99 / 143
ドキドキ同棲編
龍臣の贖罪①【龍臣視点】
しおりを挟む
その日はこの土地には珍しく雪が積もっていて、苦労して帰宅したのを覚えている。
俺は高校1年生で、いわゆる思春期と言うやつで、だから、…その………。
………まぁ…それは言い訳にはならない。
要するに、俺は『クソガキ』だったって話だ。
「はぁ?ヲイこら、クソババア!!勝手に決めてんじゃねぇよ!!!」
積もった雪に足を取られながら、靴をびしゃびしゃにしてやっと帰宅した俺は、腹が減っていたし何より気が立っていた。
ただでさえ最近は思春期特有の苛立たしさに身を費やしているのに、今夜は肉体的疲労と精神的疲労が重なったのだ。
学校から帰宅したら、いきなり妹が出来ていた。それも2人。
一人はガリガリで棒のような形のガキ。小学3年らしいが、もっと小さく見える。
もう一人は1歳児の本当のガキだ。
もちろん俺と血が繋がっている訳じゃない。
俺のババアが経営しているクラブのホステスの子供を、ババアが引き取るって話だった。
「舐めた口叩くんじゃないよ!アタシがクソババアならお前はクソガキだ!!」
「うるせぇよババア!このクソ狭い部屋にガキ2人も追加なんて正気か、ボケェ!!!」
「うっせぇのはお前だバカ!由香里が起きちまうだろぉが!!!ヲラッ!!!」
「痛ぇ!!」
ゴチンッ、と物々しい音を響かせながら、ババアの拳が俺の頭に落とされた。
目の前に星が飛ぶ。チカチカと光って目がくらんだ。
ババアはガキが寝ているベビーベッドに駆け寄って、その寝息を確かめている。
ガリガリのガキはモヤシみたいな細い腕で自分の頭を抱えながら、こちらを伺っていた。
痩せ過ぎて目の周りの肉が落ちくぼんで、なにかの漫画で見た悪霊みたいに目がギョロギョロしている。
「龍臣!お前がお兄ちゃんなんだから、お前からしっかり挨拶しなっ!」
「なんだよお兄ちゃんって!気持ち悪ぃ!!こんな気味の悪い妹なんていらねぇよ!!!」
苛立ち紛れに、近くにあったゴミ箱を蹴り上げる。
運悪く、ガリガリの方に飛んで行った。
当たらなかったのに、ガリガリは大袈裟に怯えて大声で謝り始める。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!きほがわるいです!!!ごめんなさいっ!!!!」
ガリガリは自分の身体を庇うようにしながら、ブルブルと震えて頭を畳に擦り付けた。
怯えながらも俺に土下座をしているのだと気付く。
ガリガリのガキが、ただでさえ小さいガキが、更に身を縮こまらせて顔面を畳に圧し付けるようにしている。
初めて目にする痛ましい光景に、驚いて声も出せないでいると、ババアがガリガリを抱き上げた。
「希帆!大丈夫、大丈夫だから。怖くない、怖くないよ…。悪いのはおばちゃんさ……ごめんね、ごめんねぇ…ぅっ……」
ババアが泣く姿を、その時初めて見た気がする。
震え続けるガリガリを抱いて、ババアがボロボロと涙を流した。
「大丈夫、これからはおばちゃんたちが守ってやるから…安心しな……守るからね……」
ババアがガリガリの背中を優しく叩く。
だんだんと震えが収まり、小さな寝息が聞こえ始めた。
「…この子はね、ずっと自分の父親に暴力を振るわれて生きてきたんだよ。まともに食べれず、体重も…こん…なに軽くて……」
話の途中でババアがまた涙ぐむ。
俺は何も言わなかった。言えなかった。
「無理を言うようだけど、アタシはこの子たちを守ってやりたいんだよ…分かってくれないかい、龍臣…」
「…別に………勝手にすれば良いだろっ!」
そのまま俺は家を飛び出した。
もしかしたら、俺が家を飛び出したことで、ババアがまた泣いてるかもしれないと思いながらも、家には戻らず逸弥の家を訪ねる。
