8 / 22
昼の蟷螂
其の八
しおりを挟む
事件直前に現場を立ち去ったアーサーの証言では、ある娼妓が急におかしくなったという。
事件の直前に様子がおかしくなって、事件後に行方不明。
怪しいことこの上ない。
しかも成長著しいはずの年頃なのに、何年も外見が変わっていないらしい。
その娼妓はいったい何者なのだろうか?
「様子がおかしくなる前、何かあったのか?」
「世間話をしていただけだ。
別の娼館だが、そいつに感じの似た娼妓が客に殺されてな。
お前もおかしな客に気をつけろよって」
平然と捜査情報を漏らしていたと言い切られてオーウェンは白い目を向ける。
「お前、こんなところで捜査情報をべらべらとしゃべるなよ。
噂になったらどうするんだ」
「俺からは大したことは言ってないぞ。
そしたら、その娼妓がやけに話に喰いついてきて……
で、被害者の身に着けてたピアスの話をしたら、急に様子が変わったんだ。
顔も似ていたし、もしかすると身内だったのかもしれないな」
その殺された娼妓とおかしくなった娼妓は何か深い関係があるのは間違いないだろう。
「何か言ってなかったのか?」
「ぶつぶつ言ってたからよく聞き取れなかったが、約束を破ったとか、騙したとか……
それで様子がおかしくなって、お前らはいらないとか人間のところに行けとか」
約束を破ったというのは、殺された連中の事だろうか?
それにしてもお前らというのが解せない。
「お前ら?
お前の他に誰かいたのか?」
「いや誰もいないところに向かって、お前らはいらない、仲良くなれないと……
お前らを好む人間のところに行けと……
それから憑かれる前にここから立ち去れって言われたんだ。
あまりに気持ち悪くて、そのまますぐに帰った」
確かに不気味な話である。
しかも、その直後に陰惨な殺人事件が起きている。
関連を疑うなという方が無理だろう。
「なんだか、自分が人間じゃないような言い方だった
それが余計に気味悪くて……」
「どういうことだ?」
「そう……確かこう言われたんだ。
『おい人間、早くここを立ち去れ』って」
確かにおかしな言い方だ。
まるで、相手は人間だが自分は人間ではないような物言い。
そして、虚空に向かって話しかけていた。
成長期なのに見た目が変わらない。
そこまで聞いて、ずっと黙っていたハリスが唐突に訊ねた。
「そいつの耳は長かったか?
もしかすると森妖精かもしれんぞ」
太古に起きたと言われる神々の大戦で、精霊界から大量の精霊たちが紛れ込んでしまった。
彼らの中には次第に物質と同化して、人間同様にこの世界で生活し、子孫を残すようになった者たちがいる。
それが妖精族だ。
中でも長く尖った耳が特徴の森妖精は、美しい容姿と長い寿命、精霊使いとしての高い素養を持つと言う。
普通の人間には見えない精霊の姿を見ることができ、さらに言葉を交わして自在に操ることもできるのだ。
その反面、とても非力で体力も生命力も乏しく、ちょっとした事で死んでしまうのだが。
外見年齢が十五か六のまま変わらないという特徴も、証言と合致する。
「いや、耳は特に長かったような記憶はないぞ。
ただ、少しだけ形が尖っている気はしたが」
「半妖精か」
妖精族の中でも森妖精は、しばしば人間との間に子をなす事がある。
森妖精と人間の間に生まれた半妖精は、人間より長い寿命と高い知性、精霊使いとしての素養を持ち、森妖精よりは体力や筋力に優れている。
森妖精と人間の良いとこ取りだ。
耳の長さは森妖精ほどではなく、普通の人間よりやや長い程度だ。
半妖精と人間との子供はほぼ人間と同様だが、たまにその子孫が先祖返りして半妖精となることもある。
「半妖精ならば今回のような犯行は可能……か?」
半森妖精ならば、精霊魔法を駆使する事でさまざまな不思議な現象を引き起こすことが可能だ。
特定の範囲の音を消したり、遠く離れたところに音を伝えたり。
しかし、地上十メートルからロープも使わずに無傷で降りるようなことは可能だろうか?
何より、死体に群がる蟲の謎はどうなるのだろう。
「森妖精は神の声を聞けないが、半妖精なら可能だ。
……邪神の声を聞くこともあろう」
つまり、邪神の高位司祭のみが使える邪法「蟲使い」を使える可能性もあるということか。
確かに辻褄は合う。
辻褄は合うが……邪神の高位司祭ともあろうものが、なぜ長年男娼などという立場に甘んじていたのだろうか。
そしてなぜ、男娼の殺害事件を聞いただけで急に取り乱して暴れ出したのだろうか。
事件の直前に様子がおかしくなって、事件後に行方不明。
怪しいことこの上ない。
しかも成長著しいはずの年頃なのに、何年も外見が変わっていないらしい。
その娼妓はいったい何者なのだろうか?
