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ドキドキ同棲編

龍臣の贖罪①【龍臣視点】

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その日はこの土地には珍しく雪が積もっていて、苦労して帰宅したのを覚えている。
俺は高校1年生で、いわゆる思春期と言うやつで、だから、…その………。
………まぁ…それは言い訳にはならない。
要するに、俺は『クソガキ』だったって話だ。


「はぁ?ヲイこら、クソババア!!勝手に決めてんじゃねぇよ!!!」

積もった雪に足を取られながら、靴をびしゃびしゃにしてやっと帰宅した俺は、腹が減っていたし何より気が立っていた。
ただでさえ最近は思春期特有の苛立たしさに身を費やしているのに、今夜は肉体的疲労と精神的疲労が重なったのだ。
学校から帰宅したら、いきなり妹が出来ていた。それも2人。
一人はガリガリで棒のようななりのガキ。小学3年らしいが、もっと小さく見える。
もう一人は1歳児の本当のガキだ。
もちろん俺と血が繋がっている訳じゃない。
俺のババアが経営しているクラブのホステスの子供を、ババアが引き取るって話だった。

「舐めた口叩くんじゃないよ!アタシがクソババアならお前はクソガキだ!!」
「うるせぇよババア!このクソ狭い部屋にガキ2人も追加なんて正気か、ボケェ!!!」
「うっせぇのはお前だバカ!由香里ユカリが起きちまうだろぉが!!!ヲラッ!!!」
「痛ぇ!!」

ゴチンッ、と物々しい音を響かせながら、ババアの拳が俺の頭に落とされた。
目の前に星が飛ぶ。チカチカと光って目がくらんだ。
ババアはガキが寝ているベビーベッドに駆け寄って、その寝息を確かめている。
ガリガリのガキはモヤシみたいな細い腕で自分の頭を抱えながら、こちらを伺っていた。
痩せ過ぎて目の周りの肉が落ちくぼんで、なにかの漫画で見た悪霊みたいに目がギョロギョロしている。

龍臣タツオミ!お前がお兄ちゃんなんだから、お前からしっかり挨拶しなっ!」
「なんだよお兄ちゃんって!気持ち悪ぃ!!こんな気味の悪い妹なんていらねぇよ!!!」

苛立ち紛れに、近くにあったゴミ箱を蹴り上げる。
運悪く、ガリガリの方に飛んで行った。
当たらなかったのに、ガリガリは大袈裟に怯えて大声で謝り始める。

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!きほがわるいです!!!ごめんなさいっ!!!!」

ガリガリは自分の身体を庇うようにしながら、ブルブルと震えて頭を畳に擦り付けた。
怯えながらも俺に土下座をしているのだと気付く。
ガリガリのガキが、ただでさえ小さいガキが、更に身を縮こまらせて顔面を畳に圧し付けるようにしている。
初めて目にする痛ましい光景に、驚いて声も出せないでいると、ババアがガリガリを抱き上げた。

「希帆!大丈夫、大丈夫だから。怖くない、怖くないよ…。悪いのはおばちゃんさ……ごめんね、ごめんねぇ…ぅっ……」

ババアが泣く姿を、その時初めて見た気がする。
震え続けるガリガリを抱いて、ババアがボロボロと涙を流した。

「大丈夫、これからはおばちゃんたちが守ってやるから…安心しな……守るからね……」

ババアがガリガリの背中を優しく叩く。
だんだんと震えが収まり、小さな寝息が聞こえ始めた。

「…この子はね、ずっと自分の父親に暴力を振るわれて生きてきたんだよ。まともに食べれず、体重も…こん…なに軽くて……」

話の途中でババアがまた涙ぐむ。
俺は何も言わなかった。言えなかった。

「無理を言うようだけど、アタシはこの子たちを守ってやりたいんだよ…分かってくれないかい、龍臣…」
「…別に………勝手にすれば良いだろっ!」

そのまま俺は家を飛び出した。
もしかしたら、俺が家を飛び出したことで、ババアがまた泣いてるかもしれないと思いながらも、家には戻らず逸弥イツヤの家を訪ねる。
金持ちの息子の逸弥は、雪でびしょ濡れの俺に、風呂と着替えと豪華な夕食を提供しながら面白そうに尋ねてきた。

「で?その妹って、顔は可愛いのか?」
「妹じゃねぇって!」
「え~?冷たいんじゃねぇの?お・に・い・さ・ま?」
「……マジ勘弁しろよ。俺はアイツらの兄貴じゃねぇよ」
「うわ、マジ切れかよ……。けど龍臣、その子ら可哀想な境遇なんだろ?ちょっとは優しくしてやったら?」
「……知るかよ」

下手したら俺の家の2週間分の食費がかかってそうな飯をカッ食らう。
食うだけ食って満足したら眠くなった。

「逸弥、今日は泊めてくれ」
「別に良いけど、艶子さんに怒られるのだけは勘弁してくれよ」
「ババアとか関係ねぇだろ」
「……出たよ、出たよ、思春期のお子ちゃま~」
「ヲイ!」

ドタバタと逸弥と掴み合いになる。
最終的に俺はヘッドロックをかけられて、逸弥の腕をタップした。

「龍臣は、自分の身内にはとことん甘いけど、外側の人間にはちっとも優しくない。そんなことじゃ、その内誰かの恨みを買うぞ」
「売ってるもんなら買ってやるよ!俺は俺の腕の中のもん守るので精一杯なんだよ。他人に構ってられるか!」
「お前には可愛い、可愛い彼女の美由希ミユキちゃんが居るもんな~」

揶揄うような笑みを浮かべて、逸弥が仰々ぎょうぎょうしく首を傾げた。

「…チッ!……お前も俺の身内だろーがっ!!」

逸弥の肩に拳を打ち付けながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
コイツはいつも人を食ったような態度だ。
腹が立つけれど、俺の唯一の親友である。
俺は弱いけれど、ババアと美由希と、それから逸弥くらいは守ってみせる。
あとの他人までの面倒は見れない。


だから、ガリガリもその妹のガキも、俺には何も関係ない。
16歳のガキだった俺は、本気でそう思っていた。
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