金持ちの息子の逸弥は、雪でびしょ濡れの俺に、風呂と着替えと豪華な夕食を提供しながら面白そうに尋ねてきた。
「で?その妹って、顔は可愛いのか?」
「妹じゃねぇって!」
「え~?冷たいんじゃねぇの?お・に・い・さ・ま?」
「……マジ勘弁しろよ。俺はアイツらの兄貴じゃねぇよ」
「うわ、マジ切れかよ……。けど龍臣、その子ら可哀想な境遇なんだろ?ちょっとは優しくしてやったら?」
「……知るかよ」
下手したら俺の家の2週間分の食費がかかってそうな飯をカッ食らう。
食うだけ食って満足したら眠くなった。
「逸弥、今日は泊めてくれ」
「別に良いけど、艶子さんに怒られるのだけは勘弁してくれよ」
「ババアとか関係ねぇだろ」
「……出たよ、出たよ、思春期のお子ちゃま~」
「ヲイ!」
ドタバタと逸弥と掴み合いになる。
最終的に俺はヘッドロックをかけられて、逸弥の腕をタップした。
「龍臣は、自分の身内にはとことん甘いけど、外側の人間にはちっとも優しくない。そんなことじゃ、その内誰かの恨みを買うぞ」
「売ってるもんなら買ってやるよ!俺は俺の腕の中のもん守るので精一杯なんだよ。他人に構ってられるか!」
「お前には可愛い、可愛い彼女の美由希ちゃんが居るもんな~」
揶揄うような笑みを浮かべて、逸弥が仰々しく首を傾げた。
「…チッ!……お前も俺の身内だろーがっ!!」
逸弥の肩に拳を打ち付けながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
コイツはいつも人を食ったような態度だ。
腹が立つけれど、俺の唯一の親友である。
俺は弱いけれど、ババアと美由希と、それから逸弥くらいは守ってみせる。
あとの他人までの面倒は見れない。
だから、ガリガリもその妹のガキも、俺には何も関係ない。
16歳のガキだった俺は、本気でそう思っていた。
俺は高校1年生で、いわゆる思春期と言うやつで、だから、…その………。
………まぁ…それは言い訳にはならない。
要するに、俺は『クソガキ』だったって話だ。
「はぁ?ヲイこら、クソババア!!勝手に決めてんじゃねぇよ!!!」
積もった雪に足を取られながら、靴をびしゃびしゃにしてやっと帰宅した俺は、腹が減っていたし何より気が立っていた。
ただでさえ最近は思春期特有の苛立たしさに身を費やしているのに、今夜は肉体的疲労と精神的疲労が重なったのだ。
学校から帰宅したら、いきなり妹が出来ていた。それも2人。
一人はガリガリで棒のような形のガキ。小学3年らしいが、もっと小さく見える。
もう一人は1歳児の本当のガキだ。
もちろん俺と血が繋がっている訳じゃない。
俺のババアが経営しているクラブのホステスの子供を、ババアが引き取るって話だった。
「舐めた口叩くんじゃないよ!アタシがクソババアならお前はクソガキだ!!」
「うるせぇよババア!このクソ狭い部屋にガキ2人も追加なんて正気か、ボケェ!!!」
「うっせぇのはお前だバカ!由香里が起きちまうだろぉが!!!ヲラッ!!!」
「痛ぇ!!」
ゴチンッ、と物々しい音を響かせながら、ババアの拳が俺の頭に落とされた。
目の前に星が飛ぶ。チカチカと光って目がくらんだ。
ババアはガキが寝ているベビーベッドに駆け寄って、その寝息を確かめている。
ガリガリのガキはモヤシみたいな細い腕で自分の頭を抱えながら、こちらを伺っていた。
痩せ過ぎて目の周りの肉が落ちくぼんで、なにかの漫画で見た悪霊みたいに目がギョロギョロしている。
「龍臣!お前がお兄ちゃんなんだから、お前からしっかり挨拶しなっ!」
「なんだよお兄ちゃんって!気持ち悪ぃ!!こんな気味の悪い妹なんていらねぇよ!!!」
苛立ち紛れに、近くにあったゴミ箱を蹴り上げる。
