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本編

ピンク頭と反論開始

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 アミィ嬢がエステルを階段から突き落とそうとして失敗したり、ドレスを破いたという言いがかりをつけてきた殿下に対し、僕たちは彼女が無実である証拠があると主張した。
 案の定、逆上した殿下は「そんなものがあるなら出してみろ」と喚きたてる。
 それじゃ、お望み通り証拠を出して反論と行きましょうか。

「まず、アハシュロス公女がクリシュナン令嬢を突き落としたとされる件ですが……
 その時アハシュロス公女はクリシュナン令嬢より数段下を歩いていて、突き落とすのは難しい状況でした。
 しかも公女はクリシュナン令嬢の転落に気付いてすぐ令嬢を助けようとかばい、彼女を安全な踊り場に押し戻してから自分が落下しました」

「僕はちょうど階段の下にいたんですが、エステル……クリシュナン令嬢が自分で飛び降りたように見えました。その時撮影された記録球があるのでご覧ください」

 コニーと代わる代わる説明して記録球を再生すると、立体映像でその場の状況が再現される。
 何度見てもエステルはアミィ嬢の手が届かない位置から自分で飛び降りたように見えるし、アミィ嬢はエステルを助けようとして自分が落っこちている。

「……っ確かにこの映像ではそのように見えるが……」

「そんな……っこんな映像、きっと誰かの捏造よっ!!
 ねえマイヒャ、誰がこんなひどいデマ映像作ったか調べてよ」

「失敬な。それは私が試作した記録球をテスト運用したときにたまたま映っていたものだが? つまり、君は私がこの映像を捏造したと言うのかい、クリシュナン令嬢?」

 戸惑いながらもクセルクセス殿下が認めると、エステルが必死で否定する。
 しかし、パラクセノス先生に同意を求めてかえって怒りを買ってしまった。

「そ……そんな……ひどい……っ!! コノシェンツァもマイヒャもあたしを裏切ったの…っ!?」

「我々を騙して他人を陥れさせようとする君の行為こそが裏切りだと思うが」

「それから、こちらは女子更衣室に仕掛けられた防犯記録球の映像です。
このところ女子更衣室で盗難や器物破損が相次いでいるという訴えがあったので試験的に運用されていました」

 エステルは目にいっぱいに涙を浮かべて非難するが、冷たくあしらうパラクセノス先生と、無視して顔色一つ変えずに証言を続けるコノシェンツァ。
 続けてエステルが女子更衣室で自分のドレスを破いている映像が再生される。もちろんピオーネ嬢への聞くに堪えない罵詈雑言つきだ。

 アミィ嬢はピオーネ嬢に気づかわしげな視線を送り、エステルと殿下は青い顔をして押し黙る。
 アッファーリとアルティストの表情も硬い。
 ……うん、あの罵詈雑言聞くと百年の恋も一瞬で冷めるよね。

「これでもアハシュロス公女がクリシュナン令嬢を階段から突き落としたり、ドレスを破いたとおっしゃいますか?」

「嘘よ……嘘……あたしを陥れるために悪役令嬢が小細工したんだわ……っ」

 譫言うわごとのようにつぶやくエステルにコノシェンツァは容赦なく次の映像をつきつける。
 校舎裏に呼び出したアミィ嬢を鬼のような形相のエステルがさんざんに罵る場面だ。

『なんなのよアンタは!?悪役令嬢のくせにイジメもしてこないし階段じゃ自分が落ちて邪魔するしっ!!』

『ただでさえお前のせいで攻略が進なくて大迷惑してるのにっ! っざっけんなっ!!
 断罪パーティーで婚約破棄されて処刑されるためだけに存在する悪役令嬢のくせにっ!!!』

 キンキンした喚き声は何度聞いても耳障りで、非常識な発言内容も相まって不愉快極まりない。

「これは不審者の侵入を防ぐために設置された記録球です。
 撮影日時は十五日前のお昼休みで撮影場所は校舎裏。つまりクリシュナン令嬢が階段から落ちたとされるダンス授業の後の休み時間ですね。
 クリシュナン令嬢ははっきりと『いじめをしてこない』『階段では自分が落ちた』と言っています。
 これまでの『アハシュロス公女から繰り返しイジメられている』『階段から突き落とされて殺されそうになった』という訴えとは矛盾しますが、いったいどういう事でしょう?」

 淡々と事実を羅列られつしていくコニー。聞いているクセルクセス殿下は顔色を青くして黙ったままだ。

「な……なんでこんなにあちこち防犯カメラがあるのよ……っ!?
 ここは乙女ゲームの中でしょっ!?こんなファンタジー世界に防犯カメラなんてあり得ないっ!!」

 語るに落ちるとはこのことか。
 エステルの叫びは、誰も見ていないし撮影されていないと確信していたからこその言動だと白状したようなものだ。

「なるほど、学園内に防犯用の監視装置があることを想定しないで被害を主張していたのですね。つまり、計画的に冤罪をでっちあげようとしていた。
 それは詐欺罪や反逆罪に問われてもおかしくない犯罪行為だとわかっていますか?」

「犯罪だなんて……っ!? ひどい……っ!! あたしはただ愛されたくて……っ」

 冷静に、あくまで丁寧な口調を崩さず念を押すコニーにエステルは涙を流しながらヒステリックな金切り声で答えにならない答えを返す。

「見損なったぞコノシェンツァ!! こんなに可憐なエステルを虐げる側に回るのかっ!?
 お前はおとなしく生徒会の業務だけやっていればいいんだ!!
 せっかくあの生意気な女を地獄に落とせるはずだったのに……っ」

「……まさか、殿下まで虚偽とわかっていてこんな茶番を?」

 ああ、語るに落ちるのはクセルクセス殿下もか。これでは殿下自身がアミィ嬢の無実を知りながら陥れようと画策していたと白状しているようなものではないか。

「茶番とはなんだ、茶番とは……っあのいけすかない偽善者がこの国の王妃などという分不相応の地位につくことを防ぐ、崇高な戦いだぞ……っ」

 どこが『崇高な戦い』だ。地位をかさに着て無実の人を陥れ、理不尽な罰を与えようとするとは。

「やれやれ。
 どうやら殿下もアハシュロス公女が無実だと言う事は実はわかっていたようですね。ならば、これ以上あなた方が公女の『悪行』とやらを並べたところで無駄だとおわかりいただけましたか?
 無理に冤罪をきせようとしたことが公になれば、殿下も詐欺罪などに問われる可能性がありますよ」

「……ぐぅっ」

 あ、ぐぅの音が出た。

 義務や責任を嫌がって、逃げて遊んでばかりの殿下にとって、重すぎる期待にも生真面目に一つ一つ応えようと努力するアミィはまぶしすぎたのだろう。
 コンプレックスの裏返しが彼女への粗略な扱いとなり、しかも彼女を蔑ろにすればするほど自分が彼女よりも上の存在だと優越感を得られるため、ますますやめられないという悪循環。
 しかし、学園を卒業すれば正式な結婚に向けて準備に取り掛からねばならない。
 そこから逃げるためにこのような茶番を打ったのだろうが……

 一言で言えば、彼は成人間近の王族としては幼稚すぎるのだ。

「とにかく、これでアハシュロス公女の疑いは晴らせたようですね。ちょうど良いので、この機会にこちらからも殿下たちに伺いたい事がございます」

 無事にアミィ嬢の嫌疑を晴らせたところで、ついにコニーが切り出した。
これからはこちらが詰問する側に回る番だ。 
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