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Sさんの場合
第四話 講座後半から卒業まで
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8月24日の第9回授業中、卒業の時期について講師のN氏に質問しました。
入学前、営業からは3カ月で修了可能と聞いていたのに、毎回授業後に決める次回のスケジュールが1週間ごとではなく、実際には10日前後ごとになってしまうのです。このままのペースでは希望していた3カ月で卒業できません。
「今からでもスケジュールを調整して、3か月で卒業できるようにできませんか?」
「授業後に3カ月で卒業するために、1週間未満で次のスケジュールを決定するなど日程を早められないか上席に聞いて、LINEご報告しますね」
その日の授業後、N氏からLINEで回答がありました。
「上席に確認してきました!営業との話のズレ、申し訳ありません。お詫びします。現在は営業を委託していた代行業者とは関係を切っています。やはり1週間以内に次の授業をスケジュールすることはできません。納得がいかないようであれば、全額返金でキャンセルを承ります。引き続き講座を受講する場合は、次の授業は1週間後以降というルールを了承して続ける形になります」
N氏が受け持った講義はこの日が最後でした。
次の10回目、8月31日の講義からはYという女性講師が担当です。
20代半ばから30代前半、セミロングくらいの髪型のふんわりした印象の女性で、会社員の配偶者がいると話していました。以前は個人事業主のライターをしていて、今は株式会社諸花の社員として講師をしているとの説明でした。
単価の高い案件を受講生が書いていることについて、話になった際のこと。
「受講生のお給料は私なんかより全然いいですよ~、私なんか今会社員ですから。受講生が正確に誰がいくらもらってるとか知らないですけれど、お給料は単価×本数で大体わかりますからね」
「個人事業主だったときは、なんでも経費で落とせました。ライターなので、買ったものの記事書きました、と言えばそれは経費になりますし」
と話していたことを覚えています。
9月6日。その日は授業はなかったのですが、開業に必要な手続きについて気になっていたことをLINEで質問しました。
「個人事業主としての届け出をする必要があると考えています。開業届を出しに行く日付や開業した日はいつを書けばよいでしょう」
「開業届は、事業を開始した1か月以内に届け出るというルールがあります。でも、実際には開業届を提出しなくても特に罰則などはありません。Sさんの都合に合わせて提出すれば良いですよ」
回答したのは、文面から推測するにY氏だと思います。Y氏はN氏とは異なり、開業の手続きや節税の知識などを授業中もよく話していました。
9月7日。第11回目の授業中のことです。卒業や案件をいただける時期についてY氏に相談しました。
「最短の3カ月で卒業したかったのですが、最初のうちは講師がN氏固定だったようで間に合いませんでした。9月17日が最速での卒業なのですが、案件はいつからもらえますか?」
「毎月10日までに卒業した方にしか案件を渡していないんですよ」
「じゃあ私は9月は案件貰えないんですね……」
「でしたら10日に私の授業が空いていますからそこで卒業しちゃいます?」
思わぬ提案でしたが、早く案件を受け取りたかった私は喜んで了承しました。
そして9月10日に卒業。その日のうちに今月の受注スケジュールをLINEで送るように指示がありました。
いよいよこれでライターとして働けるんだ。私は胸を高鳴らせながら、送られてきたテンプレート通りにスケジュールを送信しました。
そして翌9月11日。私にとって初めての依頼となる記事7本の案件を受け取ったのです。
※ ※ ※
ヴォーレ「いつも応援ありがとうございます。ヴィゴーレ・ヤシュチェです」
コニー 「コノシェンツァ・スキエンティアだ。今回の振り返りは我々が担当する」
ヴォーレ「ついに卒業しちゃったね。初依頼おめでとう、と言いたいとこだけど……」
コニー 「ああ。契約のメインであった講習サービスを全て受け取ってしまったからな。契約無効を申し立てたとしても受講料の返金は難しそうだ」
ヴォーレ「そっか。過去に向かってのクーリングオフはできないんだっけ?」
コニー 「それに商品は全て受け取った後だからな。業務委託契約はあくまでオプションのおまけだ」
ヴォーレ「オプションの登録料はまだ払ってないみたいだけど……」
コニー 「そちらの解約もしくは契約無効の申し立ては可能だろうが、その場合は既に受けた案件に対する報酬の支払いを渋られそうだ」
ヴォーレ「そっか。実際に記事を納品してるけど、スクールもしくは業務委託の契約の無効を主張するなら、報酬の話も無効になるものね。そちらについてどう判断するか司法にゆだねる羽目になりそう」
コニー 「それにしても報酬ではなくお給料、と書かれているのが気になるな」
ヴォーレ「うん。聞き違いや勘違いの可能性もあるけど、給与と報酬を混同してるよね」
コニー「誤解ならば単に彼女がビジネスに慣れていないというだけだろうが、意図的に混同する話し方をされていたのなら厄介だな」
ヴォーレ「うん、営業のI氏もわざと誤解するような説明をくりかえしてたみたいだしね」
コニー 「Y氏の説明は手馴れている分かえってうさん臭いな。自分が個人事業主として委託契約を結んでいたことがあるなら色々おかしいと気付くだろうに」