運悪く、ガリガリの方に飛んで行った。
当たらなかったのに、ガリガリは大袈裟に怯えて大声で謝り始める。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!きほがわるいです!!!ごめんなさいっ!!!!」
ガリガリは自分の身体を庇うようにしながら、ブルブルと震えて頭を畳に擦り付けた。
怯えながらも俺に土下座をしているのだと気付く。
ガリガリのガキが、ただでさえ小さいガキが、更に身を縮こまらせて顔面を畳に圧し付けるようにしている。
初めて目にする痛ましい光景に、驚いて声も出せないでいると、ババアがガリガリを抱き上げた。
「希帆!大丈夫、大丈夫だから。怖くない、怖くないよ…。悪いのはおばちゃんさ……ごめんね、ごめんねぇ…ぅっ……」
ババアが泣く姿を、その時初めて見た気がする。
震え続けるガリガリを抱いて、ババアがボロボロと涙を流した。
「大丈夫、これからはおばちゃんたちが守ってやるから…安心しな……守るからね……」
ババアがガリガリの背中を優しく叩く。
だんだんと震えが収まり、小さな寝息が聞こえ始めた。
「…この子はね、ずっと自分の父親に暴力を振るわれて生きてきたんだよ。まともに食べれず、体重も…こん…なに軽くて……」
話の途中でババアがまた涙ぐむ。
俺は何も言わなかった。言えなかった。
「無理を言うようだけど、アタシはこの子たちを守ってやりたいんだよ…分かってくれないかい、龍臣…」
「…別に………勝手にすれば良いだろっ!」
そのまま俺は家を飛び出した。
もしかしたら、俺が家を飛び出したことで、ババアがまた泣いてるかもしれないと思いながらも、家には戻らず逸弥の家を訪ねる。
金持ちの息子の逸弥は、雪でびしょ濡れの俺に、風呂と着替えと豪華な夕食を提供しながら面白そうに尋ねてきた。
「で?その妹って、顔は可愛いのか?」
「妹じゃねぇって!」
「え~?冷たいんじゃねぇの?お・に・い・さ・ま?」
「……マジ勘弁しろよ。俺はアイツらの兄貴じゃねぇよ」
「うわ、マジ切れかよ……。けど龍臣、その子ら可哀想な境遇なんだろ?ちょっとは優しくしてやったら?」
「……知るかよ」
下手したら俺の家の2週間分の食費がかかってそうな飯をカッ食らう。
食うだけ食って満足したら眠くなった。
「逸弥、今日は泊めてくれ」
「別に良いけど、艶子さんに怒られるのだけは勘弁してくれよ」
「ババアとか関係ねぇだろ」
「……出たよ、出たよ、思春期のお子ちゃま~」
「ヲイ!」
ドタバタと逸弥と掴み合いになる。
最終的に俺はヘッドロックをかけられて、逸弥の腕をタップした。
「龍臣は、自分の身内にはとことん甘いけど、外側の人間にはちっとも優しくない。そんなことじゃ、その内誰かの恨みを買うぞ」
「売ってるもんなら買ってやるよ!俺は俺の腕の中のもん守るので精一杯なんだよ。他人に構ってられるか!」
「お前には可愛い、可愛い彼女の美由希ちゃんが居るもんな~」
揶揄うような笑みを浮かべて、逸弥が仰々しく首を傾げた。
「…チッ!……お前も俺の身内だろーがっ!!」
逸弥の肩に拳を打ち付けながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
コイツはいつも人を食ったような態度だ。
腹が立つけれど、俺の唯一の親友である。
俺は弱いけれど、ババアと美由希と、それから逸弥くらいは守ってみせる。
あとの他人までの面倒は見れない。
だから、ガリガリもその妹のガキも、俺には何も関係ない。
16歳のガキだった俺は、本気でそう思っていた。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる