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人魚姫と王子様
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ドラックストアで買い物を済ませ、バイクの荷物入れにその袋を押し込みながら、慶太くんが拗ねたような顔をした。
私がシャンプーを選んでる間中、慶太くんは不機嫌そうな顔をしていたのだ。
「最初テンション低かったのは、オーナーに『ちゃんと気ぃ回せねぇと愛想尽かされるぞ』ってドヤされたから。あるもん使えば良いじゃん、って思ってたけど無神経過ぎだよな…。本当、ごめん」
あぁ、不機嫌なんじゃなくて私に対して申し訳ないって気持ちなのか。
「そんな…大丈夫……だよ…」
片手をヒラヒラと左右に振って、問題ないよ、と意思表示をしてみる。
その手をワシっと掴まれて驚いてしまった。
「本当だな?マジに大丈夫なんだな?少しも嫌な思いしてねぇんだな?」
「え……っ…と…」
その鬼気迫る様子に言葉に詰まると、慶太くんはその場にへたり込んでしまう。
「っだーーーーー!もう!!だよな?嫌な思いしたに決まってんだよ…。マジ凹む…。俺、最低じゃん…本当、ごめん」
そのまま頭を抱え込んでしまった慶太くんに何と声を掛けようか悩んでいると、ちょいっと指先を掴まれた。
相変わらず拗ねたような顔をしながら、慶太くんが私を見上げる。
「俺さ、女心っつーもんがマジで全然分かんねぇんだよ。だからさ、これからは……日和が俺に教えてよ。アンタが好きなモン、嫌いなモン、一個ずつ全部。俺ちゃんと覚えっから。…な?」
慶太くんのキラキラした金髪が夜風に靡いてとても幻想的だ。
月夜に照らされた彼の姿は、小さい頃に読んだ絵本の王子様に似ている。
そんな人が私の手を取り、私の気持ちを知りたいと懇願しているのだ。
この状況に心拍を乱さない人間は多くはないと思う。
「……日和?」
不安げに名前を呼ばれて心臓が止まりそうになった。
私は顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。
どうしても、この場面に必要な言葉が思い浮かばない。
私は掴まれた指先にありったけの思いを込めて、慶太くんの手を握るように折り曲げる。
エッチな妄想は得意だけど、こんなに甘酸っぱい青春映画みたいな妄想はしたことがない。
普段の妄想と違って、心が躍り立つようなフワフワと浮上するような気持ちになる。
私の身体がポップコーンマシーンになっちゃったんじゃないか、ってくらい心臓が弾けてパンパンになって苦しい。
「顔、真っ赤」
ふ、と笑う彼に、今度は心臓が大きく跳ねる。
慶太くんは私の指先を握ったまま立ち上がると、自由な方の手で頭を振り過ぎて乱れた私の髪を丁寧に梳いてくれた。
そのまま彼の顔が近付いて来て、触れるだけのキスをする。
「外でこういうことされんの好き?イヤ?」
やっぱり私は何も言えなくて、ブンブン頭を縦に振るだけだ。
「…ふは……、それじゃどっちか分かんねぇって!喋れや、声、失くしたんか?」
慶太くんは無茶苦茶に首を振る私の顎を捕らえると、先ほどより深く口付けてくる。
うっとりと慶太くんの濡れた舌先を味わっていると、苦しいばかりだった心臓が甘く絆されるようだった。
「んー…?…クンクン…ちょっと甘い匂いしてきたか?……今度から俺に会う前にシャワーするの禁止な」
「えっ…」
「俺に匂い嗅がれるのイヤ?ダメか?」
「そう言う…訳じゃ…ない、けど…」
私の首筋に鼻先を押し付けるようにして匂いを嗅いでいた慶太くんが、思い出したように尋ねてくる。
「今日は汗掻いたって言ってたけど、職場で荷物運びでもさせられたんか?まさかイジメられてねぇよな?シメる?」
「だ…大丈夫だよ…!みん…な…良い人…だから!」
『みんな』の中に野見山さんは含めないことにして答えた。
あの人の説明を慶太くんにするのは少し骨が折れそうだ。
「今日は…久しぶりに……痴漢に…遭っ…た…から…」
それで嫌な汗掻いちゃったんだ、と言葉を続けようとして慶太くんに遮られる。
「は?大丈夫かよ?何された?どこ触られた?」
パタパタと私の身体を触って狼狽した声を出す彼が、とても愛おしく感じてしまった。
「お尻…触られた…だけ……いつものことだし…平気…だよ」
「ばっか!!そんなことに慣れる必要ねぇって!嫌なもんは嫌だろ、平気とか言うな!」
その真剣な表情に、また不整脈を打つ。
昔から痴漢被害に遭ってきたから、いつしか身体を触られても『またか』って諦めてた。
でも本当は、じっとりとした汗を掻いてしまうくらい嫌だ。
「…ごめん、責めるみたいになった……。嫌な思いしたの日和なのにな」
言葉の代わりに首を左右に振る。
迫り上がってきた思いが胸につっかえて、上手く喋れなかったせいだ。
「だから、喋れって。……人魚姫かよ」
目を細める慶太くんに対して、意外とロマンチストだなと考えていたら、額にソッと口付けられた。
慶太くんに触れられるのはこんなに気持ち良いのに、他の人だと何であんなに不快だったんだろう。
「…そっか」
「あ?」
