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【第二話③】小説の中の君は劣情を煽る side蒼
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「え…、写真でも無いなら何で抜いてんの?」
「……まさか」
「文字?…官能小説とか?」
「いやいや、せめてエロゲとか…」
多田の声は途中で中断されてしまった。
それはきっと、言い当てられた僕が、これ以上ないくらいに赤面していたからに違いない。
(あああああああああああ、ひ、否定しなきゃ。沈黙は何よりの肯定だ…!あぁ、でも、もう遅いか。ぅう……は、恥ずかしい。消えてしまいたい。穴があったら埋めて欲しい。否、入りたい)
まとまらない思考で取り留めもない事を考えていると、隣から大きな咳払いが聞こえた。
「午前休終わりましたよ。みなさん、業務を始めましょう」
吉澤さんに泣きそうな顔を向けると、労わるような視線を返される。
席に戻る弓削さんにも肩を叩かれて慰められる。
やれやれ、と丸まった姿勢を正すと蒼森と視線が絡む。
10秒程見つめあったのち、何だかいたたまれなくて今度は僕から視線を逸らした。
その後も前方から強い視線を感じたが、どうしても顔を上げることが出来なかった。
午前休後の1時間は何とも居心地が悪かった。
ずっと俯いて仕事をしていたから首が痛い。
首をコキコキと鳴らしながら、またあの男子高校生ズに捕まったら一大事だと早々にロッカーへ向かう。
お弁当箱を取り出しながら、一緒に一冊の本も持ち出す。
人気の無い中庭のベンチに腰掛け、読み込んだ本を開く。
(うぅ…、もしかして、これから小説を読む度に変な目で見られちゃうのかな…)
はぁ、と溜息を吐きながらも、本を読み進める手は止められない。
この小説をオカズにしているのは間違いないが、これは官能小説ではなく一般的な女性向けのものだ。
騎士とお姫様が出逢って恋をする王道の作品だ。
濡れ場が盛り込まれているのでもなく、至って純粋なラブストーリー。
(この騎士、蒼森に似てるんだよね…)
表紙のイラストに一目惚れして購入した。所謂「ジャケ買い」だ。
蒼森に似た騎士に身体を張って守られるお姫様に、自分を投影して、妄想に耽っては情欲を吐き出している。
(あぁ、良いなぁ、小説の中のお姫様はこんなに愛してもらえて…)
開いたページでは、騎士がお姫様へ熱烈な愛の言葉を囁いている。
脳内の蒼森の声でそのセリフを再生してみる。
(あ、会社で、これ以上の妄想はダメだ…)
フルフルと頭を振って、脳内の蒼森を追い出す。
そうやって、ようやく気持ちの昂りがなくなった僕に、思いがけない人物の肉声が届く。
「桐谷、こんな所に居たのか」
まさに今、脳内から追い出したはずの騎士その人だった。
「……まさか」
「文字?…官能小説とか?」
「いやいや、せめてエロゲとか…」
多田の声は途中で中断されてしまった。
それはきっと、言い当てられた僕が、これ以上ないくらいに赤面していたからに違いない。
(あああああああああああ、ひ、否定しなきゃ。沈黙は何よりの肯定だ…!あぁ、でも、もう遅いか。ぅう……は、恥ずかしい。消えてしまいたい。穴があったら埋めて欲しい。否、入りたい)
まとまらない思考で取り留めもない事を考えていると、隣から大きな咳払いが聞こえた。
「午前休終わりましたよ。みなさん、業務を始めましょう」
吉澤さんに泣きそうな顔を向けると、労わるような視線を返される。
席に戻る弓削さんにも肩を叩かれて慰められる。
やれやれ、と丸まった姿勢を正すと蒼森と視線が絡む。
10秒程見つめあったのち、何だかいたたまれなくて今度は僕から視線を逸らした。
その後も前方から強い視線を感じたが、どうしても顔を上げることが出来なかった。
午前休後の1時間は何とも居心地が悪かった。
ずっと俯いて仕事をしていたから首が痛い。
首をコキコキと鳴らしながら、またあの男子高校生ズに捕まったら一大事だと早々にロッカーへ向かう。
お弁当箱を取り出しながら、一緒に一冊の本も持ち出す。
人気の無い中庭のベンチに腰掛け、読み込んだ本を開く。
(うぅ…、もしかして、これから小説を読む度に変な目で見られちゃうのかな…)
はぁ、と溜息を吐きながらも、本を読み進める手は止められない。
この小説をオカズにしているのは間違いないが、これは官能小説ではなく一般的な女性向けのものだ。
騎士とお姫様が出逢って恋をする王道の作品だ。
濡れ場が盛り込まれているのでもなく、至って純粋なラブストーリー。
(この騎士、蒼森に似てるんだよね…)
表紙のイラストに一目惚れして購入した。所謂「ジャケ買い」だ。
蒼森に似た騎士に身体を張って守られるお姫様に、自分を投影して、妄想に耽っては情欲を吐き出している。
(あぁ、良いなぁ、小説の中のお姫様はこんなに愛してもらえて…)
開いたページでは、騎士がお姫様へ熱烈な愛の言葉を囁いている。
脳内の蒼森の声でそのセリフを再生してみる。
(あ、会社で、これ以上の妄想はダメだ…)
フルフルと頭を振って、脳内の蒼森を追い出す。
そうやって、ようやく気持ちの昂りがなくなった僕に、思いがけない人物の肉声が届く。
「桐谷、こんな所に居たのか」
まさに今、脳内から追い出したはずの騎士その人だった。
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