上 下
42 / 143
ハラハラ同居編

オスの開き直り【大輔視点】

しおりを挟む
最初の1回目こそ、自分の欲求の為に身体が動いてしまったけれど、希帆さんの指導もあって、2回目からは希帆さんの事をズクズクのメロメロに出来たと思う。
キスをする度に、希帆さんはキュンキュンと俺を締め上げた。
すっかり俺の形になってしまった希帆さんの中に、許される限り留まりたい。
なんどでも、なんどでも、その中に俺を刻みたい。
希帆さんから離れると同時に、希帆さんと繋がりたくなる。
理性の鍵がバカになってしまったみたいだ。

「…私バカな男は嫌いなんだけど」

そう言いながらキスをくれた希帆さんが、花のように笑うのを泣きそうになりながら見ていた。

希帆さんには笑顔が似合う。
どんな顔も可愛いけれど、ふにゃりと笑う希帆さんは頼りなくて、抱き締めてあげたくなる。
希帆さんを笑顔にしたいと思う。
けれど、時々どうしても泣かせてしまいたくもなる。



「私が初めての相手だからって特別視するんじゃなくてさ。好きな人と付き合いなさい」

希帆さんの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
俺はどうしたってワンナイト身体だけの相手なのだろうか。
同じ『大輔』でも、希帆さんの恋人にはなれないと言うのか。
…逃がさない。
俺のことを好きにならないなら、希帆さんのことを閉じ込めて、身体だけでも繋がっていよう。
身体の欲求に従順な希帆さんだから、その内きっと陥落するはずだ。
身体目的で抱いて良いんでしょう?
少し乱暴になるけど我慢して。
希帆さんから言い出したことだもの。
『身体だけの関係』だって。

「…そうやって傷つけるなら、最初から優しくしないでよぉ………!」

ハッと我に返ると、しゃくり上げながら大粒の涙を流す希帆さんが居た。
俺に対しての恐怖心からか、身体を細かく震わせている。
慌てて抱き起こして、背中や髪を撫でた。
こんな風に泣かせたいんじゃない。
宝物として大切に大切に扱って、幸せな気持ちで希帆さんをいっぱいに満たして、嬉しさが涙として溢れ出てくるように泣かせたいんだ。
悲しみや怖さで泣かせたい訳じゃない。
もう二度と同じ過ちは繰り返さないと自分に誓う。

だって、やっと分かった。
俺は希帆さんが好きだ。
ずっと分からなかった感情を、希帆さんが教えてくれた。
希帆さんは俺が童貞を捧げた相手に、心まで釣られてしまったのだと言うが、それは違う。
身体を繋げるずっと前から、俺は希帆さんに恋をしていた。
きっと、あの夜から、希帆さんを好きになっていたんだ。
希帆さんに、あんな風に一途に想われたら、俺はどうなるんだろう…。
そう考えた瞬間から、俺の初恋は始まっていたんだ。
そしてその初恋は、たぶん、これからずっと続いていく。
希帆さんは、俺が告白の時に言った「結婚を前提にお付き合いしてください」という言葉は冗談だと思っている。
もちろん冗談なんかじゃない。
希帆さんは、俺「が」希帆さんに捕まったと思っているけれど、逆だ。
俺「に」希帆さんが捕まったんだ。
希帆さんがそれを知るのは、俺と結婚した後になるだろう。
だって俺は希帆さんを逃してやる気は毛頭ない。
それこそ泣いたって喚いたって、手を放してやるつもりは1ミリも存在しない。
もちろん、俺と別れたいなんて思わないように、ズクズクに甘やかして可愛がるつもりだ。
希帆さんは快楽に弱いところもあるから、身体も俺以外じゃ満足できないようにしなくちゃね。

希帆さんが俺の罠にかかってしまったんだから仕方ない。
これから先、希帆さんに出来ることは、黙って俺に可愛がられることと、俺を好きでいることだけだ。

こんな執着男に捕まって、希帆さんはなんて可哀そうなんだろう。
ごめんね希帆さん。
でも逃がしてあげない。
その分たくさん愛を注ぐから、許してね?

