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ドキドキ同棲編
龍臣の贖罪②【龍臣視点】
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次の日、逸弥と一緒に家に帰った。
別に一人で帰れなかった訳じゃない。
逸弥が面白がって勝手について来たんだ。
「小3って今、9歳か?美人になる要素があるなら、俺の彼女にしてやるよー」
「アホか!気持ち悪ぃこと言うなよ。…てか、あんなガリガリな奴、女って感じじゃねぇよ」
「冷たいねぇ。せっかく出来た妹じゃん。せめてオモチャにするくらいは可愛がってやれよ~」
「お前の方がタチ悪ぃよ、何だよオモチャって…」
逸弥と軽口を叩き合いながら玄関を開けると、薄暗い室内で何かが蠢くのが見えた。
反射的に拳を握り、蠢いた物体に歩み寄る。
パチン
逸弥が室内灯のスイッチを押し、薄暗い室内に明々と光が満ちた。
そこで俺は、モゾモゾと身じろぐ物体が昨日のガリガリだと気付く。
「……何してんだよ、電気も点けねぇで」
17時前と言えど、冬の夜は早い。
しかも我が家は日の差さないボロアパートだから、昼間でも電気がないと薄暗いくらいだ。
そんな中でひっそりと息を殺したように生息するガリガリが、とてつもなく歪で気持ち悪かった。
「…何とか言えよ。お前、口付いてねぇのかよ」
「……っ………っっ」
拳を握り締めたまま、俺の足元で奇妙に身を縮こまらせるガリガリを見下ろす。
ガリガリの目はやはりギョロついていて、髪の毛も乱雑な分、下手な呪いの人形よりもそれらしかった。
「龍臣、あんま虐めんなって。そんな言い方されたら、出せる言葉も出なくなるだろ~?」
玄関先で成り行きを見守っていた逸弥が、ため息と共に俺に言葉をかける。
靴を脱いで俺たちの側にやって来た逸弥は、しゃがんでガリガリと目線を合わせると、人好きのする笑顔を見せた。
「名前は?言える?」
ガリガリの視線が俺から逸弥に移される。
少し考えた後、ガリガリがその荒れてカサカサの唇を開いた。
「……きほです。おばさんは、おしごとに、いきました。でんきは、つけていいか、わからなかったから、つけませんでした。ごめんなさい」
喋り出すとスラスラと言葉が出るものの、俺たちから視線を外し、ギョロギョロと忙しなく彷徨わせている。
「キホちゃん?へぇ、可愛い名前だね。どんな漢字書くの?」
「…っ……。かんじは、わかりません。じも、かけません。ごめんなさい」
「…?まだ学校で習ってない漢字ってこと?」
「………がっこう?は、いってません。きほは、ゆかりのおせわができます。ゆかりは、だいじな、いもうとだから、きほがまもらないといけません。ごめんなさい」
そこまで聞いて逸弥が俺を見上げる。
俺は逸弥の視線に目で答えながら、目の前のガリガリをもう一度見下ろす。
小学校3年生にしては小さ過ぎる。
何より骨と皮しかないくらいに細い。
昨日は気付かなかったが、腕に何箇所も痣がある。
「…お前、何でずっと謝ってんだよ」
「ご、ごめんなさい!!きほがわるいです!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「ヲイ、そうじゃねぇよ…落ち着け……」
俯く顔を上向かせようと、握り締めた拳を開いてガリガリの頭上へかかげる。
途端にガリガリが頭を腕で抱えて、身を萎縮させた。
「た……たたかないで…」
絞り出すようなその声は、俺に向けてのものにも、他の誰かに向けてのものにも聞こえる。
「叩かねぇよ…クソがっ!」
猛烈な怒りを抑え切れず、ガリガリの頭を撫でるはずだった手を畳に打ち付けた。
その行動のせいで、ガリガリは更に怯えてしまう。
「…龍臣」
「……分かってるよ…ヲイ、ガリガリ」
「キホちゃんだよ、龍臣」
「…チッ!……おい、キホ」
ガリガリが頭を抱えた腕の隙間からギョロつく目で俺を見上げる。
「………腹、減ってないか?」
ガリガリのこけた頬がフルフルと震えた。
この細っこい身体の中から、返すべき言葉を懸命に探しているのだと思った。
「減ってるなら、俺と一緒に飯食いに行くぞ」
「………」
呆然とした顔で俺の顔を見つめるガリガリが、どうしようもなくみすぼらしくて、俺は真っ当に目を向けることが出来ない。
「…きほも、ごはん、たべて、いいの?」
その言葉を聞いた俺は、情けないけれど、少し泣いてしまった。
この小さくて弱い生き物を、どうして見捨てられるんだろう。
俺は弱いけれど、もしかしたら妹2人分くらい、抱えてやれるかも知れない。