「様子がおかしくなる前、何かあったのか?」
「世間話をしていただけだ。
別の娼館だが、そいつに感じの似た娼妓が客に殺されてな。
お前もおかしな客に気をつけろよって」
平然と捜査情報を漏らしていたと言い切られてオーウェンは白い目を向ける。
「お前、こんなところで捜査情報をべらべらとしゃべるなよ。
噂になったらどうするんだ」
「俺からは大したことは言ってないぞ。
そしたら、その娼妓がやけに話に喰いついてきて……
で、被害者の身に着けてたピアスの話をしたら、急に様子が変わったんだ。
顔も似ていたし、もしかすると身内だったのかもしれないな」
その殺された娼妓とおかしくなった娼妓は何か深い関係があるのは間違いないだろう。
「何か言ってなかったのか?」
「ぶつぶつ言ってたからよく聞き取れなかったが、約束を破ったとか、騙したとか……
それで様子がおかしくなって、お前らはいらないとか人間のところに行けとか」
約束を破ったというのは、殺された連中の事だろうか?
それにしてもお前らというのが解せない。
「お前ら?
お前の他に誰かいたのか?」
「いや誰もいないところに向かって、お前らはいらない、仲良くなれないと……
お前らを好む人間のところに行けと……
それから憑かれる前にここから立ち去れって言われたんだ。
あまりに気持ち悪くて、そのまますぐに帰った」
確かに不気味な話である。
しかも、その直後に陰惨な殺人事件が起きている。
関連を疑うなという方が無理だろう。
「なんだか、自分が人間じゃないような言い方だった
それが余計に気味悪くて……」
「どういうことだ?」
「そう……確かこう言われたんだ。
『おい人間、早くここを立ち去れ』って」
確かにおかしな言い方だ。
まるで、相手は人間だが自分は人間ではないような物言い。
そして、虚空に向かって話しかけていた。
成長期なのに見た目が変わらない。
そこまで聞いて、ずっと黙っていたハリスが唐突に訊ねた。
「そいつの耳は長かったか?
もしかすると森妖精かもしれんぞ」
太古に起きたと言われる神々の大戦で、精霊界から大量の精霊たちが紛れ込んでしまった。
彼らの中には次第に物質と同化して、人間同様にこの世界で生活し、子孫を残すようになった者たちがいる。
それが妖精族だ。
中でも長く尖った耳が特徴の森妖精は、美しい容姿と長い寿命、精霊使いとしての高い素養を持つと言う。
普通の人間には見えない精霊の姿を見ることができ、さらに言葉を交わして自在に操ることもできるのだ。
その反面、とても非力で体力も生命力も乏しく、ちょっとした事で死んでしまうのだが。
外見年齢が十五か六のまま変わらないという特徴も、証言と合致する。
「いや、耳は特に長かったような記憶はないぞ。
ただ、少しだけ形が尖っている気はしたが」
「半妖精か」
妖精族の中でも森妖精は、しばしば人間との間に子をなす事がある。
森妖精と人間の間に生まれた半妖精は、人間より長い寿命と高い知性、精霊使いとしての素養を持ち、森妖精よりは体力や筋力に優れている。
森妖精と人間の良いとこ取りだ。
耳の長さは森妖精ほどではなく、普通の人間よりやや長い程度だ。
半妖精と人間との子供はほぼ人間と同様だが、たまにその子孫が先祖返りして半妖精となることもある。
「半妖精ならば今回のような犯行は可能……か?」
半森妖精ならば、精霊魔法を駆使する事でさまざまな不思議な現象を引き起こすことが可能だ。
特定の範囲の音を消したり、遠く離れたところに音を伝えたり。
しかし、地上十メートルからロープも使わずに無傷で降りるようなことは可能だろうか?
何より、死体に群がる蟲の謎はどうなるのだろう。
「森妖精は神の声を聞けないが、半妖精なら可能だ。
……邪神の声を聞くこともあろう」
つまり、邪神の高位司祭のみが使える邪法「蟲使い」を使える可能性もあるということか。
確かに辻褄は合う。
辻褄は合うが……邪神の高位司祭ともあろうものが、なぜ長年男娼などという立場に甘んじていたのだろうか。
そしてなぜ、男娼の殺害事件を聞いただけで急に取り乱して暴れ出したのだろうか。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる