【R18】不貞腐れていたら筋肉質の歳下男子を捕まえました

山田 ぽち太郎

文字の大きさ
上 下
95 / 143
ドキドキ同棲編

妹想いなお兄様④

しおりを挟む
重厚な扉を開くと、上質な皮のソファーで寛ぐりゅうにぃと目が合った。

「おぉ、希帆。呼び出して悪ぃな」

ニカッと笑うりゅうにぃの手には琥珀色の液体が入ったグラスがある。
イツくんの席にも同じものがあり、テーブルに何やら高級そうなボトルが置いてあった。

「なんだ、先に飲み始めてたの?待っててくれたら良かったのに」

りゅうにぃが指定した時間に遅れた訳でもないのに、私たちの到着を待たずに晩酌を始めるとは良いご身分である。
まぁ、様々な事業運営をしているイツくんや、個人経営ながらテレビや各メディアで取り上げられる程の飲食店を経営しているりゅうにぃは、平社員の私よりも幾分か高いご身分であるが。

「逸弥の愚痴を聞くためだ、酒でもねぇと舌が回らねぇんだと。つっても口付けるくらいしか飲んでねぇよ」

肩をすくめるりゅうにぃに、イツくんが鋭い眼光を浴びせる。
規模は違えど経営者同士。積もる相談事があるのかもしれない。

「…お前か、希帆の新しい男ってのは」

りゅうにぃが大輔くんを見据える。
なにぶん私も恋人を紹介することに慣れていないこともあり、りゅうにぃ相手に挙動不審になってしまった。

「あ、えっと、その……、うぅ…、考えてきた言葉全部飛んじゃった…」

自分のダメさ加減に呆れてしまい、がっくりと肩を落とす。
部屋に入る前に、緊張している大輔くんをあんな風に微笑ましく眺めている場合じゃないかった。
3分前の私、今すぐ大輔くんに土下座して。

「…希帆さん。俺、自分から挨拶させてもらって良い?」

情けなさに項垂れた私の背中に、大輔くんの大きな手が添えられる。
隣りに立つ大輔くんを見上げると、穏やかに笑う彼と視線が絡んだ。
その瞳に無言で「ごめんね」と「ありがとう」を伝えながら、急いで首を縦に振る。
色素の薄い瞳が細められ、大輔くんからも無言で「大丈夫、心配ないよ」と返された。
私の背中に添えた手を、今度は私の腰元に回し、大輔くんが姿勢を整える。
それにならって、私も背筋を伸ばした。

「初めまして。希帆さんとお付き合いをさせて頂いていますーーー…」

凛とした表情と、通る声。
強面のりゅうにぃに臆することなく、堂々と自己紹介をする大輔くんを惚けて見つめる。
こんなに素敵な人が私の恋人で良いのだろうか。
過去の男運のなさのお陰で、大輔くんとの縁が繋がったのならば、失恋に泣いた夜も浮かばれる。
あの恋も、あの恋も、私を大輔くんの元へ届ける大切な道のりだったのだ。
そう思わせてくれる恋人の横顔にまた少し見惚れてから、私は今度こそりゅうにぃに大輔くんの紹介を始めたのだった。

*********************

大輔くんはもちろん、日和ちゃんのことも紹介して、しばらくみんなでお酒を楽しむ。
とは言え、私はオレンジジュースだ。
今夜は酔って粗相するようなことがあってはならない。
ましてや先日のように恋人に発情する姿を、りゅうにぃには見せられない。

「あのヤンチャ坊主の慶太も、ようやく落ち着いたんだな!ヲイ!お前も飲みやがれ~!」
「いや…、仕事中っす」
「龍臣、うちの従業員に絡むな」
「もしかして、りゅうにぃ酔っ払ってる?」

ニパニパと相貌を崩しているりゅうにぃの目元は赤く、とろんとしていた。
人並みに飲めるはずのりゅうにぃが、これくらいの酒量で酔うなんて珍しいこともあるもんだ。
いや、結構飲んでいたような…?
一人だけペースが異常だった気がする。

「お~?なんだ、希帆ぉ♡お兄ちゃんのことが大好きだってか?ヲラヲラ~、頭撫でてやるから、こっち来い!」
「うっあ!!ちょ、セットが乱れる!りゅうにぃ、やめて!」

強引に引き寄せられて、そのまま頭をワシワシと乱暴に撫でられる。
酔ったりゅうにぃは、腕力の調整がバカになってしまうのだ。
思わず身体を退け反らせてしまった。

「………希帆は、俺に撫でられるの嫌いか?」

途端にドヨンとした空気がりゅうにぃに漂う。
それでも私をホールドする力は緩めてくれない。

「昔からそうだろぉが。逸弥には簡単に撫でさせるくせに、俺が撫でてやろーとすると、お前はビクビクして…。それにこの髪型!!俺を避けてた頃を思い出すぜ!!ちくしょー!」
「あいたた…、そんな力一杯に撫で回さないで…」
「うるせー!俺はお前のお兄ちゃんなんだからな!お前の幸せを守るのは俺なんだからな!!」
「い…今、まさに…りゅうにぃの腕の中で不幸を感じているよ…」

グイングインとりゅうにぃの動きに合わせて、私の首が360°振り回される。
お酒を飲んでいなくて良かった。こんなの悪酔いしかしない。

「何してんだよ、龍臣。希帆が痛がってるだろ。放してやれ」
「うっせ!だいたい、逸弥は俺以上に希帆の兄貴面してんじゃねぇよ!!希帆のお兄ちゃんは俺だぞ!!!」

更にガッチリとホールドされて、頬擦りまでされ始めてしまう。
顎髭がジョリジョリとして最高に痛い。
お肌が荒れそうだから即刻離れて欲しいところだ。

「兄貴面なんてするかよ!龍臣、お前今日は一段と面倒くせぇぞ」
「大事な妹に彼氏を紹介されてんだぞ。くっそ寂しくて、くっそ辛いわ!!少しくらい面倒かけたって良いだろぉが!!」
「そう言うとこが思春期だった希帆に避けられてた要因なんだよ…」

ボソリと呟いたイツくんの言葉は、私をこねくり回しているりゅうにぃの耳には届かなかったようだ。

「龍臣さん、お水、どうぞ」

大輔くんが遠慮がちに、透明な液体で満たされたグラスをテーブルに置く。
そのグラスと大輔くんの顔を交互に見て、りゅうにぃが口を開いた。

「…お前……大輔つったか?……お前だけ残れ。俺と逸弥と3人で話しようや」

人の悪い顔をするりゅうにぃは、料理人と言うよりも闇社会の人間にしか見えない。

「いやいや!なんで!!話あるなら今したら良いじゃん!私の前では出来ない話でもするつもりなの?」
「男同士にしか分かんねぇ話があんだよ。それに希帆は下にある俺の作ったメシを制覇しなきゃなんねぇだろ?」
「はっ!……い、いや…で…でも…」

りゅうにぃの言葉に1階にあった美味しそうなお料理たちを思い出してハッとする。
とは言え大輔くんだけ残して部屋を出るなんて…、とまごついていると、大輔くんの大きな手が私の頭に乗った。
彼の手は私の乱れた髪を整えるように動き、その気持ち良さに思わず目を細めてしまう。

「オマール海老もローストビーフも早くしないと無くなっちゃうよ。俺のことは気にせず堪能しておいで」
「…ん。本当に平気?」
「龍臣さんと逸弥さんに仲良くして貰うから大丈夫だよ♡」

私を甘やかすように微笑む大輔くんに、私もつられて笑顔になる。
するとりゅうにぃが大輔くんの手をベチンとはたき落とした。

「仲良くするかっつの。俺の目の前で希帆のこと触ってんじゃねぇぞ、クソガキ!!」
「りゅうにぃ!」
「希帆さん、大丈夫だから。すみません、配慮がありませんでした。希帆さんがこんなに可愛かったらお兄さんも心配ですよね」
「そーなんだよ!コイツは自覚してねぇから、余計に心配しなきゃなんねーんだよ!」
「今までお兄さんが守ってくれたお陰で、希帆さんも幸せに暮らせているんだと思いますよ」
「そぉ~かぁ~?いや、まぁ、そ~なんだけどなぁ~?なんだお前、話が分かる奴じゃねぇか!」

りゅうにぃの腕からようやく解放された私は、大輔くんに手を引いて貰って立ち上がる。
ニコニコとした顔を崩さずに、大輔くんがソッと耳打ちをしてきた。

「希帆さんとソックリだね。安心して、希帆さんを懐柔するの大得意だし、龍臣さんとも仲良くなれるよ、俺♡」

ゾッとする程色気を含んだ顔を覗かせて、大輔くんが美しく微笑む。
その顔にハハハと愛想笑いを返して、私は日和ちゃん達を連れて部屋を出るしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...