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ドキドキ同棲編

姑襲来

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時を戻せるなら、出来れば受精卵時点からやり直したい。
細胞レベルでやり直しを希望したい。
1時間ほど前に大輔くんからの清拭せいしきの申し出を断った時点ではなく、そのずっと、ずーーーーっと前からやり直したい。
そうじゃないと追いつかない。色々と。この状況に。

「ふふふ♡希帆ちゃんの頬っぺたプニプニで可愛らしいわぁ~♡ずっと触っていたいわぁ~♡」

姑is自由。
なんてフリーダムなこのお方!!
プニプニですみません。
細胞レベルでお義母かあ様と違ってすみません。
今すぐ人生やり直して来ますのでお許しください…!

今の私の状況は、ベッドボードに背中を預けながら、ベットサイドに座るお義母かあ様が頬っぺをプニプニするのに任せている。
言われてみれば、大輔くんにそっくりな容姿のお義母かあ様に、私はなすすべもない。
くぅ……!美しいって最強だなぁ…。
そして私は美しいものにほとほと弱いなぁ…。

『お見苦しい格好ですみません…』

消え入りそうな思いで文字を認める。
気持ちを反映した私の文字はなんとも所在なさげで頼りない。

「あらあら~♡体調が悪いのにお邪魔した私が悪いのよ~。気にすることはないわ~♡ごめんなさいね、本当はすぐにお暇するべきなんでしょうけど、希帆ちゃんに逢えたのが嬉しくて、嬉しくて♡少しだけ、お話に付き合って貰えないかしら?」

フワリと微笑む美女の願いを誰が断ることができようか。いや、出来ない。
私が首がもげそうなほどにコクコクコクコクと頷くと、お義母かあ様は満面の笑みを浮かべた。

「あの子が恋愛音痴になってしまったのは、私のせいでもあるのよ。私は若い頃にモデルをしててね?」

うわぁ…。想像に難くない!
今でも十二分にお綺麗なんだから、モデル時代もさぞかし美しかったんだろうなぁ…。

「若い頃は今よりギラギラしてたから、子役の子が私に全然懐いてくれなくてねぇ♡仕方がないから3歳だった大輔くんに白羽の矢がたったことがあるの♡」

ギ…ラギラ…?

「ふふふ♡猛禽類みたいな目をしてたからかしら?小さい子にはとにかく怖がられてたわぁ♡今でも時々怯えられるんだけどね?」

大輔くんに魔王が降臨した時みたいなことかな?
今のお義母かあ様からじゃ想像出来ないんだけどな…。

「その時の雑誌がとにかく話題になっちゃってねぇ♡大輔くんは小学校低学年まで子役モデルとして活躍してたのよ~♡とっても可愛かったから当たり前よね~!」

小さい頃の大輔くんもきっと可愛かったろうなぁ…!
まさに『天使』ってビジュアルだっんじゃないか?
見てみたいな。

「…今考えると、それがいけなかったのよね……。外見ばかり褒めそやす人たちに囲まれて育ったものだから、どこか人間不信になっちゃったのよ…」

義母かあ様の声が途端にトーンダウンしてしまう。
眉根を寄せた顔も美しいけれど、私の胸はキリリと痛んだ。

「言い寄ってくる女の子も大輔くんの容姿ばかりに気を取られて、中身をちっとも見てくれなかったの。だから願いを込めて、あの子に伝えたわ。『童話の中のお姫様と王子様みたいに、お互いのことしか見えなくて、ピッタリくっついて離れないのが愛し合うってことよ。貴方にもそんな相手が現れるわ』って!」

あ、うん、そうだった。
超絶理論を説いたのはお義母かあ様だった。
大輔くんの強火思想の火種を見てしまった思いだわ。

「そしたら困ったことに変な方向に暴走しちゃってねぇ~♡あの子のお兄ちゃんたちにすっごく怒られちゃったわ♡」

テヘペロ、と舌を出す顔さえも美しくて、私は危うく成仏しかけてしまった。
あわや即神仏だ。

「ただでさえ我が家の男の子たちの愛情表現は普通より重めなのに、私の言葉のせいで大輔くんの執着心はちょっとした病気みたいな感じでしょ?」

私の頬をプニプニしていた人差し指をそのまま自分の頬に当てて、お義母かあ様が小首を傾げる。
私は素直に頷いて良いのか迷ってしまった。
けれど、ポーカーフェイスと正反対の私の表情を簡単に読んでしまったお義母かあ様は大きな溜息を吐きながらボスンとベッドに突っ伏する。

「やっぱりねぇ~。でもでも!大輔くんは本当に良い子なのよ!!我が子ながらしっかりしてるし、賢いし、あ、お金も持ってるわ!あの子、子役時代の収入を元手に投資である程度稼いだみたいなのよね~。欲しいもの沢山買ってもらってね♡」

いや、それでよろしいのでしょうか、お義母かあ様…。

「希帆ちゃんがお嫁さんに来てくれるの楽しみだわ~♡あの子のこと末永くよろしくね♡」

ニッコニコと微笑んでいるのに、一瞬だけ瞳がギラリと輝いた気がした。
なんと返事を書いたものかペン先を彷徨わせていると、お義母かあ様の相貌が壮大に崩れてしまう。

「……やっぱり大輔くんが旦那様なんて嫌かしら?そうよね…。大輔くんも我が家の男の子、きっと夜の執着心も凄いんだろうし……」

………ん?

「一番上のお兄ちゃんのとこもね?色々と大変みたいなのよ?……まぁね?私も同じ道を辿ったわけだし、気持ちも分からなくはないんだけど…」

………んんんん?

「こればっかりは家系と言うか…。こっちはこっちでスタミナつけて頑張るしかないのよね」

はふぅ、と熱っぽい吐息を吐き出したお義母かあ様は、よく見る漫画のヒロインのように憂いた顔で頬杖を付いた。
何となくお義母かあ様が言わんとしていることは分かるけれど、私の本能が『分かりたくない』と警鐘を鳴らしている。

「……まぁ、至らぬ所も多い子だけど、希帆ちゃんを大切に想う気持ちは本物だと思わ。ここ最近、大輔くんの電話の声が随分と柔らかくなったもの♡希帆ちゃんのことも沢山聞いているわ♡」

表情を戻したお義母かあ様の手のひらが、私の頬に当てられる。
優しく撫でられると擽ったいのに、何だか安心してしまった。

「あの子と、これからも一緒に居てくれたら……とっても嬉しいわ」

そう言って細められた色素の薄い瞳を見つめながら、声にならない返事をなんとか絞り出す。
それを見たお義母かあ様が泣きそうな顔するものだから、私もつられて泣きそうになってしまった。
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