお兄ちゃん」と発音しようとして、やっぱり失敗してしまう。
舌の構造的に滑らかな発音が出来ない希帆ちゃんは、長年、実の母親からその喋り方について厳し過ぎる教育を受けて来たらしい。
上手に話せないと食べられず、敬語で話さないと折檻される。
希帆ちゃんの妹である由香里ちゃんが泣き止まないと責任を問われ、何時間でも正座をさせられたそうだ。
これはお爺ちゃん先生から聞いた話を、龍臣と艶子さんに教えてもらった。
『美由希はもう他人じゃないからねぇ…、と言っても酷な話を聞かせちまって悪いね…』
可愛がって来た従業員が実の子を虐待していたと言う事実は、艶子さんを弱くさせてしまったみたいだ。
あんなに大きく見えていた艶子さんの肩が、驚くくらい萎んで見えた。
「み、み、み、みゆきちゃ、の、か、か、か、んじは、ど、ど、ど、どう、かく、…の?」
何も書いてないページをこちらに差し出しながら、希帆ちゃんがおずおずと尋ねてくる。
私は自分の漢字と、希帆ちゃん、そして由香里ちゃんの名前の漢字をそれぞれ書いた。
「これが、私。そして、希帆ちゃん…こっちは由香里ちゃん」
「わわわわわ~!!!」
「私の名前の中に、希帆ちゃんも由香里ちゃんも居るね~♡本当、私たちは家族になる運命だったのかもしれないね」
瞬きを忘れてしまったかのように、希帆ちゃんがそのページを食い入るようにみている。
些細な偶然だけれど、この子の心の渇いた部分を潤す希望になれば良い。
「……希帆ちゃんはね、希望に帆を張る、で『希帆』だよ」
キョトン、とした顔をしていたけれど、勤勉な希帆ちゃんのことだから後で辞書を引くだろう。
小さなキッカケで良い。
これまで受けた悪意を払うほど大きくなくて良い。
小さな、小さな光が、これからこの子たちに降り注ぎますように。
今は迷子の猫の様に頭を撫でられているこの子が、いつか自分が愛されていることに気付けますように。
「とりあえず、私はオムライスだけでも作れるようになるね、希帆ちゃん!」
突然意気込んだ私に驚きながら、希帆ちゃんは、ふにゃりと花が咲いたような顔で笑うのだった。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる