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昼の蟷螂
※其の七(残虐注意・蟲注意)
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事態はひそやかに進行した。
だからその時に廓にいた者たちの中にも、事件に全く気付かなかった者も多い。
まず最初に娼館の支配人が殺されたようだ。
悲鳴や物音を聞きつけた者はいなかった。
真っ先に喉を一文字にかき切られたのだろう。
喉がばっくりと裂け、真っ赤な断面の奥に白い頚椎が見え隠れしている。
その後、身動きもできぬまま腹部を縦に大きく裂かれ、臓物を引きずり出されて踏みつけられた。
よほど強く踏みつけたのか、引き出された腸はところどころで引きちぎられている。
更に、横向きに倒れたところを仰向けに転がされたようだ。
遺体の頭部は左側だけがべっとりと血がついている。
だらしなく開いた口の中には切断された男性器を突っ込まれていた。
事件が発覚した時、室内は天井まで血が飛び散り、床も壁も赤黒く染まっていたという。
あまりの血生臭さに、陰惨な事件に慣れている捜査官たちも、慌てて部屋をかけ出して、胃の内容物をぶちまけたらしい。
室内はくまなく血塗れで、足跡などの手がかりは残っていなかったが、家具や調度は整然としたまま。
激しく争ったような形跡は全く見つからなかった。
他にも世話役と用心棒の何人かが殺害されていた。
いずれも最初に喉を横一文字にかき切られ、その後に腹部を縦に切り裂かれ、さらに鎖骨の間から心臓を一突きされて絶命している。
それぞれ空き部屋に連れ込まれ、声もたてずに殺害されていたため、客や娼妓たちは何も気付かなかったようだ。
特筆すべきは現場の惨状である。
娼館で殺された者たちは、殺害後間もないとみられるにもかかわらず、多数の蟲がたかっていた。
蠅や埋葬虫、閻魔虫、翅隠、御器囓……
無数の蟲たちが死体に取りつきうごめき、死肉を食い荒らしていたのだ。
最後に発見されたのは娼妓が二人。
いずれも廓からだいぶ離れた路地裏で、全身に切り傷と打撲痕だらけで見つかった。
こちらは激しく争ったあとがあり、遺体には致命傷の他、多数の防御創が確認されている。
後の調査で何か言い争う様な声を聞いた者も複数見つかったが、何しろ花街の路地裏のことだ。
誰かが言い争うなど日常茶飯事で、全く気にも留めていなかったという。
後から事件の事を知って、驚いて証言したものばかりだ。
現場も殺害方法も異なるため、当初は別の事件と思われていたが、被害者の身元判明後、娼館の事件と関連付けられた。
前日夕刻に発見されたパルマキオン男爵との類似点から、この事件もオーウェン・サリヴァンとフレデリック・ハリスが担当する事となった。
「うわぁ……歩くたびにねちゃねちゃする……」
たっぷりと血を吸い込んだ支配人室のカーペットが、歩くたびにねちゃりねちゃりと粘ついた音を立て、粘着質の液体で靴底にまとわりつくのに閉口する。
むせ返るような血の匂いに酔いそうだ。
「死亡推定時刻に慌てた様子で娼館から飛び出した客がいます。
別室に呼んであるので聴取願います」
衛兵が二人を呼びに来た。
別室に行ってみると、そこに座らされているのは同僚のアーサー・ウォーカーだった。
「お前いったい何をやったんだ??」
オーウェンの呆れ半分の問いに、アーサーが疲れた様子で答える。
「たまたま遊びに来てたんだよ。
そしたら娼妓の様子がおかしくなってさ。
すごい剣幕で今すぐ立ち去れと言われたんだ。
憑かれる前に消えろって。
なんか目がギラギラしてて、とても正気とは思えなかった」
「なんだそれは。
それで、その娼妓は?」
「行方不明です。
名前はシェール。
金髪緑眼で、見た目は十五か六くらい。
そこそこの売れっ子で、だいぶ前からこの廓にいるようですね。
もう何年も見た目が変わらないと評判でした。
裏路地で殺されていた二名ではありません」
答えたのは衛兵だ。
事件の直前に様子がおかしくなって、事件後に行方不明。
怪しいことこの上ない。
