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秘められたスチル解放

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はち切れんばかりのバスト、しっかり絞られたウエスト、タイトスカートにねじ込まれた発育の良いヒップ。
どこをどう切り取ってもフェロモン垂れ流しの彼女は、この乙女ゲームの世界で菜々花と同じライバルキャラとして登場する【ビッチな香織お姉さん】だ。

彼女が登場するのは、ヒロインが高校1年生の頃に出会うバイト先の3つ年上の攻略対象者ルート。
大学1年生の攻略対象者を2つ年上の彼女が、あの手この手で誘惑し遂には陥落させてしまうのだ。
肉欲に勝る純愛ストーリー、がこのルートの売りらしい。
『らしい』と言うのは、その攻略の難しさから途中で諦めてしまうユーザーが多く、そのハッピーエンドはまさに幻なのだ。
菜々花も途中で諦めた一人である。
と言うのも、この【ビッチな香織お姉さん】はライバルキャラ随一の強敵具合で、99%の確立でバッドエンドに進んでしまう。
それだけ強力な魅力の持ち主なのだ。

「…なんで、香織お姉さんがここに?」

困惑する声を上げたのは菜々花だ。
瑠璃はすました顔をして圭人に迫る香織を傍観している。

「ね?お姉さんと一緒にイキましょ?」

香織はまるでキスをする距離で、圭人に甘い息を吹きかけながら、その体躯を圭人に摺り寄せた。
少し動いたら零れ落ちてしまうんじゃないか、と言う程の胸の谷間を、これでもかと圭人に押し付け、更には圭人の手を取って、ミニのタイトスカートから伸びる自身の生足へ指先を導く。
見るからに触り心地の良さそうな太ももへ彼の手が触れた瞬間、圭人の瞳が鈍く揺れた気がした。
それを確認した香織は、大胆にも自身の手を圭人のへ伸ばし、手の平で軽く撫ぜながら畳みかける。

「ナカで、もっといいこと、シてあげる♡」

仕上げにリップ音を甘く響かせると、そのまま圭人と共にお化け屋敷へ入って行く。
流れるような一連の出来事の間、菜々花も瑠璃も一言も口を挟まなかった。
少し前屈みになった圭人の背中を二人で黙って見送ると、嘘みたいな静寂が訪れた。

「---っ!はっ!!瑠璃りん、思わず見送ってしまったけど、追いかけなくて良いの?」
「ん?私はお化け屋敷にそんなに興味ないから大丈夫だよ。出てくるのを待ってよう?」
「い、いや、そうじゃなくて!だって、…え?なんで?なんでそんなに落ち着いてるの?え?え?私だけ?私だけ焦ってる?良いの?瑠璃りん、圭人くんが攫われちゃったんだよ!香織お姉さんに!!何で?圭人くんルートでも出てくるなんて聞いてないよ。このままじゃ圭人くん食べられちゃうよ!」
「慌てる菜々花ちゃんも可愛いけど、あんまり焦って喋ると舌噛んじゃうよ?」
「だからっ!なんでそんな悠長に構えてるの!!だって、だって、だって!!圭人くんは、瑠璃りんの…」
「私が圭人くんに恋をしていると思っているのね?」

静かな、穏やかな声なのに、どうしてか動きを制限される様な重圧感だった。

「私の恋の相手は、圭人くんだと思っているのね?」

もう一度同じ質問を繰り返す瑠璃。その眼は菜々花を拘束するのに十分だった。

「だっ…て…、瑠璃りん、年下が好きだ…って…」
「…」
「…圭人くんが好きなんじゃないの?」

その時、突風が瑠璃の長い栗毛を掬い上げ、宙に舞わせた。
なびく髪の隙間から、その瑠璃色ラピスラズリの瞳が、菜々花の黄金色のそれを捕らえて離さない。
瞳を射抜いたまま、瑠璃は一歩前に出ると、硬直する菜々花の両の手を優しくとり、そのまま自身の口元へうやうやしく近付ける。
菜々花が「あっ」と思った時には、瑠璃の血色の良い唇が手の甲に重ねられていた。
それは一瞬だったが、永遠にも思えた。
瑠璃はおごそかに唇を離すと、瞬きもしないまま口を開く。

「私が恋しているのは圭人くんとは別の人だよ」

菜々花は、その美しい光景が実在するものではなく、全て造られた架空のものの様に感じられた。
そう、まるでゲームの中のスチルの様に。






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