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ドキドキ同棲編
ビニールハウスは甘い檻
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大輔くんと手を繋いだまま外に出ると、ニコニコと微笑む教授が「こっちですよ」と手招きをしてくれた。
招かれた先のビニールハウスには、先ほどのハウスのものより大粒でツヤツヤと輝く赤い宝石たちがお行儀良く並んでいる。
「他の子たちには申し訳ないけれど、ここの苺は君たちだけに食べて欲しくてねぇ。君たちみたいな、甘い甘い恋人同士にね☆」
パチン、とウィンクをしたロマンスグレーなおじさまに、元来の年上好きな心が淡く跳ねた。
きっとこの紳士は、若い頃から女性の心を掴んで離さない男性だったのだろう。
「では、心ゆくまでご堪能くださいねぇ」
品の良い笑顔のままビニールハウスを出て行く背中に、お礼の声を掛けて私の美丈夫をゆるゆると見上げた。
「………ごめんね」
「なんで希帆さんが謝るの?全面的に俺が、って言うか、俺の過去が悪くない?」
へぅ、と顔面を萎れさせて謝る私に、大輔くんが慌てて言葉を返してくる。
そうだ、そうだ、お前が悪い。
「それは否定しないけど…」
「否定しないんだ。ハハハ!」
「うん。けど、さっきの私は、性格がすっごく悪かったもん。だから、ごめんなさい」
視線を下げて俯いた格好になると、大輔くんがそっと抱きしめてくれた。
トクトクと脈打つ彼の心音が心地良い。
「俺が最低なのは承知の上で、なんだけど。……希帆さん、ヤキモチやいてくれた?」
「焦げ焦げのやつを妬き散らかしたね」
「……すっげえ、嬉しい♡」
大輔くんの私を抱き締める力が増して、息もつけなくなる。
「何が嬉しいんよ!私は自己嫌悪で苦しいのに!ばかちんが!!」
「うん、ごめんね、でも嬉しい。希帆さんが俺のことが好きな証拠だから、妬いてくれて本当に嬉しい」
両手を大輔くんの脇に這わせてパタパタと叩く。
けれど筋肉質なこの人は、私の抵抗なんて出来損ないの猫パンチよりも意に介さない。
私を包む恋人の筋肉は私の中の汚い靄をじわじわと晴らすようだった。
「…王子様の腕の中で私の中のGreen-eyed monsterは天へと召されて行きましたとさ」
しっかりと隆起した胸板に顔を埋めて、大好きな彼の香りを嗅ぎながらポソリと呟いた。
大学時代に専攻した外国文学。その際の課題の戯曲の一節が今日の私にはよく似合う。
「なんだっけそれ、嫉妬の象徴?だっけ」
「…理系のくせになんで知ってるの?」
「一番上の兄が好きで、俺も高校の頃に彼の作品は一通り読んだよ」
「私はあんまり好きになれなくて、課題以外で読んだことないなぁ」
他愛もない話をしながら、私たちはごく自然に唇を合わせた。
一度、二度、三度…
触れる回数が増すたびに深くなる口付けは、お互いの口内に残る甘い果汁を探し求める行為のようだ。
「ん…んん、……はふっ」
「…っ、…希帆さんの口の中、苺味でいっぱいで、まるで希帆さん自身が苺になったみたいだね♡」
「…んんっ♡」
両手で私の頬を包みながら、大輔くんは右手の親指を私の口に挿し入れる。
そのままジュポジュポと音がするほど親指を抽送して、私の上顎と舌の腹を犯した。
「相変わらず唇も真っ赤で、そうやってトロンとした顔も赤く染まって…本当に全身が苺みたい♡」
「…ゃんっ……んむっ…♡」
「俺の身体から出る練乳をかけて…」
「ぷはっ!!それ以上言うなばかちんが!!!」
大輔くんの口から不穏な言葉が漏れ出るのを察知して、親指の口淫から逃れた私は語気を荒くする。
私の美しい恋人は、だんだんとオヤジ臭い発言が増えてきたように思うが、どうしたものやら…。
「ちぇ、やっぱり止められたか~。ヤキモチのどさくさに紛れて流されてくれると思ったんだけどな~」
「どうしてそんなエロオヤジみたいな発言したがるの…」
「希帆さんの照れた顔が見たいからに決まってるじゃん♡」
ちゅいっ、と啄むキスをして、芸術的な笑顔を浮かべる大輔くんは、本当にズルい。
