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番外編

【番外編】変態王子の甘やかな苦悩

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隣人同士の恋は、半分同棲のようなもので、僕はやよいさんの部屋で殆どの時間を過ごしている。
だから、休日出勤からの帰宅先もやよいさんの部屋だ。

「ただいま、やよいさん。豚肉買って来たよー」

レジ袋をガサガサ揺らしながら、愛しい彼女が待つはずのリビングの扉を開ける。
しかし、ガランとした室内から返答はない。

「?出かける用事なんて聞いてないんだけどな…」

キッチンに居るのかとそちらに視線を向けるが彼女の姿はない。視界をクルリと反転させると、ベランダ外の街頭になまめかしく晒され横たわる彼女の姿を認めた。

「やよいさん?」

慌てて駆け寄るが、彼女は夢の中の住人。幸せそうに規則的な寝息を立てている。

(昨日の夜も無理させちゃったしね)

引かれないままのカーテンを閉じて、やれやれと溜息を吐けば、ルームウェアから露わになった彼女の下肢に目を留める。
このルームウェアは先日僕がプレゼントしたものだ。

『ジェラピケのルームウェア、ずっと着てみたかったの。ワンピースの丈がちょっと心配だけど、沢山着るね…有り難う』

それからと言うもの、やよいさんは嬉しそうに、このワンピースを着てくれる。着慣れない様で、気を抜くとペロンとショーツ丸出しにしてしまう彼女が堪らなく愛しい。
愛しい、けれど、自分の目が届く範囲にして欲しい。
ベッドではなく床で仮眠を取るのも構わない。いや、本音としてはこんなに冷たくて堅い床で寝ないで欲しい。これからは彼女が少しでも不快に感じる全ての事柄から、出来る限り守りたい。遠ざけたい。

(今度はフカフカのラグをプレゼントしよう)

そう決意しながら、眼下のしどけない寝姿の彼女に視線を戻す。丁寧に櫛を通された柔らかな栗毛、柔和な印象を与える整った眉、密に絡んだ長いまつ毛、綺麗に隆起した鼻、常に潤う薔薇色の唇、長く細い首、線の細い肩、長い腕、たわわで柔らかい胸、くびれた細腰、形の良いお尻、それを隠す赤いショーツ…

そう。今の彼女も、めくれ上がったワンピースのお陰で、ペロンとショーツを丸出しにして寝こけている。
彼女の恥部を隠すのは、我が社ベルフィーユジャパンでクリスマスシーズンに発売された真っ赤な下着だ。

『クリスマスシリーズ、毎年、買っても着ないで終わっちゃうから…。み、見せれて、嬉しい…。は、恥ずかしい、けど…』

ふにふにとした照れ顔を見せるやよいさんは、僕だけのためにあつらえられた珠玉の逸品ではないかと思う。
僕たちが付き合い始めたのは1月の始め。それまで、やよいさんは僕と言う人間を認識していなかったから、僕たちは2020年のクリスマスを他人として過ごした。やっぱり悔しくて、僕はやよいさんに遅目のクリスマスプレゼントを贈ることにしたのだ。まぁ、名目なくプレゼントをしてもやよいさんは受け取ってくれないだろうなって思ったし、何よりもを通したい魂胆があったからだけど。

クリスマスプレゼントと称したルームウェアに対して、クリスマスシリーズの我が社の下着に身を包んだ彼女が見たいと駄々をこねたら、全身を真っ赤にしながら素直に見せてくれた。そんな彼女の姿に、ついついたがが外れて何度も求めてしまった。

だからと言って、僕が居ないとこでお尻丸出しでカーテン開けっ広げで、こんな無防備な寝顔を晒すなんて…。

「お仕置き、かなぁ…」

ふぅ、やれやれ仕方ないな、なんて誰に向けるともない言い訳をしながら、ふと彼女のショーツをもう一度確かめる。

「あれ?昨日は普通のショーツだったのに…」

我が社、株式会社ベルフィーユジャパンは主に女性用下着を展開する下着ブランドだ。今、彼女が身に付けているのは、グラマラスな女性も上品に彩る【ビーナス】ラインの下着だ。毎年クリスマスには新しいデザインの下着を発表し、世の恋人達の熱い夜を華やかに演出している。
そのビーナスラインではショーツの型が複数用意されている。昨夜見たのはノーマルタイプ。世間一般的な女性用ショーツの型だ。そして今、やよいさんが身に付けているのは両サイドを紐で結ぶ『紐パン』型である。

「へぇ、珍しい。いや、僕がまだ見てなかっただけで、紐パンタイプも結構持ってるのかな…」

物珍しさにショーツをクイクイと触っていると、やよいさんが目を開ける。
まるで大輪の花が綻ぶ様に、僕と目が合うとフワリと笑顔を向けてくれる。

(これでいて、自分の容姿をちゃんと把握していないんだから、困っちゃうよね…)

