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ドキドキ同棲編

【閑話】つながり【美由希視点】

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「み、み、み、みゆきちゃ、で、で、で、できた、よ!」

学習帳を両手で掲げながら、龍臣の妹である希帆ちゃんが達成感に満ちた顔をしている。
私や龍臣も通った小学校に入学した希帆ちゃんは、学ぶこと全てが初めてのものばかりで、何を勉強しても楽しい盛りの様だ。
いや、無意識のうちに算数の学習帳は仕舞い込んでいるから、算数は嫌いなのかもしれない。

「わ~!上手に書けたねぇ!!平仮名もカタカナも直ぐに覚えたのに、漢字もここまでマスターしちゃうなんて、やっぱり天才なのかなぁ」

その柔らかな髪をクシャクシャにしながら、希帆ちゃんの頭を思い切り撫でる。
この子は頭を撫でられるのが好きだ。
と言うか、甘えるのが大好きなのだ。
けれど、甘え方が分からないから、こんな時にどんな顔をしたら良いのか分からないらしい。
いつも口を真一文字にして微動だにしない。
泣くのを堪えているようにも見える。

「……龍臣にも見せてあげようねー♡きっと花丸くれるよー!」

龍臣の名前を出せば、希帆ちゃんの顔は途端に綻ぶ。
それから懸命に「たつおみお兄ちゃん」と発音しようとして、やっぱり失敗してしまう。
舌の構造的に滑らかな発音が出来ない希帆ちゃんは、長年、実の母親からその喋り方について厳し過ぎる教育を受けて来たらしい。
上手に話せないと食べられず、敬語で話さないと折檻される。
希帆ちゃんの妹である由香里ちゃんが泣き止まないと責任を問われ、何時間でも正座をさせられたそうだ。
これはお爺ちゃん先生から聞いた話を、龍臣と艶子さんに教えてもらった。

『美由希はもう他人じゃないからねぇ…、と言っても酷な話を聞かせちまって悪いね…』

可愛がって来た従業員が実の子を虐待していたと言う事実は、艶子さんを弱くさせてしまったみたいだ。
あんなに大きく見えていた艶子さんの肩が、驚くくらい萎んで見えた。

「み、み、み、みゆきちゃ、の、か、か、か、んじは、ど、ど、ど、どう、かく、…の?」

何も書いてないページをこちらに差し出しながら、希帆ちゃんがおずおずと尋ねてくる。
私は自分の漢字と、希帆ちゃん、そして由香里ちゃんの名前の漢字をそれぞれ書いた。

「これが、私。そして、希帆ちゃん…こっちは由香里ちゃん」
「わわわわわ~!!!」
「私の名前の中に、希帆ちゃんも由香里ちゃんも居るね~♡本当、私たちは家族になる運命だったのかもしれないね」

瞬きを忘れてしまったかのように、希帆ちゃんがそのページを食い入るようにみている。
些細な偶然だけれど、この子の心の渇いた部分を潤す希望になれば良い。

「……希帆ちゃんはね、希望に帆を張る、で『希帆』だよ」

キョトン、とした顔をしていたけれど、勤勉な希帆ちゃんのことだから後で辞書を引くだろう。
小さなキッカケで良い。
これまで受けた悪意を払うほど大きくなくて良い。
小さな、小さな光が、これからこの子たちに降り注ぎますように。
今は迷子の猫の様に頭を撫でられているこの子が、いつか自分が愛されていることに気付けますように。

「とりあえず、私はオムライスだけでも作れるようになるね、希帆ちゃん!」

突然意気込んだ私に驚きながら、希帆ちゃんは、ふにゃりと花が咲いたような顔で笑うのだった。
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