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ドキドキ同棲編
妹想いなお兄様⑥
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「突然すみません。先ほど、お名前を呼ばれているのを耳にしたものですから…。貴女、希帆さん、ですか?」
「…はい」
「あら、警戒させてしまってます?取って食おうって訳じゃないのでご安心ください」
コロコロと笑う美女に何とも言えない嫌悪感を抱く。
警戒させたくないなら名乗るべきだ。
いや、この人の名前になんて興味はないけれど。
「この子に何かご用件でも?」
修也さんが私の前に出て美女に尋ねる。
壁のような修也さんから半身を出して窺うと、馬鹿にしたような笑みをぶつけられた。
「希帆さんって私と同い年だって聞いてますけど、まだお子様扱いされてるんですか?聞いてた通り甘やかされてるんですねぇ。私だったらとてもじゃないけど、恥ずかしくて庇って貰うなんて出来ないわ~」
どうして見ず知らずの人間に敵意を向けられないといけないのか。
それがなくても、目の前の美女の舐め回すような視線が不愉快で仕方ない。
修也さんの肩がピクリと動く。
あぁ、もう、嫌だなぁ。今日みたいに幸福感でいっぱいな夜に、どうしてこんな気持ちにさせられないといけないんだろう。
「…いいよ、修也さん、反応しなくて。私の知り合いにこんな失礼な人居ないもん。放っておこう」
クイッと修也さんの腕を引くと、美女とは反対方向へ足を向ける。
「知り合いじゃないにしろ、私の話は聞いておいた方がいいと思いますよ」
嫌に自信たっぷりな物言いに思わず耳を傾けてしまう。
「貴女の恋人に関することですから」
振り向くと口角を片方だけ吊り上げて、底意地の悪い笑みを浮かべる美女の顔。
反射的に悪態を吐きそうになるのをグッと堪える。
「とりあえず、何か飲みません?私、喉が渇いちゃって」
そう言って美女は肩を翻すと、バーカウンターに向かって歩き出した。
一瞬だけ考えて、その後ろを付いて行く。
修也さんには私たちの姿だけ確認して貰い、会話は聞こえない程度に離れてもらうようお願いした。
「ギムレットを2つお願い」
「ちょっと!」
「そのくらいも飲めないの?貴女、本当におこちゃまなのね」
カクテル一つでここまで人を不愉快にさせる人間を私は知らない。
はい、たった今、私史上最悪最低不愉快クイーンが決定しました。
脳内の全私はスタンディングオベーションで彼女を見送ってください。
二度と会わないことを願って拍手をしましょう!
はい!ご唱和ください!!『おこちゃまなのはアンタだ!』
「あれ?希帆さん?」
オーダーを聞き受けたバーテンダーが素っ頓狂な声を出す。
その声に釣られて顔を向けると、木野くんがキャップのツバに片手を添わせてペコリと頭を下げた。
「おぉ!久しぶりだね~元気にしてる?」
「ウッス!てか、オレから元気取ったら何も残らねぇっス!!」
「立派なテクニックが残るじゃん。三富くんが認めたんだから自信持ちな~」
「…っス!!!」
三富くんのお店に週末だけ入っていた木野くんは、それから勉強を重ねて今では別店舗のマスターをしている。
元気だけが取り柄っス!と言っていた彼だが、メキメキと腕を上げて彼のカクテル飲みたさに日参するお客様も多いと聞く。
「は!こんなところでも男を誑かすのね~。おこちゃまのくせに男好きなんて、大輔も女の趣味が悪くなったもんだわ」
「…オレ、別に誑かされてねぇっス」
「良いから早くギムレット寄越しなさいよ!」
「……木野くん、この人にギムレット作ってあげて。きっと喉が渇き過ぎてイライラしてるの。ごめんね」
「貴女も飲むでしょ?飲めないなんて言わないわよね?」
「私は飲みません。私は美味しいお酒が飲みたいんです。アナタと一緒だと折角の木野くんのお酒が不味くなっちゃう」
私の言葉に一瞬だけ口角を上げた木野くんは、直ぐにショートグラスを一つだけ用意して、シェイカーを振り始める。
程なくして鼻っ柱の高い美女の前に、ご所望のカクテルが差し出された。
「…このカクテルは、貴女にお似合いだと思ったんだけど?」
挑発的な笑みを浮かべ、彼女がグラスを持ち上げる。
ライムの香りがこちらまで漂ってきそうだった。
「ギムレットのカクテル言葉、ご存知?『長いお別れ』、貴女と大輔にピッタリじゃない?」