やよいさんは下品な害虫達のせいでタチの悪い呪いに罹ってしまっている。その呪いを解くのが僕の使命だとは思うけど、これから原瀬部長を筆頭にゆっくりと呪詛返しをしてやらないとね。
ニヤリ、と笑うと春の庭園の様な笑顔のやよいさんがビクリと身を震わせる。
何ビクビクしてるのさ。僕がやよいさんを傷付ける訳がないのに…。

「目覚めのキス、する?」
「ふぇ?」
「するよね、お姫様」

啄む様に薔薇色の唇を捕らえると、緊張した面持ちながらもフルフルと応えてくれる彼女。
自分を卑下する度に自分から僕にキスをする、と言うお仕置きのお陰で、この頃はキスに対して多少の免疫が付いてきた様子だ。そうなって来ると、殊更愛しい。
出来ればずっとキスをしていたい。くっついていたい。

「…やよいさんが、僕の腕の中でしか生活出来ない生物になれば良いのに」
「え?嫌だよ、不穏だよ、その考え。ノーモア犯罪思考。ノーモア変態」
「…お仕置き、いる?」

途端にキュッ、と口をつぐむ彼女も愛らしくて堪らない。
きっと、彼女が受け取る僕の想いは、実際の僕の想いの1000分の1にも満たないんだろうな。

「………智正くん、私が寝てる間に何しようとしてたの?」

意識を飛ばしてしまっている間に、やよいさんの顔面が戦慄に染まっている。
彼女の視線を追うと、紐パンの紐を持つ僕の右手に行き当たる。
取り敢えず、ニッコリと微笑んでみせる。警戒心を解いてもらう為のものだったが、彼女はピクリと身体を硬直させてしまった。

「人が寝てる間に、お、お尻を…ペロンってして、…な、何しようとして…るの?」
「…んー……」
「き、昨日、あ、あ、あれだけ、し……た、のに。ま、まだ足りない…の?」
「…」

アワアワと声が聞こえそうなくらい狼狽した彼女が、急速に顔面から首筋から耳から…、おそらく全身を朱に染めていく。

足りるわけがない。

彼女の残りの人生をそっくりそのまま貰っても、来世も、その次の世を貰っても、到底足りない。足りるわけがない。

パタン、と倒れ込むとそのまま彼女を掻き抱いた。
頭に疑問符を大量につけた彼女は、それでも僕の体調を心配してくれる。

はぁ、愛しい。
愛しくて、愛しくて
愛し過ぎて、苦しい。

僕は彼女に、僕の気持ちが1000分の1でも伝わる様に、ゆっくりと肌を合わせた。

僕の腕を檻にして。





「ごめんね、お買い物頼んじゃって。他の食材はちゃんと買ったのに、豚肉だけ買い忘れちゃって…」

野菜を刻んでいた彼女が、冷蔵庫を開けて頭を下げる。

「二人で食べるものだし、買い物くらい頼んでよ」

濡れた髪をタオルで乾かしながら、キッチンに立つ彼女にキスを落とす。つい先日までキス一つで大騒動だった彼女は、大人しくそのキスを迎え入れる。
あの大騒動も可愛かったけど、やっぱり受け入れてくれるのは嬉しいな…。

「所で、豚バラブロックなんて何に使うの?角煮?」

ワクワクと尋ねると、エッヘンと腰に両手を当てて胸を張る彼女。

「特製の豚汁だよ!このレシピは本当に自信があるの!」

食べたいって言ってたでしょ?なんて得意げに微笑む彼女はきっと僕の腕の檻になんて、とどまってはくれない。

「……豚汁作るつもりで買い物したのに、肝心の豚肉を買い忘れちゃったって事?」
「ん?……エヘヘー♡」

そそくさと作業に戻る彼女の後ろ姿を見つめながら、直ぐにでもベッドへ連行したい気持ちを何とか抑える。
就業中のやよいさんは溜息が出るくらいに完璧な受付嬢だ。どんな無理難題でも簡単にこなしてしまう。
言い寄る男も危なげなくかわしてしまうし、名刺1枚たりとも受け取ったりはしない。
どんな男が甘言を口にしようが、彼女がなびく事は決してないと分かっている。それでも嫉妬はしてしまう。
制服に身をつつみ、にっこりと来客者へ笑顔を向けるやよいさんは美し過ぎて困る。
出来れば今すぐにでも仕事を辞めてもらって、誰の目にも届かない様に隠してしまいたい。
しかも、制服を脱いだなら、彼女は少しドジな無垢な少女に変身してしまう。
仕事ではあんなに流暢な英語を話すのに、何でもない日本語を噛み倒したり、言い間違えたり。
買い物だって、今日みたいに買い忘れなんてしょっちゅうだ。
美しくて可愛いなんてズルい。

さっきも愛し合ったのに、もう繋がりたいと思ってしまう。
覚えたての猿か、僕は。
あんまり無体を強いても嫌われる…。般若心経でも唱えて邪念を祓おう。

「手伝うよ。って言っても皮剥き位しか出来ないけどさ」
「助かるよー。ピーラーで大根と人参の皮剥きお願い出来る?」
「分かった。この鍋は何作ってるの?」
「あ、摘み食いしちゃダメだよ!もう。」
「カボチャと鶏肉の煮物大好き。あ~、癒される。幸せ」
「智正くんが煮物好きで助かるよ。私のレパートリーは煮物が多いからさ」
「和食が一番好きだから、すっごい嬉しいよ。やよいさんを奥さんに出来て、僕は本当に幸せ者だと思うよ」
「まだ結婚してないよ!」
「うん、まだ・・、ね」

どうせ直ぐに結婚するのに。
結婚の話題に対しては、相変わらず初心うぶな反応するなぁ、やよいさん。

「…何か、こうやって一緒に料理するの、新婚さん、みたい、だね…」

はにかみながら言葉を紡ぐ愛しい人に、持ち直しかけた理性を見事に粉砕されてしまう。
…本当に、やよいさんは僕をどうしたいのかな……。

「やよいさん、あんまり煽らないで…。やよいさんだって、僕に何度も抱かれるの辛いでしょ」

頭の中で素数を数えながら、幼児に言い聞かせる様に優しく諭す。

「え?…嬉しい、よ?智正くんの好きって気持ちが沢山伝わって来て、…すごく、その、…気持ち、良い、…です」

理性のダムと言うものが人類に存在するのであれば、僕のそれは完全に、そして永久に崩壊してしまったに違いない。
そう、まさに今、この瞬間に。
僕を責めるのはお門違いと言うものだ。
僕を変態にするのは、いつだってこの愛しい人なのだから。

本当に、本当に、不本意ではあるが仕方ない。
だって僕は、彼女に今まで与えられてこなかった「快感」を与えなければならない。
彼女を不快なものから守ると同時に、この世の全ての「快感」を彼女に与えると決めているのだ。
そんな彼女が、僕との情事を「気持ち良い」と言ってのけた。だから、仕方がない。

これから彼女と夕飯の準備だと言うのに、本当に不本意ではあるが、彼女を愛する以上に優先順位が高い項目はありはしない。隣に立つエプロン姿の彼女を、早速ベッドに連行しようと思う。
常々、この姿の彼女も、なんと情欲を掻き立てるものかと思っていたので、このままの格好で、彼女を愛し尽くそうと決めた。

「え?え?智正くん?何でベッド行くの?夜ご飯作らないと食べられないよ?」
「煽った責任はとってね。気持ち良いこと、するんでしょ?」
「いや、だから、さっきから煽るとか、何の話?私、何にもしてないよ」

半べそをかきながら、キッチンに戻ろう?と訴えかけて来る彼女を、再び腕の中に縫い留める。
そのまま、服の上から全身に両手を這わせると、檻の中の彼女が小さく戦慄わなないた。

「やよいさんは無自覚だからね。ごめんね、あいし過ぎちゃって」

彼女の腰元を撫ぜながら、耳元で甘く囁くと、彼女のまなじりから雫がこぼれ落ちる。

やっぱり身体に負担をかけているのかな。今なら、ギリギリ止められそうだけど…。



「私も、智正くんのこと、ちゃんと愛してるよ」



これだもの。
明日は日曜日だし、ベッドから出られなくても問題ないよね。
ご飯は僕が用意すれば良いし、トイレはお姫様抱っこで運べば良いし。

極上の笑みを浮かべて、腕の中の彼女に深いキスを贈れば、拙いながらも懸命に応えてくれる彼女。
これだから、彼女を愛するのを止められない。

変態王子に成り下がっても良いよ、それがお姫様の御所望ならね。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ソフィア
2021.02.01 ソフィア

はぁ〜最高でした(ง ˙-˙ )ง3回くらい読み直しましたよ!
年下だけど、リードしてくれて、なおかつ溺愛…。平野さんも可愛いのに気づいてないけど、仕事できて、慕われて·····最高。萌えすぎて、にやにやが止まりません(笑)
作者様と趣味が合いすぎてて全ての作品がお気に入りです!!


別の作品での感想にわざわざ返信ありがとうございます(´˘`*)喜んで頂けて幸いです!私の為にと完結させて下さるなんて言葉を頂き…光栄です(((* ॑˘ ॑* ≡ * ॑˘ ॑*)))
更新ならびに新作楽しみに待ってます。
無理なさらず、のんびりと、是非とも今後もよろしくお願いしますm(*_ _)m

山田 ぽち太郎
2021.02.01 山田 ぽち太郎

年下くんリードで溺愛は至高ですよね!
3回も読んで頂き、本当に嬉しいです♡
ありがとうございます(*´◒`*)

泣き虫姫〜、も、今後もしかしたら更新するかもなので、ぜひぜひ楽しみにお待ちくださいませ!

解除

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