可愛い、可愛い、俺の希帆さん。
俺に捕まったと気付く時には、希帆さんは既に俺の腹の中。



*********************



「え゛!そんな前から、私のこと知ってたの?」

お昼間に目を覚ました希帆さんに、朝ご飯兼お昼ご飯を食べさせている間に、俺の知っている希帆さんの昔話を終える。
もちろん、俺が希帆さんを一生離さないつもりでいる算段は伏せて話した。

「なんか…ズルい。私も昔の大輔くん覚えておきたかったのに…。全然記憶にない…。やだ…」

口元に食事の欠片をつけて、ウルウルと瞳をにじませて上目遣いをする希帆さんは、息を飲むほど可愛い。
例によってベッドで寛ぎながら、俺特製のオムレツを希帆さんに食べさせている。
一緒に暮らし始めて、根気強く「あーん♡」を繰り返した結果、希帆さんはお腹を空かせた雛鳥のように、素直に口を開いてくれるようになった。
希帆さんは食べこぼしが凄い。もちろん、それも可愛い。本人はすごく気にしているけど。
だから「ベッドで食事するときは、俺が食べさせた方が早いでしょ?」と説得して二日目の朝にもフレンチトーストを食べさせたのだ。
「恋愛なんてしない!」と頑なだった希帆さんは、初めは警戒心がバリバリで、保護されたばかりの野良猫みたいだった。
それが今や「次はブロッコリー食べさせて、あーん」とリクエストして自ら口を開くまでになったのだから、感動はひとしおだ。
文字通り猫可愛がりしたくなるのも当然である。

「私だって色んな大輔くんを知っていたいのに…。悔しい…」

黄色い玉子の欠片を付けたままで、口を「むぅ」と結び、頬を膨らませた希帆さんは、確実に世界一可愛い俺の恋人だ。

「…希帆さんのデレは心臓に悪いね」

ギュウッ!と締め上げられような痛みに、思わず胸元を押さえながら項垂れる。
こんな状態で、この先果たして、希帆さんを捕らえたままでいられるのかはなはだ不安だ。
顔を伏せている間に、溶けてしまった顔面の筋肉を何とか整える。

「…あ、ごめん、嫌?…気を付けるね。私、好きってなったら周りが見えなくなっちゃうから…」

希帆さんが今度は口を「うにゅ」と曲げて、おまけに眉毛も綺麗な八の字に下げて、不安げに視線を彷徨わせる。
俺の可愛い彼女は、どうにも恋愛に対してトラウマがあり過ぎる。
大方、元カレにでも何か言われたことがあるのだろう。
希帆さんの今の幸せにいちいち干渉してくるな、元カレ風情が。

「嫌な訳ないよ。希帆さんが可愛過ぎて俺の心臓がもたないだけ。心臓が止まったら、責任取って人工呼吸器してくれる?」
「ばか…んぅ」

口元の欠片を舐めとって、そのまま希帆さんの唇を奪う。
「んぅ」だって。可愛い。

「…んぁっ……もぅ…口の中食べカスだらけなのに…恥ずかしい……うぅ…」

しっかりと希帆さんの口内を堪能して唇を離すと、顔面を真っ赤にした彼女が涙目で俺を睨む。
その表情が、俺を盛大に煽っているのだと、いつになったら気が付くのだろうか。

「希帆さんの反応が可愛いから、仕方ないじゃない?俺だって我慢するの大変なんだからね♡」
「…わ、私だって、一緒に暮らし始めて、昨日まで、いっぱい我慢したもん!」
「……今後は、積極的に煽っていくスタイルなの?希帆さん…」
「おん?」
「…はぁ……可愛い♡」

希帆さんの過去の男たちには苛立ちしかないが、一つだけ感謝することがある。
元カレバカ男たちが希帆さんを手放してくれたから、今俺の腕の中に希帆さんが居る。
よく手放すことが出来たもんだと感心してしまう。
こんなに可愛い存在を手放すことなんて俺には出来ない。

「我慢で言ったら俺の方がしてるって。昨日だって結局3回しかしてないよ?」
「…3回もしたら十分だと思います」
「足りないよ!ここ半月、ずっとお預けだったんだよ?希帆さんが隣で寝てると思ったら興奮して眠れなくて、夜中にトイレで処理してたんだからね!!」
「あ、あれってそういことだったんだ…」

ポッ、と頬を染める希帆さんは、年齢よりもずっと若く見える。

「童貞じゃなくなって浮かれて、朝勃ちしたの押し付けたり…、ちょっと前の自分が猿みたいで恥ずかしくて、その俺を忘れてほしくて必死で我慢してたんだから」
「おぉ…。……私に愛想尽かしたんだと思っちゃった」
「はぁぁ?あり得ないから!希帆さんに呆れられないように精一杯抑えてるんだよ?本当は昼夜関係なく希帆さんを抱きたい。ずっとベッドで繋がっていたい」
「……お、おぅ…」

湯気が出そうなくらい真っ赤な希帆さんは、左右に視線を彷徨わせた後、おずおずと口を開いた。

「で…出来るだけ、頑張る、から……我慢させないように…。今度、大輔くんが一人でするときは、私が手伝ってあげようか?」

あけすけに言うくせに、どうしてそんなに恥ずかしがるの?
それって計算なの?
童貞卒業したての性欲舐めてるの?