「さっきから何が言いたいんですか?」
「貴女はね、私の代わりとして大輔に見初められただけなの。あの子、何も知らない初心な大学生だったから、私が全部教えてあげたのよ」
その言葉に私は頭を鈍器で殴られたような感覚になる。
「キスの仕方も、下着の外し方も、愛撫の方法も、全部私好みに教えたわ。二十歳そこそこだった大輔にお酒の飲み方も教えた…。あの子の全ては私が作り上げたものなのよ」
彼女は勝ち誇ったような目をこちらに流しながら、ギムレットを一気に半分ほどあおった。
いちいち鼻につく。
この人は大輔くんの元カノなのだろうか。
そもそも、大輔くんの『ハジメテ』は私が頂いたはずだ。
まぁ、男性の初体験なんて女性と違って印がある訳じゃないから分からないけれど。
「…それで、どうして私と大輔くんにギムレットがピッタリなんですか?」
「私が日本に帰って来たからよ!どうしても海外の仕事が外せなくて、あの子を置いて行くしかなかったわ。可哀想に、私のことが忘れられなかったのね…。あの子ったらわざわざ私と同い年の彼女を作っちゃうなんて!仕方がないから元鞘に戻ってあげようと思ってるの。だから、貴女と大輔は終わりよ」
頭が痛い。
この人の半生に一ミリも興味はないけれど、どうやったらこんな人物が出来上がるのか知りたい気もする。
いや、やっぱりいいや。
「いつ日本に帰って来たんですか?」
「…え?」
「日本に帰国したのはいつですか?」
思った通りの反応じゃなかったのだろう。
私の言葉に高飛車な彼女が驚いている。
「…二週間前だけど……それが?それが、なんだって言うの?」
「その二週間、何してたんですか?それだけ自信満々ならすぐにでもよりを戻しに来れば良かったのに」
「ハ!私は貴女みたいな自己中女と違うから、大輔の大学に押しかけることなんて出来なかったのよ」
「いや、連絡とるなり家に行くなり出来ますよね?…まぁ、着信拒否だとか家を知らないってことがない限りは、の話ですけど」
「…っ」
私の言葉に下唇を噛む彼女に対して『おこちゃまだなぁ』と思った私は、果たして底意地が悪いのだろうか。
「…はい」
「あら、警戒させてしまってます?取って食おうって訳じゃないのでご安心ください」
コロコロと笑う美女に何とも言えない嫌悪感を抱く。
警戒させたくないなら名乗るべきだ。
いや、この人の名前になんて興味はないけれど。
「この子に何かご用件でも?」
修也さんが私の前に出て美女に尋ねる。
壁のような修也さんから半身を出して窺うと、馬鹿にしたような笑みをぶつけられた。
「希帆さんって私と同い年だって聞いてますけど、まだお子様扱いされてるんですか?聞いてた通り甘やかされてるんですねぇ。私だったらとてもじゃないけど、恥ずかしくて庇って貰うなんて出来ないわ~」
どうして見ず知らずの人間に敵意を向けられないといけないのか。
それがなくても、目の前の美女の舐め回すような視線が不愉快で仕方ない。
修也さんの肩がピクリと動く。
あぁ、もう、嫌だなぁ。今日みたいに幸福感でいっぱいな夜に、どうしてこんな気持ちにさせられないといけないんだろう。
「…いいよ、修也さん、反応しなくて。私の知り合いにこんな失礼な人居ないもん。放っておこう」
クイッと修也さんの腕を引くと、美女とは反対方向へ足を向ける。
「知り合いじゃないにしろ、私の話は聞いておいた方がいいと思いますよ」
嫌に自信たっぷりな物言いに思わず耳を傾けてしまう。
「貴女の恋人に関することですから」
振り向くと口角を片方だけ吊り上げて、底意地の悪い笑みを浮かべる美女の顔。
反射的に悪態を吐きそうになるのをグッと堪える。
「とりあえず、何か飲みません?私、喉が渇いちゃって」
そう言って美女は肩を翻すと、バーカウンターに向かって歩き出した。
一瞬だけ考えて、その後ろを付いて行く。
修也さんには私たちの姿だけ確認して貰い、会話は聞こえない程度に離れてもらうようお願いした。
「ギムレットを2つお願い」
「ちょっと!」
「そのくらいも飲めないの?貴女、本当におこちゃまなのね」
カクテル一つでここまで人を不愉快にさせる人間を私は知らない。
はい、たった今、私史上最悪最低不愉快クイーンが決定しました。
脳内の全私はスタンディングオベーションで彼女を見送ってください。
二度と会わないことを願って拍手をしましょう!