しかも成長著しいはずの年頃なのに、何年も外見が変わっていない。
その娼妓はいったい何者なのだろうか。
だからその時に廓にいた者たちの中にも、事件に全く気付かなかった者も多い。
まず最初に娼館の支配人が殺されたようだ。
悲鳴や物音を聞きつけた者はいなかった。
真っ先に喉を一文字にかき切られたのだろう。
喉がばっくりと裂け、真っ赤な断面の奥に白い頚椎が見え隠れしている。
その後、身動きもできぬまま腹部を縦に大きく裂かれ、臓物を引きずり出されて踏みつけられた。
よほど強く踏みつけたのか、引き出された腸はところどころで引きちぎられている。
更に、横向きに倒れたところを仰向けに転がされたようだ。
遺体の頭部は左側だけがべっとりと血がついている。
だらしなく開いた口の中には切断された男性器を突っ込まれていた。
事件が発覚した時、室内は天井まで血が飛び散り、床も壁も赤黒く染まっていたという。
あまりの血生臭さに、陰惨な事件に慣れている捜査官たちも、慌てて部屋をかけ出して、胃の内容物をぶちまけたらしい。
室内はくまなく血塗れで、足跡などの手がかりは残っていなかったが、家具や調度は整然としたまま。
激しく争ったような形跡は全く見つからなかった。
他にも世話役と用心棒の何人かが殺害されていた。
いずれも最初に喉を横一文字にかき切られ、その後に腹部を縦に切り裂かれ、さらに鎖骨の間から心臓を一突きされて絶命している。
それぞれ空き部屋に連れ込まれ、声もたてずに殺害されていたため、客や娼妓たちは何も気付かなかったようだ。
特筆すべきは現場の惨状である。
娼館で殺された者たちは、殺害後間もないとみられるにもかかわらず、多数の蟲がたかっていた。
蠅や埋葬虫、閻魔虫、翅隠、御器囓……
無数の蟲たちが死体に取りつきうごめき、死肉を食い荒らしていたのだ。
最後に発見されたのは娼妓が二人。
いずれも廓からだいぶ離れた路地裏で、全身に切り傷と打撲痕だらけで見つかった。
こちらは激しく争ったあとがあり、遺体には致命傷の他、多数の防御創が確認されている。
後の調査で何か言い争う様な声を聞いた者も複数見つかったが、何しろ花街の路地裏のことだ。
誰かが言い争うなど日常茶飯事で、全く気にも留めていなかったという。
後から事件の事を知って、驚いて証言したものばかりだ。
現場も殺害方法も異なるため、当初は別の事件と思われていたが、被害者の身元判明後、娼館の事件と関連付けられた。
前日夕刻に発見されたパルマキオン男爵との類似点から、この事件もオーウェン・サリヴァンとフレデリック・ハリスが担当する事となった。
「うわぁ……歩くたびにねちゃねちゃする……」
たっぷりと血を吸い込んだ支配人室のカーペットが、歩くたびにねちゃりねちゃりと粘ついた音を立て、粘着質の液体で靴底にまとわりつくのに閉口する。
むせ返るような血の匂いに酔いそうだ。
「死亡推定時刻に慌てた様子で娼館から飛び出した客がいます。
別室に呼んであるので聴取願います」
衛兵が二人を呼びに来た。
別室に行ってみると、そこに座らされているのは同僚のアーサー・ウォーカーだった。
「お前いったい何をやったんだ??」
オーウェンの呆れ半分の問いに、アーサーが疲れた様子で答える。
「たまたま遊びに来てたんだよ。
そしたら娼妓の様子がおかしくなってさ。
すごい剣幕で今すぐ立ち去れと言われたんだ。
憑かれる前に消えろって。
なんか目がギラギラしてて、とても正気とは思えなかった」
「なんだそれは。
それで、その娼妓は?」
「行方不明です。
名前はシェール。
金髪緑眼で、見た目は十五か六くらい。
そこそこの売れっ子で、だいぶ前からこの廓にいるようですね。
もう何年も見た目が変わらないと評判でした。
裏路地で殺されていた二名ではありません」
答えたのは衛兵だ。
事件の直前に様子がおかしくなって、事件後に行方不明。
怪しいことこの上ない。
しかも成長著しいはずの年頃なのに、何年も外見が変わっていない。
その娼妓はいったい何者なのだろうか。
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