ズルくて、ズルくて、涙が出そうだ。
「…うぐ……」
「え゛!!なんで泣きそうなの!?そんなに嫌だった?」
涙ぐむ私に顔を真っ青にしながら、ワタワタと慌てる姿も格好良い。
あぁ、本当に、顔が良い。
「わ~…、な、泣かないでぇ、希帆さん…。俺、バカなことばっかり言ってごめんね。さっきのことも、本当にごめん」
「…なんか、情緒不安定だ、今の私。嫉妬と、自己嫌悪と、安心したのと、バカな彼氏に対しての怒りでいっぱいだ」
「うん。ごめんね、俺のせいだね。…でも、希帆さんの気持ちが俺でいっぱいなのが嬉しい」
また、この男は…。
こんなにドロドロした気持ちが嬉しいなんて、本当にどうかしている。
私のことを好き過ぎるにもほどがある。
…本当に、ばかちんなんだから。
「…大輔くんは、私を好き過ぎると思う」
「ハハハ!やっと伝わった?けど多分、希帆さんが思ってる100倍は好きだよ」
「……良くもまぁ、そんな甘々な言葉が出ますこと!」
「アハハ~♡照れてる、照れてる~♡」
またもや深く口付けをされて、私の変なスイッチが押されてしまった。
「…大輔くんこそ、私の気持ちに気付いてない」
「え?」
「もう他の女の人が寄ってこないようにしてあげる」
「希帆さ…」
キスの高さに身を屈めた大輔くんの首筋に、ガプリと嚙みついて、じゅうぅぅっ!と吸い上げる。
ちゅぽんっ、と唇を離すと、インナーの端から微妙に見える位置に紅い跡が残った。
私の首筋や胸元や背中や…そのほか至る所に残された大輔くんの痕跡と同じものだ。
「私だって、大輔くんみたいに素敵な恋人を、檻の中に閉じ込めたくてウズウズしてる」
「……っ」
オフェンスに定評のある大輔くんは、やっぱりディフェンスに課題が残る。
私の攻撃に慣れていない彼は、顔面を真っ赤にして口を一文字に結び鼻息を荒くしていた。
「…もっと跡つけても良い?」
愛しい恋人の首に腕を回しながら、甘えるように尋ねてみる。
「キスマークでも噛み跡でも、なんでも沢山つけて欲しい…」
彼はその太い首筋を無防備に晒して色気を漂わせて答えた。
その首筋に誘われるまま唇を寄せて、気が済むまで私の痕跡を彼に残す。
私たちを包む苺の甘い香りが、より一層濃くなった気がした。
招かれた先のビニールハウスには、先ほどのハウスのものより大粒でツヤツヤと輝く赤い宝石たちがお行儀良く並んでいる。
「他の子たちには申し訳ないけれど、ここの苺は君たちだけに食べて欲しくてねぇ。君たちみたいな、甘い甘い恋人同士にね☆」
パチン、とウィンクをしたロマンスグレーなおじさまに、元来の年上好きな心が淡く跳ねた。
きっとこの紳士は、若い頃から女性の心を掴んで離さない男性だったのだろう。
「では、心ゆくまでご堪能くださいねぇ」
品の良い笑顔のままビニールハウスを出て行く背中に、お礼の声を掛けて私の美丈夫をゆるゆると見上げた。
「………ごめんね」
「なんで希帆さんが謝るの?全面的に俺が、って言うか、俺の過去が悪くない?」
へぅ、と顔面を萎れさせて謝る私に、大輔くんが慌てて言葉を返してくる。
そうだ、そうだ、お前が悪い。
「それは否定しないけど…」
「否定しないんだ。ハハハ!」
「うん。けど、さっきの私は、性格がすっごく悪かったもん。だから、ごめんなさい」
視線を下げて俯いた格好になると、大輔くんがそっと抱きしめてくれた。
トクトクと脈打つ彼の心音が心地良い。
「俺が最低なのは承知の上で、なんだけど。……希帆さん、ヤキモチやいてくれた?」
「焦げ焦げのやつを妬き散らかしたね」
「……すっげえ、嬉しい♡」
大輔くんの私を抱き締める力が増して、息もつけなくなる。
「何が嬉しいんよ!私は自己嫌悪で苦しいのに!ばかちんが!!」
「うん、ごめんね、でも嬉しい。希帆さんが俺のことが好きな証拠だから、妬いてくれて本当に嬉しい」
両手を大輔くんの脇に這わせてパタパタと叩く。
けれど筋肉質なこの人は、私の抵抗なんて出来損ないの猫パンチよりも意に介さない。
私を包む恋人の筋肉は私の中の汚い靄をじわじわと晴らすようだった。
「…王子様の腕の中で私の中のGreen-eyed monsterは天へと召されて行きましたとさ」