はい!ご唱和ください!!『おこちゃまなのはアンタだ!』
「あれ?希帆さん?」
オーダーを聞き受けたバーテンダーが素っ頓狂な声を出す。
その声に釣られて顔を向けると、木野くんがキャップのツバに片手を添わせてペコリと頭を下げた。
「おぉ!久しぶりだね~元気にしてる?」
「ウッス!てか、オレから元気取ったら何も残らねぇっス!!」
「立派なテクニックが残るじゃん。三富くんが認めたんだから自信持ちな~」
「…っス!!!」
三富くんのお店に週末だけ入っていた木野くんは、それから勉強を重ねて今では別店舗のマスターをしている。
元気だけが取り柄っス!と言っていた彼だが、メキメキと腕を上げて彼のカクテル飲みたさに日参するお客様も多いと聞く。
「は!こんなところでも男を誑かすのね~。おこちゃまのくせに男好きなんて、大輔も女の趣味が悪くなったもんだわ」
「…オレ、別に誑かされてねぇっス」
「良いから早くギムレット寄越しなさいよ!」
「……木野くん、この人にギムレット作ってあげて。きっと喉が渇き過ぎてイライラしてるの。ごめんね」
「貴女も飲むでしょ?飲めないなんて言わないわよね?」
「私は飲みません。私は美味しいお酒が飲みたいんです。アナタと一緒だと折角の木野くんのお酒が不味くなっちゃう」
私の言葉に一瞬だけ口角を上げた木野くんは、直ぐにショートグラスを一つだけ用意して、シェイカーを振り始める。
程なくして鼻っ柱の高い美女の前に、ご所望のカクテルが差し出された。
「…このカクテルは、貴女にお似合いだと思ったんだけど?」
挑発的な笑みを浮かべ、彼女がグラスを持ち上げる。
ライムの香りがこちらまで漂ってきそうだった。
「ギムレットのカクテル言葉、ご存知?『長いお別れ』、貴女と大輔にピッタリじゃない?」
「さっきから何が言いたいんですか?」
「貴女はね、私の代わりとして大輔に見初められただけなの。あの子、何も知らない初心な大学生だったから、私が全部教えてあげたのよ」
その言葉に私は頭を鈍器で殴られたような感覚になる。
「キスの仕方も、下着の外し方も、愛撫の方法も、全部私好みに教えたわ。二十歳そこそこだった大輔にお酒の飲み方も教えた…。あの子の全ては私が作り上げたものなのよ」
彼女は勝ち誇ったような目をこちらに流しながら、ギムレットを一気に半分ほどあおった。
いちいち鼻につく。
この人は大輔くんの元カノなのだろうか。
そもそも、大輔くんの『ハジメテ』は私が頂いたはずだ。
まぁ、男性の初体験なんて女性と違って印がある訳じゃないから分からないけれど。
「…それで、どうして私と大輔くんにギムレットがピッタリなんですか?」
「私が日本に帰って来たからよ!どうしても海外の仕事が外せなくて、あの子を置いて行くしかなかったわ。可哀想に、私のことが忘れられなかったのね…。あの子ったらわざわざ私と同い年の彼女を作っちゃうなんて!仕方がないから元鞘に戻ってあげようと思ってるの。だから、貴女と大輔は終わりよ」
頭が痛い。
この人の半生に一ミリも興味はないけれど、どうやったらこんな人物が出来上がるのか知りたい気もする。
いや、やっぱりいいや。
「いつ日本に帰って来たんですか?」
「…え?」
「日本に帰国したのはいつですか?」
思った通りの反応じゃなかったのだろう。
私の言葉に高飛車な彼女が驚いている。
「…二週間前だけど……それが?それが、なんだって言うの?」
「その二週間、何してたんですか?それだけ自信満々ならすぐにでもよりを戻しに来れば良かったのに」
「ハ!私は貴女みたいな自己中女と違うから、大輔の大学に押しかけることなんて出来なかったのよ」
「いや、連絡とるなり家に行くなり出来ますよね?…まぁ、着信拒否だとか家を知らないってことがない限りは、の話ですけど」
「…っ」
私の言葉に下唇を噛む彼女に対して『おこちゃまだなぁ』と思った私は、果たして底意地が悪いのだろうか。
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