上 下
3 / 10

転生者同士の暗躍

しおりを挟む
「すみません、瑠璃先輩…」

ファミレスに向かう前に、家族からの電話を受けた彼が、これ以上ない位に眉根を下げて謝ってくる。

「幼馴染が夕飯の準備をしてくれてるらしくて…。今日、僕ん家の両親が居ないから。幼馴染の所と仲良くて、向こうの両親と一緒に旅行に行ってて…。それで、その…」

アワアワしながら説明してくれる小鳥遊くんに、大丈夫だよと伝える為にニッコリと微笑んで、頭を撫でようとした手を何とか抑える。

彼の両親と、彼の幼馴染の両親は大学時代からの親友グループで、家もお隣同士だったはずだ。
両親同士が旅行に行っちゃったから、彼の夕食のお世話を幼馴染ちゃんが仰せ使ったと言うことだろう。
確か彼らの両親は、我が子同士が結婚するのを期待していて、何かにつけて絡ませたがるのだ。
いやいや、その結婚フラグは私がへし折りますけれど。

この幼馴染ちゃんが、ゲームでは私のライバルとなり、小鳥遊くんとの恋路を邪魔に邪魔してくれるのだ。
小鳥遊くんルートに入るなら、遅かれ早かれ出逢う事になる。それなら、早目に出逢っておきたい。

「そっかぁ、残念。もしもお邪魔じゃなかったら、私も小鳥遊くんの家に行ってお手伝いしたいな~」

しょぼん、と尻尾と耳を垂らしていた小鳥遊くんが、パァッ!っと瞳を瞬かせる。

「え?え?本当ですか?大歓迎です!瑠璃先輩が家に来てくれるなんて、その、すごく光栄です!!」
「あ、でも、幼馴染の子は大丈夫かな?」
「問題ありません!夕飯もカレーだし、人数が増えても大丈夫ですし!」
「ありがとう。でも、ちゃんと幼馴染の子に連絡しておいてね」

まるでメジャーデビューが決まったアイドルの様な歓喜の彼に、幼馴染ちゃんへの連絡を促すと、さすがの現役高校生。顔面の表情筋を緩ませっぱなしで、高速入力で連絡を取り合ってくれた。

(アポ無しで押し掛けて印象悪くしたくないし)

今からが本戦なのだけど、取り敢えずの試合運びに胸を撫で下ろし、彼の家に向かう前に化粧直しをしておこうとポーチを取り出した。







瑠璃が化粧直しの為に準備を始めた同じ頃、黄金色こがねいろの瞳を持つ【橘 菜々花タチバナ ナナカ】は一人燃えていた。

「遂に来た…。ヒロインの瑠璃ちゃん訪問イベント。…ゲームよりも展開が速い気がするけど、遅いよりは良いよね」

自分を落ち着かせる様に深呼吸をすると、軽く頬を叩いて気合いを入れる。

「上手くやらなくちゃ…。圭人くんルートに入ったからこその訪問だけど、もっと圭人くんを瑠璃ちゃんに売り込まないと!」

カレーの具材を握り締めながら、迫り来るイベントのゴングを心待ちにした。

願わくば、このイベントが成就してヒロインと圭人くんが結ばれますように。
そして、私と圭人くんの結婚なんてバカな話が無くなりますように。

そして、そして、これが本願です、神様。
現世では、私と彼が結ばれますように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...