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ドキドキ同棲編
友語り
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「そっか~由香里ちゃん、妊娠したのかぁ~」
「妹に先越されるの、私と一緒で嬉しいよ♡」
平日休みの私に合わせて、有給休暇を取ってくれた友人二人と岩盤浴に来ている。
私に友達と呼べる人間は少ない。
少ない、と言うよりもこの二人しかいないと言っても過言じゃない。
高校時代からの縁だから、かれこれ20年近い仲だ。
思春期の私から最近の私まで、二人は私の酸いも甘いも嚙み分ける生き証人だ。
「きーちゃんも新しい彼氏が出来た訳だし、結婚も間近だったり?」
「えぇ?やだやだ~、希帆ちゃん私を置いて行かないで~」
「いやいや、付き合って1ヶ月も経ってないし、そもそも相手は学生だからね」
「そんな悠長なこと言ってらんないよ?知ってる?私たちもう34歳なんだよ?」
ぐぬぅ…
ここまでボカシてきた年齢を、ここでズバッと言うあたり同い年の女友達って感じぃぃぃ!!
「希帆ちゃん、その男の子をガッチリ捕まえるのだ!」
「うんうん。学生って言っても就職先決まってるんでしょ?だったら逃さないように籍でも何でも先に入れちゃいなよ」
火照った身体を冷ますため、冷房がガンガンに効いたクールダウン用の冷却室で、女三人寄って姦しく騒いでいる。
世間で言う「絶妙」な年頃の私たちが集まると、結婚の話と老後の話がつきものだ。
「なんか、結婚の話ってより、新手の詐欺の手口みたいな…」
「きーちゃん、今はなりふり構わず詐欺まがいの手口でも使って結婚しな!」
「だよだよ。『34歳未婚』と『34歳バツイチ』なら後者の方が生き易いって絶対」
「…なんで離婚する前提なんだよ」
「てへへ♡ついつい」
「きーちゃんのこれまでの恋愛事情を知ってる私たちからしたら、当然の考えだよね」
ほんっとに、容赦がないな…。
だからこそ腹を割って話せる大事な存在なのだけど。
「って言うかさ、また『大輔』って名前なの?」
「どんだけ『大輔』フリークなんwwww」
「私はてっきりあのくそボンボンとよりを戻したのかと思っちゃったよ~」
「驚くべき偶然の一致よね。私だって好きで『大輔』って名前に囚われてるわけじゃないよ…」
「まぁね~。私たちもあの時は、きーちゃんはあのくそボンボンと本当に結婚するんだろうなって思ってたし」
「くそボンボンのせいで貴重な3年半を消費しちゃったんだからさ、今回こそ成就させよ!!」
「くそボンボン、くそボンボンって…。一応は私の元カレなんですけど…」
「婚約者居るの黙って近付いて、希帆ちゃんにプロポーズした後でやっぱり婚約者の元に行きます、会社のためです、ってあっさりと去っていた男をくそボンボン以外のなんと呼べばよいの?」
「挙句、海外から未練たらしいLIMEを送って来たかと思うと『俺の第二夫人になって♡(意訳)』って男を、くそボンボンと呼ばずして誰にくそボンボンの称号を与えよと?」
「冷静に言葉にされると心に刺さって抜けないね…ぐふっ……」
第三者に文字に起こされると間違いなく「くそ」男なのに、当事者の私は彼の呪縛を解くのに数年かかってしまった。
LIMEや彼の連絡先を消すのに1年半、彼を忘れるのに更に1年半とちょっと。
「きーちゃんの場合は、くそボンボン以前の男が問題やな」
「くそボンボンの上を行く「くそ」だったもんね。希帆ちゃん美人なのに、なんでこんなに男運ないかな」
「……返す言葉もございません」
もうやめてあげてぇ!
私のヒットポイントはもう0よ!!
マジックポイントはマイナスの数値を叩き出してるわ!!!
