泣き虫姫と変態王子の恋物語

山田 ぽち太郎

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【13話】まるで予言者のように

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全身の神経が、自分の耳に集中しているんじゃないか、って位、彼の言葉に全霊を傾けていた。

私は、ただ、一言
「好きだ」と言って欲しかった。

そしたら、きっと、彼の言葉を信じられる。
そしたら、きっと、彼に言葉を伝えられる。

「僕は、やよいさんを愛してるから」

目の前で火花が弾けたのかと思った。
チカチカとして、クラクラとして、彼の言葉はまるで稲妻だ。

「だから」

彼は言葉を続けた。

「だから、やよいさんには僕を好きになって貰いたい。馬鹿になんてしてないよ。忘年会の日の雄叫びは、僕を最高に有頂天にさせてくれた。アイロンをフローリングに落として、床に傷がついたよ。今度見せる。それで、また信じてもらえるかは分からないけど、信じてもらえるまで何だってするよ」

早鐘を打っていた私の心音は落ち着き、逆に速さを増す彼の心音がうるさいくらいに伝わってくる。

こんなにドキドキしてくれていたの?
私に気持ちを伝えるのに、こんなに心拍数を上げているの?

「お願いだから、僕の事を好きになって。何でもするよ。何でもしたい。もう、ベランダ越しに泣き顔を想像するだけじゃ嫌なんだ。頭を撫でて、抱き締めて、涙が乾くまで側に居させて」

懇願する様に、俯く私の首筋に顔を埋めて来る彼は、微かに震えている様だった。

「私は37歳のおばさんだから…」

ポツリと絞り出した声に、智正くんはピクリと反応する。
でも、最後まで聞いてくれる様だ。思えば彼は、人の話を最後まで聞いてくれる性分だ。

「だから、恋愛には臆病で…。いきなり、愛してると言われても、同じ分量は返せない」

智正くんは拳をギュッと握りしめる。
私の言葉を待ってくれている。

「今は、智正くんが好きだって事しか自分でも分からない。……けど」

不思議と穏やかな気持ちだった。
伝えるべきことを伝えるべき人に伝える。
ただ、それだけだ。

「きっと、この恋は、いつか愛に変わると思う」

まるで予言者のように、静かにそう言葉にした。

彼の腕に、そっと手を添わせてみる。
それから、首筋に埋められた彼の顔に頭をそっと寄せてみる。

首筋に、温かい雫が流れる。
手探りで彼の頭を探し当て、ポンポンと優しく叩く。
そして、背中を撫でてあげると、強固な腕が解かれた。

俯く彼を、今度は私が抱き締める。
赤ちゃんを寝かしつけるみたいに、子守唄をハミングしてみた。
ようやく顔を上げた彼を見て、思わず泣き笑いをしてしまう。



智正くんは、それはそれは綺麗な
見惚れる様な泣き顔をしていた。
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