ヴォーレ「ますます面倒なことになったね……」
コニー 「ああ、先が思いやられる」
入学前、営業からは3カ月で修了可能と聞いていたのに、毎回授業後に決める次回のスケジュールが1週間ごとではなく、実際には10日前後ごとになってしまうのです。このままのペースでは希望していた3カ月で卒業できません。
「今からでもスケジュールを調整して、3か月で卒業できるようにできませんか?」
「授業後に3カ月で卒業するために、1週間未満で次のスケジュールを決定するなど日程を早められないか上席に聞いて、LINEご報告しますね」
その日の授業後、N氏からLINEで回答がありました。
「上席に確認してきました!営業との話のズレ、申し訳ありません。お詫びします。現在は営業を委託していた代行業者とは関係を切っています。やはり1週間以内に次の授業をスケジュールすることはできません。納得がいかないようであれば、全額返金でキャンセルを承ります。引き続き講座を受講する場合は、次の授業は1週間後以降というルールを了承して続ける形になります」
N氏が受け持った講義はこの日が最後でした。
次の10回目、8月31日の講義からはYという女性講師が担当です。
20代半ばから30代前半、セミロングくらいの髪型のふんわりした印象の女性で、会社員の配偶者がいると話していました。以前は個人事業主のライターをしていて、今は株式会社諸花の社員として講師をしているとの説明でした。
単価の高い案件を受講生が書いていることについて、話になった際のこと。
「受講生のお給料は私なんかより全然いいですよ~、私なんか今会社員ですから。受講生が正確に誰がいくらもらってるとか知らないですけれど、お給料は単価×本数で大体わかりますからね」
「個人事業主だったときは、なんでも経費で落とせました。ライターなので、買ったものの記事書きました、と言えばそれは経費になりますし」
と話していたことを覚えています。
9月6日。その日は授業はなかったのですが、開業に必要な手続きについて気になっていたことをLINEで質問しました。
「個人事業主としての届け出をする必要があると考えています。開業届を出しに行く日付や開業した日はいつを書けばよいでしょう」
「開業届は、事業を開始した1か月以内に届け出るというルールがあります。でも、実際には開業届を提出しなくても特に罰則などはありません。Sさんの都合に合わせて提出すれば良いですよ」
回答したのは、文面から推測するにY氏だと思います。Y氏はN氏とは異なり、開業の手続きや節税の知識などを授業中もよく話していました。
9月7日。第11回目の授業中のことです。卒業や案件をいただける時期についてY氏に相談しました。
「最短の3カ月で卒業したかったのですが、最初のうちは講師がN氏固定だったようで間に合いませんでした。9月17日が最速での卒業なのですが、案件はいつからもらえますか?」
「毎月10日までに卒業した方にしか案件を渡していないんですよ」
「じゃあ私は9月は案件貰えないんですね……」
「でしたら10日に私の授業が空いていますからそこで卒業しちゃいます?」
思わぬ提案でしたが、早く案件を受け取りたかった私は喜んで了承しました。
そして9月10日に卒業。その日のうちに今月の受注スケジュールをLINEで送るように指示がありました。
いよいよこれでライターとして働けるんだ。私は胸を高鳴らせながら、送られてきたテンプレート通りにスケジュールを送信しました。
そして翌9月11日。私にとって初めての依頼となる記事7本の案件を受け取ったのです。
※ ※ ※
ヴォーレ「いつも応援ありがとうございます。ヴィゴーレ・ヤシュチェです」
コニー 「コノシェンツァ・スキエンティアだ。今回の振り返りは我々が担当する」
ヴォーレ「ついに卒業しちゃったね。初依頼おめでとう、と言いたいとこだけど……」
コニー 「ああ。契約のメインであった講習サービスを全て受け取ってしまったからな。契約無効を申し立てたとしても受講料の返金は難しそうだ」
ヴォーレ「そっか。過去に向かってのクーリングオフはできないんだっけ?」
コニー 「それに商品は全て受け取った後だからな。業務委託契約はあくまでオプションのおまけだ」
ヴォーレ「オプションの登録料はまだ払ってないみたいだけど……」
コニー 「そちらの解約もしくは契約無効の申し立ては可能だろうが、その場合は既に受けた案件に対する報酬の支払いを渋られそうだ」
ヴォーレ「そっか。実際に記事を納品してるけど、スクールもしくは業務委託の契約の無効を主張するなら、報酬の話も無効になるものね。そちらについてどう判断するか司法にゆだねる羽目になりそう」
コニー 「それにしても報酬ではなくお給料、と書かれているのが気になるな」
ヴォーレ「うん。聞き違いや勘違いの可能性もあるけど、給与と報酬を混同してるよね」
コニー「誤解ならば単に彼女がビジネスに慣れていないというだけだろうが、意図的に混同する話し方をされていたのなら厄介だな」
ヴォーレ「うん、営業のI氏もわざと誤解するような説明をくりかえしてたみたいだしね」
コニー 「Y氏の説明は手馴れている分かえってうさん臭いな。自分が個人事業主として委託契約を結んでいたことがあるなら色々おかしいと気付くだろうに」
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