「逸弥さんが希帆ちゃんの告白をOKしてくれてさえいたら、もうちょっと違う展開だったろうにねぇ」
「マジでそれなんだよな。どう考えてもきーちゃんのこと好きだと思ったのに」
「…もうこれ以上、私の傷を抉るのをやめてくれないか……」
この間、三富くんのお店で由香里たちと集まった夜も、イツくんとの仲に水を向けられた。
由香里もイツくんと私がまとまるのが順当だと思っていたそうだ。
静かな様子でそれを聞いていた大輔くんも、指先をキンキンに冷たくしていたから、私とイツくんの間に恋愛感情があるんじゃないかと疑っているのかもしれない。
あの場では「私にとってイツくんは第二のお兄ちゃんなんだから、恋愛なんてないよ!」って誤魔化したけど、私は一度、イツくんに振られている。
りゅうにぃ以外で私に優しくしてくれる唯一の存在だったから、私は自然にイツくんを好きになった。
だけど、7歳差は簡単に埋まらず、イツくんが私を女性として見てくれる日は来なかったのだ。
初恋は実らないと言うけれど、私の初恋は世の常に漏れず、ひっそりと幕を下ろした。
「あれからだもんね、希帆ちゃんが変な方向にグレちゃったの」
「それまで優等生だった子がグレると手が付けられないって言うけど、マジだったね」
「え~?私、りゅうにぃたちみたいに喧嘩も煙草もバイクも何もしてなかったよ!ずっと優等生やったやん!!」
「彼女が居る先輩と遊んでみたり、平気で夜の街に連れ出す大人とつるんでみたり、束縛ばっかで自分は浮気三昧の男と半同棲してみたり…これを優等生と言うなら龍臣さんたちは紫綬褒章ものよね」
「大学に入学しても、知らない人間の車にホイホイ乗ったり、かと思えばナンパ男は絶対殺すマンしたり、二回り年上のおじさん相手に結婚を迫ったり、挙句の果てがくそボンボン」
「あぁぁぁぁ、私の友人が私の過去を正確に突き付けてくるぅぅぅ!!!」
冷却室の冷房の風と、身体の内側からせり上がってくる冷気に耐えられずガタガタと身体を震わせる。
私たちは再び遠赤外線でじっくり身体を温めようと、天然ヒマラヤ岩塩を使用したミネラルたっぷりの『烈』の部屋に入った。
平日の昼間だからか私たち以外に誰も居ない。
照明を落とした室内は、岩塩の下からライトアップされた光が心地良い明るさを保っていた。
「私たちなりに喜んでるんだよ、あんな男がきーちゃんの最後の恋なんて、もったいないって思ってたからさ」
「だよだよ!今回こそ幸せ掴もう!!」
「…ん。ありがとう」
枠いっぱいに敷き詰められた岩塩の上に大判のタオルを重ね、私たちはそこにうつ伏せで並ぶ。
熱気を含んだ室内の空気に抱かれて、くたびれたギリギリアラサー三人娘は瞬く間に眠りに落ちた。
「妹に先越されるの、私と一緒で嬉しいよ♡」
平日休みの私に合わせて、有給休暇を取ってくれた友人二人と岩盤浴に来ている。
私に友達と呼べる人間は少ない。
少ない、と言うよりもこの二人しかいないと言っても過言じゃない。
高校時代からの縁だから、かれこれ20年近い仲だ。
思春期の私から最近の私まで、二人は私の酸いも甘いも嚙み分ける生き証人だ。
「きーちゃんも新しい彼氏が出来た訳だし、結婚も間近だったり?」
「えぇ?やだやだ~、希帆ちゃん私を置いて行かないで~」
「いやいや、付き合って1ヶ月も経ってないし、そもそも相手は学生だからね」
「そんな悠長なこと言ってらんないよ?知ってる?私たちもう34歳なんだよ?」
ぐぬぅ…
ここまでボカシてきた年齢を、ここでズバッと言うあたり同い年の女友達って感じぃぃぃ!!
