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三夜目

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家に到着するなり、彼は冷蔵庫からビールを取り出し、缶のままゴクゴクと飲み干した。
その光景に圧倒されてしまい、目をパチクリさせながら見守る。
後から買い物に行こう、と言っていたけど、飲んだ後は運転できないよなぁ、と
やっぱり今回の話は彼の本意ではなかったのだと胸がチクリと痛んだ。

「…希帆さん」
「おん?」
「俺が振られた理由知りたい?」
「…。アナタが話したいなら話せば良いよ」
「…うん。話したい。聞いてくれる?」

私は肩で息をついて、二、三度頷いて見せる。
彼は私からコートを受け取ると、自分のコートの隣にかけた。
テレビの前のソファーに私を座らせ、自分は私に向かい合う形で床に座った。

「?ソファーに座ったら?」
「…うん」
「…?」

家主を床に座らせておいて、自分はソファーと言う状態が気まずくて
彼の顔をジッと覗き込んでしまう。
先程ビールをあおったのに、顔色がちっとも変っていない。
もしや、あれはノンアルコールだったのだろうか?

「…無理して話す必要はないよ?」
「…」

どうしたら良いものか、と思案していると、ようやく彼が口を開く。

「希帆さん、俺、嫉妬深いんだ…」
「んぇ?」
「めちゃくちゃ嫉妬深くて、彼女の事をすぐに束縛しちゃうんだ…」
「お、おぅ…」
「彼女が他の男の事を話すのも嫌だし、何なら俺が居ない場所に行くのも嫌だ」
「あ、うん」
「彼女の事は何でも把握していたい。あ、もちろん生理日も」
「…へぇ……」
「彼女にとって俺が一番で居たいし、俺にとって一番は彼女」
「…ん」
「彼女には俺を好きで居て欲しいし、俺以外好きになって欲しくない」
「…」
「彼女の世話は俺が全部したいし、食べるものから生活用品まで全て俺が準備したい」
「」
「だけどこんな話…って、希帆さん?」

滔々と話す彼を前に、若干白目を剝いていた私は強制的に現実に引き戻される。
いや、何を言い出すんだこの子は…。

「ごめん、こんな話して…。引いたよね?」

瞳をウルウルさせて、捨てられた仔犬のような相貌で
ショボーンと上目遣いをしてくる美青年を直視できない。

いや、本当に、何を言い出しちゃってんだ君は…。
しかも、そんな暴力的な外見をさせて!

「うー…ん、と。要はアナタがとんでもない束縛男、って話?」

力なく頷く彼に眩暈が起きそうだ。

「ごめん、いきなりこんな話…」
「いや、知ってるし」

なーにを言い出すんだろうね、この子は。

「え?だって、初めて言ったのに…」
「いやいやいやいや。昨日もめちゃくちゃ束縛してたでしょ」
「…うそだ……」
「私の事後ろからがっちりホールドして、スマフォの画面監視してLIMEが届くたびに『これは誰?』って聞いてきて返信画面チェックするし、インターネットの閲覧履歴までチェックされたのは非常に恥ずかしかったよ。あげく、いつの間にかカレンダー共有アプリをインストールして…。なるほどね、あれって勤務日はもちろん、生理日を把握するためだったのね。驚きだわ」
「え…そんなの誰でもする事でしょ?」
「しないからねーーー!ガッチガチの束縛男しかしないからねーーーーーー!!!!」
「え…じゃあGPSアプリ仕込んだりは…?」
「しないよぉぉぉぉぉ!そこはかとなく犯罪臭がするよぉぉぉぉ!」

驚くほど強火な男だな、この子。もう直火も直火だ。
一歩間違えなくても犯罪者だよ。アウト。

「…希帆さんは、俺がそんな男って気付いてたの?」
「GPSアプリには気付かなかったけど、まぁ、想定の範囲内かな」
「……そんな男とでも同棲しようと思えるの?」
「同棲じゃなくて同居ね。…私にとっては渡りに船だから……」
「………やっぱり、希帆さんは俺のお嫁さんになる人だよ…」
「発言の直火が過ぎるよ!香ばしいよ!!焦げ付いてるよ!!!」

あぁ、ちくしょう!
きょとん。っじゃねぇよ!顔が良い!!!!

「なんで?今まで俺の外見に惹かれて告白してきた子達は、俺の束縛に耐えられなくて最長で3ヶ月、短くて3日も経たずに『こんなサイコ野郎だと思わなかった!』って俺から離れて行ったよ。でも、希帆さんは俺の本質を知った上でも離れないでいてくれるんでしょ?そんな人をお嫁さんにしなかったら、この先一生独り身だよ、俺」
「お、おぅ…」

意外と自分の事分かってるんだね…逆に悲しくなるよ…。

「私もアナタの本質をちゃんと理解している訳じゃないよ、たぶん」
「それでも俺の束縛気質には気付いてたんだよね?」
「気付くも何も…隠す素振りもなかったやん…」
「俺的にはおくびも出してないつもりだったよ」
「あれで隠してるつもりなら、本気出されたら私は消し飛ぶんじゃなかろうか…」
「大丈夫だよ、希帆さんなら!」

キラキラスマイルを輝かせながら、私の両手をキュッと握りしめて来る彼。
あぁ、やっぱり顔が良い…。

「…はぁ…。そもそも、私はアナタの元カノよりも、だいぶ年上だし、その分経験値があるだけだよ。過去に多少嫉妬深い男性と付き合ってきたから、アナタの監視行動に耐性があっただけで……って、冷たっ!」

黙って私の手を握る彼の手が異様に冷たい。
先程まで温かかったのに…。

あ、やらかしました、私。…詰んだ。

「…希帆さん、俺、嫉妬深いんだ」
「…はい」
「彼女が他の男の話をするだけで、めっちゃ腹が立つの」
「…そのようで」

そいそいそいそい、そぉぉぉぉい!!!!
私は彼女ではないので除外ですよね?
そのお怒りには触れておりませんよね??

「今、いきなり元カレの話されて、めっちゃくちゃ腹が立っちゃった♡」

うぇーーーい

「腹が立ちすぎて、こっちも勃っちゃった♡責任、取って欲しいな♡」

う、うぇうぇうぇーーーい

「…オヤジか」

ポソリと呟いてみたけれど、彼にはノーダメージみたいだ。




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