「…じゃあ、今からエッチしても良い?」
「……あ、えっと…」
「…やっぱり、呆れてる?」

戸惑った顔の希帆さんに、囂々ごうごうと燃えていた欲望のかがりが手早く消火される。
下半身に集まりつつある熱だけが鎮火されないまま残った。

「そうじゃなくて、さっきトイレに行ったら、始まってたから…」
「あー…、そっか」

そう言えば、希帆さんの予定日は今日か明日だった気がする。
昨夜抱いてしまったばかりだけど、体調は大丈夫だろうか。

「ごめんね」

希帆さんに体調を尋ねようとしたら、先に希帆さんに謝られてしまう。
今にも泣き出しそうな顔に面食らってしまった。

「いやいや、なんで謝るの?俺こそ生理日カレンダー共有してるのに、気付かなくてごめんね?それなのに昨日エッチしちゃって、体調は大丈夫?」

希帆さんの目から涙が零れ落ちないように、出来る限り優しく抱き寄せて頭を撫でる。
大きく深呼吸した希帆さんに合わせて、背中をポン、ポン、と軽く叩いた。
すると希帆さんが、髪を撫でていた俺の左手を取って、自分の口元に運ぶ。

「生理中はエッチ出来なくてごめんね」

俺の手の甲に、その柔らかい唇を押し当てながら、ポソリと希帆さんが呟いた。
危うく希帆さんを怖がらせるところだった。
俺の中で憤怒の渦が巻き起こったからだ。
もちろん、希帆さんに対してな訳がない。
そんなことを希帆さんに言わせてしまう過去の亡霊元カレに対してだ。

「…希帆さん、もちろん、俺は希帆さんと毎分毎秒繋がっていたいって思ってるけど、生理だって希帆さんの身体に必要なことでしょう?その間にエッチが出来ないからって、怒る訳ないじゃん」

へにゃん、と顔中のパーツを下げて、泣く5秒前の相貌をした希帆さんが静かに肩を震わせている。

「なかなか手強いなぁ、希帆さんの中の過去の男を消し去るの」

ちゅっ、ちゅっ、と音をさせながら、希帆さんの額や目元に唇を落とす。
擽ったそうにしながらも、いつも俺の好きにさせてくれる希帆さんは、今日は自分から頬を差し出してきた。

「ほっぺにもキスして欲しいの?」
「…ん」
「かわいー♡」
「…ん」

希帆さんが望むまま、頬に優しくキスをすると、甘えるように抱き着いてくる。
俺の胸にウリウリと顔面を埋めて、ギュウギュウと腕を回してくる希帆さんはまるで幼子だ。

「…なんか、申し訳ない……」
「も~、あんまり言うと怒るよ?申し訳なさとか感じる必要ないから!」
「だってさぁ、私は生理前の欲求不満のアレコレで迷惑かけたしさぁ…」
「ハハハ。そんなに欲求不満だったの?もったいないことしたなぁ♡早く襲っちゃえば良かったね♡」
「欲求不満モンスターだったよ。大輔くんとエッチなことする夢を見ちゃうくらいに」
「エッチな夢?」

埋めているのが苦しくなったのか、顔を上向かせた希帆さんが、興味深い話をしてくる。
思わず身を乗り出して、希帆さんの顔を覗き込んでしまった。

「…ん。私が大輔くんを襲っちゃった夜あったでしょ?花束くれた夜」
「希帆さんがめっちゃ可愛かった夜ね♡覚えてるよ♡」

希帆さんはあの夜の花束をドライフラワーにして、大切に飾ってくれている。
初めて貰った花束だから、と包装紙やリボンまでクローゼットに保管してくれた。
これからいくらでもプレゼントするのに。
そんないじらしいことをされたら、毎日でも花束を贈りたくなってしまう。

「……その前日に、大輔くんとエッチする夢見た…。ごめん、勝手に変な夢に登場させて…うぅ…」

両手で顔面を覆いながら、指の隙間からチロリと俺の顔色を伺う希帆さんが可愛くて、ついつい真実を告げてしまった。

「それ夢じゃないよ?朝起きたら、希帆さんがオッパイ丸出しで寝てたものだから、手が勝手に動いたんだよね~♡眠ってるのに可愛い反応するし、いっぱいおもらしするし、エッロいなぁと思ってた♡あの時、夢の中で俺とエッチしてたんだね、希帆さん♡」

覆っていた両手を外して、顎が外れてしまうんじゃないかと心配になるほど、大口を開ける彼女に満面の笑みを送る。
次に希帆さんが何か発する前に、その唇を俺の唇で縫い留めた。

本当に、俺の希帆さんはどこまでも可愛い。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...