「希帆ちゃん、その男の子をガッチリ捕まえるのだ!」
「うんうん。学生って言っても就職先決まってるんでしょ?だったら逃さないように籍でも何でも先に入れちゃいなよ」
火照った身体を冷ますため、冷房がガンガンに効いたクールダウン用の冷却室で、女三人寄って姦しく騒いでいる。
世間で言う「絶妙」な年頃の私たちが集まると、結婚の話と老後の話がつきものだ。
「なんか、結婚の話ってより、新手の詐欺の手口みたいな…」
「きーちゃん、今はなりふり構わず詐欺まがいの手口でも使って結婚しな!」
「だよだよ。『34歳未婚』と『34歳バツイチ』なら後者の方が生き易いって絶対」
「…なんで離婚する前提なんだよ」
「てへへ♡ついつい」
「きーちゃんのこれまでの恋愛事情を知ってる私たちからしたら、当然の考えだよね」
ほんっとに、容赦がないな…。
だからこそ腹を割って話せる大事な存在なのだけど。
「って言うかさ、また『大輔』って名前なの?」
「どんだけ『大輔』フリークなんwwww」
「私はてっきりあのくそボンボンとよりを戻したのかと思っちゃったよ~」
「驚くべき偶然の一致よね。私だって好きで『大輔』って名前に囚われてるわけじゃないよ…」
「まぁね~。私たちもあの時は、きーちゃんはあのくそボンボンと本当に結婚するんだろうなって思ってたし」
「くそボンボンのせいで貴重な3年半を消費しちゃったんだからさ、今回こそ成就させよ!!」
「くそボンボン、くそボンボンって…。一応は私の元カレなんですけど…」
「婚約者居るの黙って近付いて、希帆ちゃんにプロポーズした後でやっぱり婚約者の元に行きます、会社のためです、ってあっさりと去っていた男をくそボンボン以外のなんと呼べばよいの?」
「挙句、海外から未練たらしいLIMEを送って来たかと思うと『俺の第二夫人になって♡(意訳)』って男を、くそボンボンと呼ばずして誰にくそボンボンの称号を与えよと?」
「冷静に言葉にされると心に刺さって抜けないね…ぐふっ……」
第三者に文字に起こされると間違いなく「くそ」男なのに、当事者の私は彼の呪縛を解くのに数年かかってしまった。
LIMEや彼の連絡先を消すのに1年半、彼を忘れるのに更に1年半とちょっと。
「きーちゃんの場合は、くそボンボン以前の男が問題やな」
「くそボンボンの上を行く「くそ」だったもんね。希帆ちゃん美人なのに、なんでこんなに男運ないかな」
「……返す言葉もございません」
もうやめてあげてぇ!
私のヒットポイントはもう0よ!!
マジックポイントはマイナスの数値を叩き出してるわ!!!
「逸弥さんが希帆ちゃんの告白をOKしてくれてさえいたら、もうちょっと違う展開だったろうにねぇ」
「マジでそれなんだよな。どう考えてもきーちゃんのこと好きだと思ったのに」
「…もうこれ以上、私の傷を抉るのをやめてくれないか……」
この間、三富くんのお店で由香里たちと集まった夜も、イツくんとの仲に水を向けられた。
由香里もイツくんと私がまとまるのが順当だと思っていたそうだ。
静かな様子でそれを聞いていた大輔くんも、指先をキンキンに冷たくしていたから、私とイツくんの間に恋愛感情があるんじゃないかと疑っているのかもしれない。
あの場では「私にとってイツくんは第二のお兄ちゃんなんだから、恋愛なんてないよ!」って誤魔化したけど、私は一度、イツくんに振られている。
りゅうにぃ以外で私に優しくしてくれる唯一の存在だったから、私は自然にイツくんを好きになった。
だけど、7歳差は簡単に埋まらず、イツくんが私を女性として見てくれる日は来なかったのだ。
初恋は実らないと言うけれど、私の初恋は世の常に漏れず、ひっそりと幕を下ろした。
「あれからだもんね、希帆ちゃんが変な方向にグレちゃったの」
「それまで優等生だった子がグレると手が付けられないって言うけど、マジだったね」
「え~?私、りゅうにぃたちみたいに喧嘩も煙草もバイクも何もしてなかったよ!ずっと優等生やったやん!!」
「彼女が居る先輩と遊んでみたり、平気で夜の街に連れ出す大人とつるんでみたり、束縛ばっかで自分は浮気三昧の男と半同棲してみたり…これを優等生と言うなら龍臣さんたちは紫綬褒章ものよね」
「大学に入学しても、知らない人間の車にホイホイ乗ったり、かと思えばナンパ男は絶対殺すマンしたり、二回り年上のおじさん相手に結婚を迫ったり、挙句の果てがくそボンボン」
「あぁぁぁぁ、私の友人が私の過去を正確に突き付けてくるぅぅぅ!!!」
冷却室の冷房の風と、身体の内側からせり上がってくる冷気に耐えられずガタガタと身体を震わせる。
私たちは再び遠赤外線でじっくり身体を温めようと、天然ヒマラヤ岩塩を使用したミネラルたっぷりの『烈』の部屋に入った。
平日の昼間だからか私たち以外に誰も居ない。
照明を落とした室内は、岩塩の下からライトアップされた光が心地良い明るさを保っていた。
「私たちなりに喜んでるんだよ、あんな男がきーちゃんの最後の恋なんて、もったいないって思ってたからさ」
「だよだよ!今回こそ幸せ掴もう!!」
「…ん。ありがとう」
枠いっぱいに敷き詰められた岩塩の上に大判のタオルを重ね、私たちはそこにうつ伏せで並ぶ。
熱気を含んだ室内の空気に抱かれて、くたびれたギリギリアラサー三人娘は瞬く間に眠りに落ちた。
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