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はじまりの灰かぶり

偽りの灰かぶり2/3

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「ジークシュトルヴィウス・エッセ・トール・ディバリオーセン殿下の御前みまえであるぞ!」

従者の一人がそう声をあげると、その場に居た全員が一斉に頭を下げる。義姉たちもミカエラを解放し、その一同に加わった。

「良い、楽にせよ」

良く通る低音で短く指示をして、ジークは群衆からミカエラを素早く見つける。ミカエラを探すのは簡単だった。一際目を惹くプラチナブロンド。まるでミカエラが立つ場所だけ輝いているかのようだった。ジークはミカエラと目を合わせると、その片方の口角を吊り上げて『ニヤリ』と笑う。

「突然で申し訳ないが、今からこのアカデミーに通う令嬢方に余の結婚相手を見つける手助けをして欲しいと思っている」

ジークが朗々と言い上げると、エントランス前に集まった群衆から騒めきが起こった。令嬢たちが一気に気色ばむ。ジークの目視によりアドが何かを取り出した。

靴だ。片方だけの。銀刺繍と宝石がその全面に散りばめられた、美しい、靴。

「今からここに居る令嬢全員、この靴を履いてみよ。余はこの靴がピタリと合う者と結婚する」

ミカエラは眩暈がした。あの皇帝陛下は一体何を口走っているんだろうと思った。そしてこれは夢だ、と現実逃避した。

「ミカ?顔が真っ青よ?……まさか…あの靴は貴女の……?」
「……そのまさかです、お義姉ねえ様」
「なんですって……なら、私が身代わりになってあげるわ!」

太っちょの義姉が一番手に名乗りをあげる。ズイズイっと群衆をかき分けて、ちんまりと可愛らしい靴の前に立つ。

「……………無理ですね」

アドが思わず言葉に出して、慌ててその口を閉じた。皇帝陛下の側近としては失言だが、その気持ちは分からなくもない。その靴と太っちょの義姉の足のサイズは、一見しただけで小魚とクジラ程も違うように見えたからだ。

「ごめんね、ミカ…。なんの力にもなれなくて…」

どよーんとした空気を纏って太っちょの義姉がミカエラの元に戻って来る。続いて痩せぎすの義姉も挑戦したが入らない。それもそのはず、ミカエラの足は普通のご令嬢のサイズよりも小さいのである。アカデミー内のご令嬢が次々に挑戦し、次々に散っていった。

「こんな靴を履ける人間が居るものですか!!!」

無理矢理に足を収めていることをアドに指摘され、逆上したティノーデアルが轟々と叫ぶ。その後に続いたご令嬢たちも皆同様に履きこなせなかった。ついに挑戦する者が誰も居なくなり、残りの一人であるミカエラに一同の視線が集まる。

「ミカエラ・エーデルワイス、前へ。君が最後の一人だ」

再び『ニヤリ』と笑って、ジークがミカエラを靴の前へ促した。ミカエラは意を決して靴の前に立つ。すると、ジークがミカエラの前に跪き、次期皇帝陛下直々に彼女の足へ靴を履かせたではないか!
その場に居た者は皆、驚き声も出なかった。
それはミカエラも一緒である。
しかもその靴がミカエラの足にピタリと合っているのだから、更に驚きである。

「ちょっと!こんなことあり得ませんわ!」
「そ、そうですわ。ミス・エーデルワイスが次期皇后陛下だなんて…、そんなこと……」

こんな場で意を唱えることが出来る人物なんて、もちろん決まっている。ティノーデアルとミセス・イャミンだ。

「ほう?余の決定が間違いだと申すか?ならばその理由を述べよ」

ジークは黄金の瞳を鋭く研ぐと、二人を真っ直ぐに見据えた。
二人は体を強張らせ、呼吸が浅く荒くなる。

「答えられんか?お前たちが彼女にした仕打ちの報復が怖いと何故言わん?」
「!?」
「ヒッ…」

『ニッコリ』と微笑むジークはアドから眼鏡を受け取った。ーーーー今はティノーデアルが持っているのミカエラのビン底眼鏡だ。

「それ…!」

ミカエラが思わず身を乗り出すと、ジークの愉快気な瞳とぶつかる。

「こちらの眼鏡は随分と度がキツいのに、今掛けている眼鏡は度無しだな?」

昨夜、ティノーデアルに取り上げられたままの眼鏡の代わりに、家中を捜索して同じような眼鏡を探し出した。家族にいらぬ心配をかけないためだ。新しい眼鏡には度が入ってなかったが、今のミカエラには関係なかった。
なぜなら、彼女の視力はどう言うわけか完全に回復していたからだ。

「どうして殿下がその眼鏡を…!」

ミカエラが答えを考えている間に、ティノーデアルが上擦った声をあげる。

「王宮での悪事を見過ごすような者は余の臣下には居らん。…面白そうだとわざと泳がせる者は一人だけ居るがな」

ジークはそう言いながら誰も居ない木陰に視線を送った。

「この眼鏡はお前の部屋から押収した。ついでにお前やその後ろの教師がミカエラ・エーデルワイスに陰険なイジメを行なっていたことも調べがついている」
「!?」
「未来の皇后陛下の周辺を調べるのは当然のことでございますからね」

ジークに続けてアドが言葉を足す。

「公爵家のご令嬢であるミカエラ・エーデルワイス様は元よりジーク殿下の妃候補筆頭でございます。故にここ数ヶ月は色々と調べておりました。………まさか、あのようなご登場をなさるとは思わず、声を荒げましたことをお詫び申し上げます」

アドはミカエラに向けて恭しく頭を下げた。突然の展開にミカエラ本人はついていけない。

「ミカが妃候補筆頭?そんなのダメよ!ミカは私たちとずっと暮らすのよ!!」
「どう言うこと、お母さん!私たち何も聞いてないわ!!」

ミカエラの義姉たちが喚き始める。
それを諌めたのはミカエラの継母だ。
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