こみあげてくるものを飲み込みながら、俺は静かにそう思った。
別に一人で帰れなかった訳じゃない。
逸弥が面白がって勝手について来たんだ。
「小3って今、9歳か?美人になる要素があるなら、俺の彼女にしてやるよー」
「アホか!気持ち悪ぃこと言うなよ。…てか、あんなガリガリな奴、女って感じじゃねぇよ」
「冷たいねぇ。せっかく出来た妹じゃん。せめてオモチャにするくらいは可愛がってやれよ~」
「お前の方がタチ悪ぃよ、何だよオモチャって…」
逸弥と軽口を叩き合いながら玄関を開けると、薄暗い室内で何かが蠢くのが見えた。
反射的に拳を握り、蠢いた物体に歩み寄る。
パチン
逸弥が室内灯のスイッチを押し、薄暗い室内に明々と光が満ちた。
そこで俺は、モゾモゾと身じろぐ物体が昨日のガリガリだと気付く。
「……何してんだよ、電気も点けねぇで」
17時前と言えど、冬の夜は早い。
しかも我が家は日の差さないボロアパートだから、昼間でも電気がないと薄暗いくらいだ。
そんな中でひっそりと息を殺したように生息するガリガリが、とてつもなく歪で気持ち悪かった。
「…何とか言えよ。お前、口付いてねぇのかよ」
「……っ………っっ」
拳を握り締めたまま、俺の足元で奇妙に身を縮こまらせるガリガリを見下ろす。
ガリガリの目はやはりギョロついていて、髪の毛も乱雑な分、下手な呪いの人形よりもそれらしかった。
「龍臣、あんま虐めんなって。そんな言い方されたら、出せる言葉も出なくなるだろ~?」
玄関先で成り行きを見守っていた逸弥が、ため息と共に俺に言葉をかける。
靴を脱いで俺たちの側にやって来た逸弥は、しゃがんでガリガリと目線を合わせると、人好きのする笑顔を見せた。
「名前は?言える?」
ガリガリの視線が俺から逸弥に移される。
少し考えた後、ガリガリがその荒れてカサカサの唇を開いた。
「……きほです。おばさんは、おしごとに、いきました。でんきは、つけていいか、わからなかったから、つけませんでした。ごめんなさい」
喋り出すとスラスラと言葉が出るものの、俺たちから視線を外し、ギョロギョロと忙しなく彷徨わせている。
「キホちゃん?へぇ、可愛い名前だね。どんな漢字書くの?」
「…っ……。かんじは、わかりません。じも、かけません。ごめんなさい」
「…?まだ学校で習ってない漢字ってこと?」
「………がっこう?は、いってません。きほは、ゆかりのおせわができます。ゆかりは、だいじな、いもうとだから、きほがまもらないといけません。ごめんなさい」
そこまで聞いて逸弥が俺を見上げる。
俺は逸弥の視線に目で答えながら、目の前のガリガリをもう一度見下ろす。
小学校3年生にしては小さ過ぎる。
何より骨と皮しかないくらいに細い。
昨日は気付かなかったが、腕に何箇所も痣がある。
「…お前、何でずっと謝ってんだよ」
「ご、ごめんなさい!!きほがわるいです!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「ヲイ、そうじゃねぇよ…落ち着け……」
俯く顔を上向かせようと、握り締めた拳を開いてガリガリの頭上へかかげる。
途端にガリガリが頭を腕で抱えて、身を萎縮させた。
「た……たたかないで…」
絞り出すようなその声は、俺に向けてのものにも、他の誰かに向けてのものにも聞こえる。
「叩かねぇよ…クソがっ!」
猛烈な怒りを抑え切れず、ガリガリの頭を撫でるはずだった手を畳に打ち付けた。
その行動のせいで、ガリガリは更に怯えてしまう。
「…龍臣」
「……分かってるよ…ヲイ、ガリガリ」
「キホちゃんだよ、龍臣」
「…チッ!……おい、キホ」
ガリガリが頭を抱えた腕の隙間からギョロつく目で俺を見上げる。
「………腹、減ってないか?」
ガリガリのこけた頬がフルフルと震えた。
この細っこい身体の中から、返すべき言葉を懸命に探しているのだと思った。
「減ってるなら、俺と一緒に飯食いに行くぞ」
「………」
呆然とした顔で俺の顔を見つめるガリガリが、どうしようもなくみすぼらしくて、俺は真っ当に目を向けることが出来ない。
「…きほも、ごはん、たべて、いいの?」
その言葉を聞いた俺は、情けないけれど、少し泣いてしまった。
この小さくて弱い生き物を、どうして見捨てられるんだろう。
俺は弱いけれど、もしかしたら妹2人分くらい、抱えてやれるかも知れない。
こみあげてくるものを飲み込みながら、俺は静かにそう思った。
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