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Sさんの場合
第三話 疑惑だらけの業務委託契約
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8月24日、第9回の授業を受ける前に自宅に業務委託契約書が届いたので署名捺印をしようとしたところ、いくつもの不明点が見つかりました。
まずはじめに、契約書に記入する日時についてです。スクールの申込日と記入日の間が空きすぎています。どちらを書けば良いか迷った挙句、LINEで質問したところ、N氏とおぼしき講師から返答がありました。
「契約日は書類記入日と考えてください」との回答に納得して、あらためて日付を書き込みましたが、不明点はこれだけではすみません。
契約書にはまるで今から講座を受講する人に向けたような支払い案内が記載されています。しかし、私は受講前に費用を全て一括で振り込んでいるのです。
すぐにLINEで問い合わせると、こちらもN氏と思しき講師が回答してくれました。
「業務委託契約書に講座代金の振り込みについて書かれていますが、こちらは既に銀行振り込みで支払い済みです。この場合は銀行振り込みに丸を付けるだけで良いのでしょうか?」
「そうです。再度支払う必要はありません」
再度請求される心配はないとわかって安心したものの、腑に落ちない点はこれだけではありません。
「契約書をみると登録料はクレジットカードまたは振り込みでの対応ができると書いてあるので、クレジットカードで支払いたいです。請求書はどのような形で来るのでしょうか」
「登録料の33,000円はフォローアップ費用のことです。お支払いは毎月決まった口座にお振込みいただく形になります」
契約書にクレジットカード支払いの選択肢があるのに、振り込みでしか受け付けていないとの説明に、なんだか釈然としない思いが残りました。
それでも契約書を読み進めていると、まだまだ気になることが出てきます。
営業のI氏から見せられたパワーポイントの資料には、最低でも1記事あたり15000円であることが強く説明されていました。ところが、契約書には1記事11000円以上の単価であることを約束すると記載があったのです。もちろん、11000円でも充分に高額な案件ですが、事前に説明されていた条件との違いに不安を覚えました。
行き違いがあるように感じた私はすぐにLINEで問い合わせました。
「営業の方から1記事15000円以上との説明を受けましたが、契約書だと1記事最低で11000円と書いてあります。どのように理解したらよいでしょう」
ほどなくしてN氏らしき講師から返信がありました。
「営業から15000円と確約されたのでしょうか? それならば営業の伝え方が間違っております。正しくは平均15000円で、最低保証額が11000円です。ほとんどの案件は15000円前後でお渡しできるのですが、1記事15000円を確約できるものではありません」
さらに、返金の対応も受け付けるという回答が続きます。
「契約に差し障る重大なポイントであるため、今後の利用について懸念が晴れないようでしたらぜひご相談ください。返金も視野に入れた対応を検討していく所存です」
「営業の方が使っていたパワーポイントの資料には1記事15000円と複数回明記されていました。今ご説明いただいた内容を考えると、8割くらいの記事は15000円くらいの案件かなと思いましたが、実際のところはどうでしょうか? 今のところ返金までは考えておりません」
「本来の意向がどうであれ、相手にそう思わせて説明がないのは非常に危険ですよね。誤解の無いように徹底します! 今のところ発注金額が15000円を下回る案件を卒業生にお渡ししたことはありません。ただ今後、発注数の多い11000円の案件がないとも言い切れないのも事実です。ここで「ほぼ15000円です」という説明は誤解を生みかねないので、断言はできません。あくまで現状、15000円を下回る案件は受注していないという状況です!」
契約書の内容と営業から聞いていた話が食い違っていたのはこれだけではありません。
営業が一押しポイントとして挙げてきたのが「写真の撮り方講座」です。たしか、授業の後半に予定されていたと思います。
「記事制作ではライターさん自身が写真を撮って、記事に載せることもあります。弊社から渡す案件には写真は必要ないですが……しかし、他のWebでもライターをやる可能性を考えて、映える写真の撮り方を教える回がございます。実際に卒業された方からは、「まだライターとして写真を撮ったことはないけれど、インスタでも映える写真が撮れるようになったのでよかったです」とのお声をいただいております」
こう言って勧めてくれた講座を私はとても楽しみにしていました。
ところが、送られてきた契約書の講座説明欄には「写真の撮り方講座」なるものはどこにも明記されていなかったのです。結局、講習の最後まで「写真の撮り方講座」はありませんでした。
それでも私は既に第八回目までの授業を受けており、お給料がもらえる授業も受けていたため、もったいないと考えて解約や返金は検討しませんでした。
※ ※ ※
ディディ「いつも応援、ご愛読ありがとうございます」
エリィ 「今回は我々が話の内容を振り返ります」
ディディ「なんだか事前に聞いてた話と違いすぎる契約書だったようだね」
エリィ 「しかも送ってくるタイミングがおかしすぎる」
ディディ「法に従うなら、最初に申し込むときに概要書面を交付したうえで、申し込みを受けて受講代金の請求をする前に契約書を交わさなきゃいけないはずだよね」
エリィ 「それを講習のカリキュラムが2/3以上終了してから送ってきた訳だろう?」
ディディ「今回は卒業後に案件を渡してその報酬を支払うための契約書だから、前回サインしたクラウドサインのものとは別だと説明されたそうだよ」
エリィ 「そもそも業務提供誘引販売取引は書面の交付が義務付けられているんだ。電子契約で契約が成立するものか」
ディディ「つまり、前回の電子契約は実際の契約書を交わす時期を遅らせる小細工かもしれないんだね」
エリィ 「書面の未交付による契約無効を申し立てても、役務の大半を既に受け取っていることを事由につっぱねるつもりだったのだろうな。もっとも、これはあくまで俺の推測だ。事実は専門機関の調査がなければわかりようがない」
ディディ「でも講師からは解約返金の申し出があったようだよ」
エリィ 「事前の説明内容と実際の契約書を読み比べて質問してくるような客は、この先も矛盾点に気づいてトラブルになるかもしれん。最初に気づかれた時に丁寧に対応して、解約した後もきちんとした対応の会社だったと口コミしてもらう気だったんだろう」
ディディ「解約した人が必ずしもネットで感想を言うとは限らないんじゃない?」
エリィ 「こういった在宅ライターの求人に応募してくる人は、情報を発信する事が好きだったり、憧れたりしていることが多い。そういう人は自分の体験をすぐにブログやSNSで発信する傾向があるからな」
ディディ「なるほど。納得のいかないことがあったけど、きちんと対応してくれて解約返金できた……って言ってもらえれば、ちゃんとした企業って印象が勝手に拡散されるね」
エリィ 「実に面倒な業者にでくわしてしまったようだな」
ディディ「まったく、先が思いやられるね」
まずはじめに、契約書に記入する日時についてです。スクールの申込日と記入日の間が空きすぎています。どちらを書けば良いか迷った挙句、LINEで質問したところ、N氏とおぼしき講師から返答がありました。
「契約日は書類記入日と考えてください」との回答に納得して、あらためて日付を書き込みましたが、不明点はこれだけではすみません。
契約書にはまるで今から講座を受講する人に向けたような支払い案内が記載されています。しかし、私は受講前に費用を全て一括で振り込んでいるのです。
すぐにLINEで問い合わせると、こちらもN氏と思しき講師が回答してくれました。
「業務委託契約書に講座代金の振り込みについて書かれていますが、こちらは既に銀行振り込みで支払い済みです。この場合は銀行振り込みに丸を付けるだけで良いのでしょうか?」
「そうです。再度支払う必要はありません」
再度請求される心配はないとわかって安心したものの、腑に落ちない点はこれだけではありません。
「契約書をみると登録料はクレジットカードまたは振り込みでの対応ができると書いてあるので、クレジットカードで支払いたいです。請求書はどのような形で来るのでしょうか」
「登録料の33,000円はフォローアップ費用のことです。お支払いは毎月決まった口座にお振込みいただく形になります」
契約書にクレジットカード支払いの選択肢があるのに、振り込みでしか受け付けていないとの説明に、なんだか釈然としない思いが残りました。
それでも契約書を読み進めていると、まだまだ気になることが出てきます。