慶太くんは私の好きな人だから、触れられると嬉しいんだ。
怪訝な顔の慶太くんを見つめ返しながら、そんなことを思った。
私がシャンプーを選んでる間中、慶太くんは不機嫌そうな顔をしていたのだ。
「最初テンション低かったのは、オーナーに『ちゃんと気ぃ回せねぇと愛想尽かされるぞ』ってドヤされたから。あるもん使えば良いじゃん、って思ってたけど無神経過ぎだよな…。本当、ごめん」
あぁ、不機嫌なんじゃなくて私に対して申し訳ないって気持ちなのか。
「そんな…大丈夫……だよ…」
片手をヒラヒラと左右に振って、問題ないよ、と意思表示をしてみる。
その手をワシっと掴まれて驚いてしまった。
「本当だな?マジに大丈夫なんだな?少しも嫌な思いしてねぇんだな?」
「え……っ…と…」
その鬼気迫る様子に言葉に詰まると、慶太くんはその場にへたり込んでしまう。
「っだーーーーー!もう!!だよな?嫌な思いしたに決まってんだよ…。マジ凹む…。俺、最低じゃん…本当、ごめん」
そのまま頭を抱え込んでしまった慶太くんに何と声を掛けようか悩んでいると、ちょいっと指先を掴まれた。
相変わらず拗ねたような顔をしながら、慶太くんが私を見上げる。
「俺さ、女心っつーもんがマジで全然分かんねぇんだよ。だからさ、これからは……日和が俺に教えてよ。アンタが好きなモン、嫌いなモン、一個ずつ全部。俺ちゃんと覚えっから。…な?」
慶太くんのキラキラした金髪が夜風に靡いてとても幻想的だ。
月夜に照らされた彼の姿は、小さい頃に読んだ絵本の王子様に似ている。
そんな人が私の手を取り、私の気持ちを知りたいと懇願しているのだ。
この状況に心拍を乱さない人間は多くはないと思う。
「……日和?」
不安げに名前を呼ばれて心臓が止まりそうになった。
私は顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。
どうしても、この場面に必要な言葉が思い浮かばない。
私は掴まれた指先にありったけの思いを込めて、慶太くんの手を握るように折り曲げる。
エッチな妄想は得意だけど、こんなに甘酸っぱい青春映画みたいな妄想はしたことがない。
普段の妄想と違って、心が躍り立つようなフワフワと浮上するような気持ちになる。
私の身体がポップコーンマシーンになっちゃったんじゃないか、ってくらい心臓が弾けてパンパンになって苦しい。
「顔、真っ赤」
ふ、と笑う彼に、今度は心臓が大きく跳ねる。
慶太くんは私の指先を握ったまま立ち上がると、自由な方の手で頭を振り過ぎて乱れた私の髪を丁寧に梳いてくれた。
そのまま彼の顔が近付いて来て、触れるだけのキスをする。
「外でこういうことされんの好き?イヤ?」
やっぱり私は何も言えなくて、ブンブン頭を縦に振るだけだ。
「…ふは……、それじゃどっちか分かんねぇって!喋れや、声、失くしたんか?」
慶太くんは無茶苦茶に首を振る私の顎を捕らえると、先ほどより深く口付けてくる。
うっとりと慶太くんの濡れた舌先を味わっていると、苦しいばかりだった心臓が甘く絆されるようだった。
「んー…?…クンクン…ちょっと甘い匂いしてきたか?……今度から俺に会う前にシャワーするの禁止な」
「えっ…」
「俺に匂い嗅がれるのイヤ?ダメか?」
「そう言う…訳じゃ…ない、けど…」
私の首筋に鼻先を押し付けるようにして匂いを嗅いでいた慶太くんが、思い出したように尋ねてくる。
「今日は汗掻いたって言ってたけど、職場で荷物運びでもさせられたんか?まさかイジメられてねぇよな?シメる?」
「だ…大丈夫だよ…!みん…な…良い人…だから!」
『みんな』の中に野見山さんは含めないことにして答えた。
あの人の説明を慶太くんにするのは少し骨が折れそうだ。
「今日は…久しぶりに……痴漢に…遭っ…た…から…」
それで嫌な汗掻いちゃったんだ、と言葉を続けようとして慶太くんに遮られる。
「は?大丈夫かよ?何された?どこ触られた?」
パタパタと私の身体を触って狼狽した声を出す彼が、とても愛おしく感じてしまった。
「お尻…触られた…だけ……いつものことだし…平気…だよ」
「ばっか!!そんなことに慣れる必要ねぇって!嫌なもんは嫌だろ、平気とか言うな!」
その真剣な表情に、また不整脈を打つ。
昔から痴漢被害に遭ってきたから、いつしか身体を触られても『またか』って諦めてた。
でも本当は、じっとりとした汗を掻いてしまうくらい嫌だ。
「…ごめん、責めるみたいになった……。嫌な思いしたの日和なのにな」
言葉の代わりに首を左右に振る。
迫り上がってきた思いが胸につっかえて、上手く喋れなかったせいだ。
「だから、喋れって。……人魚姫かよ」
目を細める慶太くんに対して、意外とロマンチストだなと考えていたら、額にソッと口付けられた。
慶太くんに触れられるのはこんなに気持ち良いのに、他の人だと何であんなに不快だったんだろう。
「…そっか」
「あ?」
慶太くんは私の好きな人だから、触れられると嬉しいんだ。
怪訝な顔の慶太くんを見つめ返しながら、そんなことを思った。
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