しっかりと隆起した胸板に顔を埋めて、大好きな彼の香りを嗅ぎながらポソリと呟いた。
大学時代に専攻した外国文学。その際の課題の戯曲の一節が今日の私にはよく似合う。
「なんだっけそれ、嫉妬の象徴?だっけ」
「…理系のくせになんで知ってるの?」
「一番上の兄が好きで、俺も高校の頃に彼の作品は一通り読んだよ」
「私はあんまり好きになれなくて、課題以外で読んだことないなぁ」
他愛もない話をしながら、私たちはごく自然に唇を合わせた。
一度、二度、三度…
触れる回数が増すたびに深くなる口付けは、お互いの口内に残る甘い果汁を探し求める行為のようだ。
「ん…んん、……はふっ」
「…っ、…希帆さんの口の中、苺味でいっぱいで、まるで希帆さん自身が苺になったみたいだね♡」
「…んんっ♡」
両手で私の頬を包みながら、大輔くんは右手の親指を私の口に挿し入れる。
そのままジュポジュポと音がするほど親指を抽送して、私の上顎と舌の腹を犯した。
「相変わらず唇も真っ赤で、そうやってトロンとした顔も赤く染まって…本当に全身が苺みたい♡」
「…ゃんっ……んむっ…♡」
「俺の身体から出る練乳をかけて…」
「ぷはっ!!それ以上言うなばかちんが!!!」
大輔くんの口から不穏な言葉が漏れ出るのを察知して、親指の口淫から逃れた私は語気を荒くする。
私の美しい恋人は、だんだんとオヤジ臭い発言が増えてきたように思うが、どうしたものやら…。
「ちぇ、やっぱり止められたか~。ヤキモチのどさくさに紛れて流されてくれると思ったんだけどな~」
「どうしてそんなエロオヤジみたいな発言したがるの…」
「希帆さんの照れた顔が見たいからに決まってるじゃん♡」
ちゅいっ、と啄むキスをして、芸術的な笑顔を浮かべる大輔くんは、本当にズルい。
ズルくて、ズルくて、涙が出そうだ。
「…うぐ……」
「え゛!!なんで泣きそうなの!?そんなに嫌だった?」
涙ぐむ私に顔を真っ青にしながら、ワタワタと慌てる姿も格好良い。
あぁ、本当に、顔が良い。
「わ~…、な、泣かないでぇ、希帆さん…。俺、バカなことばっかり言ってごめんね。さっきのことも、本当にごめん」
「…なんか、情緒不安定だ、今の私。嫉妬と、自己嫌悪と、安心したのと、バカな彼氏に対しての怒りでいっぱいだ」
「うん。ごめんね、俺のせいだね。…でも、希帆さんの気持ちが俺でいっぱいなのが嬉しい」
また、この男は…。
こんなにドロドロした気持ちが嬉しいなんて、本当にどうかしている。
私のことを好き過ぎるにもほどがある。
…本当に、ばかちんなんだから。
「…大輔くんは、私を好き過ぎると思う」
「ハハハ!やっと伝わった?けど多分、希帆さんが思ってる100倍は好きだよ」
「……良くもまぁ、そんな甘々な言葉が出ますこと!」
「アハハ~♡照れてる、照れてる~♡」
またもや深く口付けをされて、私の変なスイッチが押されてしまった。
「…大輔くんこそ、私の気持ちに気付いてない」
「え?」
「もう他の女の人が寄ってこないようにしてあげる」
「希帆さ…」
キスの高さに身を屈めた大輔くんの首筋に、ガプリと嚙みついて、じゅうぅぅっ!と吸い上げる。
ちゅぽんっ、と唇を離すと、インナーの端から微妙に見える位置に紅い跡が残った。
私の首筋や胸元や背中や…そのほか至る所に残された大輔くんの痕跡と同じものだ。
「私だって、大輔くんみたいに素敵な恋人を、檻の中に閉じ込めたくてウズウズしてる」
「……っ」
オフェンスに定評のある大輔くんは、やっぱりディフェンスに課題が残る。
私の攻撃に慣れていない彼は、顔面を真っ赤にして口を一文字に結び鼻息を荒くしていた。
「…もっと跡つけても良い?」
愛しい恋人の首に腕を回しながら、甘えるように尋ねてみる。
「キスマークでも噛み跡でも、なんでも沢山つけて欲しい…」
彼はその太い首筋を無防備に晒して色気を漂わせて答えた。
その首筋に誘われるまま唇を寄せて、気が済むまで私の痕跡を彼に残す。
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