営業のI氏から見せられたパワーポイントの資料には、最低でも1記事あたり15000円であることが強く説明されていました。ところが、契約書には1記事11000円以上の単価であることを約束すると記載があったのです。もちろん、11000円でも充分に高額な案件ですが、事前に説明されていた条件との違いに不安を覚えました。
行き違いがあるように感じた私はすぐにLINEで問い合わせました。
「営業の方から1記事15000円以上との説明を受けましたが、契約書だと1記事最低で11000円と書いてあります。どのように理解したらよいでしょう」
ほどなくしてN氏らしき講師から返信がありました。
「営業から15000円と確約されたのでしょうか? それならば営業の伝え方が間違っております。正しくは平均15000円で、最低保証額が11000円です。ほとんどの案件は15000円前後でお渡しできるのですが、1記事15000円を確約できるものではありません」
さらに、返金の対応も受け付けるという回答が続きます。
「契約に差し障る重大なポイントであるため、今後の利用について懸念が晴れないようでしたらぜひご相談ください。返金も視野に入れた対応を検討していく所存です」
「営業の方が使っていたパワーポイントの資料には1記事15000円と複数回明記されていました。今ご説明いただいた内容を考えると、8割くらいの記事は15000円くらいの案件かなと思いましたが、実際のところはどうでしょうか? 今のところ返金までは考えておりません」
「本来の意向がどうであれ、相手にそう思わせて説明がないのは非常に危険ですよね。誤解の無いように徹底します! 今のところ発注金額が15000円を下回る案件を卒業生にお渡ししたことはありません。ただ今後、発注数の多い11000円の案件がないとも言い切れないのも事実です。ここで「ほぼ15000円です」という説明は誤解を生みかねないので、断言はできません。あくまで現状、15000円を下回る案件は受注していないという状況です!」
契約書の内容と営業から聞いていた話が食い違っていたのはこれだけではありません。
営業が一押しポイントとして挙げてきたのが「写真の撮り方講座」です。たしか、授業の後半に予定されていたと思います。
「記事制作ではライターさん自身が写真を撮って、記事に載せることもあります。弊社から渡す案件には写真は必要ないですが……しかし、他のWebでもライターをやる可能性を考えて、映える写真の撮り方を教える回がございます。実際に卒業された方からは、「まだライターとして写真を撮ったことはないけれど、インスタでも映える写真が撮れるようになったのでよかったです」とのお声をいただいております」
こう言って勧めてくれた講座を私はとても楽しみにしていました。
ところが、送られてきた契約書の講座説明欄には「写真の撮り方講座」なるものはどこにも明記されていなかったのです。結局、講習の最後まで「写真の撮り方講座」はありませんでした。
それでも私は既に第八回目までの授業を受けており、お給料がもらえる授業も受けていたため、もったいないと考えて解約や返金は検討しませんでした。
※ ※ ※
ディディ「いつも応援、ご愛読ありがとうございます」
エリィ 「今回は我々が話の内容を振り返ります」
ディディ「なんだか事前に聞いてた話と違いすぎる契約書だったようだね」
エリィ 「しかも送ってくるタイミングがおかしすぎる」
ディディ「法に従うなら、最初に申し込むときに概要書面を交付したうえで、申し込みを受けて受講代金の請求をする前に契約書を交わさなきゃいけないはずだよね」
エリィ 「それを講習のカリキュラムが2/3以上終了してから送ってきた訳だろう?」
ディディ「今回は卒業後に案件を渡してその報酬を支払うための契約書だから、前回サインしたクラウドサインのものとは別だと説明されたそうだよ」
エリィ 「そもそも業務提供誘引販売取引は書面の交付が義務付けられているんだ。電子契約で契約が成立するものか」
ディディ「つまり、前回の電子契約は実際の契約書を交わす時期を遅らせる小細工かもしれないんだね」
エリィ 「書面の未交付による契約無効を申し立てても、役務の大半を既に受け取っていることを事由につっぱねるつもりだったのだろうな。もっとも、これはあくまで俺の推測だ。事実は専門機関の調査がなければわかりようがない」
ディディ「でも講師からは解約返金の申し出があったようだよ」
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