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昼の蟷螂
※其の三(蟲注意)
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「ああもう、一体どうなってんだ!?」
この事件の捜査を命じられた騎士のオーウェンは思わず頭をかきむしった。
すさまじい量の血液を吸った絨毯は、歩くたびにじくじくと湿った嫌な音と感触がする。
むせ返るような血臭で頭がクラクラしてきた。
もうクラクラするを通り越して、今は頭が割れるように痛い。
手がかりらしい手がかりはほとんどみつからない。
発見当時、部屋の窓は開いたままになっていたので、犯人の逃走経路は窓だと思われるのだが……
何しろここは貴族の館の3階なのだ。
窓から地上までゆうに9メートルはある。
こんな高さを何の備えもなく飛び降りれば、どんな人間もまず無事ではすまない。
しかし、窓やその周辺にはロープなどを結び付けたような痕跡は全く見つかっていない。
おそらく古代語魔法の「浮遊」か「落下制御」
を使ったのであろうが……
これらの呪文は初歩……とまではいかないが、ある程度年季のいった魔術師であれば誰でも使えるありふれたもの。
となると、そこから犯人に結び付く手がかりを得るのは至難の業だろう。
この街では古代語魔法の使い手は決して珍しくはないのだ。
他の手がかりはと言えば……このおびただしい数の蟲たちだ。
ざっと見ただけでも数千匹……いや数万匹いるかもしれない。
どう考えても死後丸一日経っていないにもかかわらず、これだけの数の虫が集まって遺体を食い荒らすのはあまりに不自然だ。
そう言えば、呪歌と呼ばれる特殊な歌に、小動物を呼び寄せるものがあるとどこかで聞いた覚えがある。
その歌声が続く限り、掌に乗る程度の大きさの小動物や小鳥を歌い手の周囲に召喚するのだ。
今回集まっていたのは蟲だが、似たような効果の呪歌があるかもしれない。
強力な呪歌の歌い手は、古代語魔法の使い手よりは数が少ない。
一般に知られていない特別な呪歌であればなおのこと。
さっそく調査してみよう。
頭痛をこらえて施策を巡らせていると、その様子を見た先輩騎士に声をかけられた。
さきほどからやたらと顔色が悪く、脂汗を浮かべている。
「おいサリヴァン、さっきからぼーっとして大丈夫か?
まさか血の臭いに酔ったんじゃないだろうな?」
さすがに大丈夫、その程度で参ったりはしない……と言いたいところだが、もしかするとこの頭痛はそのせいかもしれない。
特に死体が発見されたソファの周辺は妙に甘ったるい匂いが充満していて、なんだか吐きそうだ。
「すいません、ハリス先輩。
なんかこのソファのあたりとかすごい匂いで、頭痛いと言うか吐きそうというか……」
「まったく、しょうがないな……
む?これは血臭ではないな……!?」
嘆息しながらやってきた先輩騎士は、においをかぐと急に険しい顔になり、周囲の検分を始めた。
やがてソファの下から小さな香炉を発見すると、軽く匂いをかいでからしまった、という顔になり、慌てて小ぶりの麻袋の中に放り込んだ。
「お手柄だ、オーウェン・サリヴァン。
お陰で薬物使用の証拠の一部が見つかった。
これが手がかりになるやもしれん」
なんとか証拠品をいくつか押収することに成功した捜査陣は、鑑定のため、いったん撤収する事となった。
この事件の捜査を命じられた騎士のオーウェンは思わず頭をかきむしった。
すさまじい量の血液を吸った絨毯は、歩くたびにじくじくと湿った嫌な音と感触がする。
むせ返るような血臭で頭がクラクラしてきた。
もうクラクラするを通り越して、今は頭が割れるように痛い。
手がかりらしい手がかりはほとんどみつからない。
発見当時、部屋の窓は開いたままになっていたので、犯人の逃走経路は窓だと思われるのだが……
何しろここは貴族の館の3階なのだ。
窓から地上までゆうに9メートルはある。
こんな高さを何の備えもなく飛び降りれば、どんな人間もまず無事ではすまない。
しかし、窓やその周辺にはロープなどを結び付けたような痕跡は全く見つかっていない。
おそらく古代語魔法の「浮遊」か「落下制御」
を使ったのであろうが……
これらの呪文は初歩……とまではいかないが、ある程度年季のいった魔術師であれば誰でも使えるありふれたもの。
となると、そこから犯人に結び付く手がかりを得るのは至難の業だろう。
この街では古代語魔法の使い手は決して珍しくはないのだ。
他の手がかりはと言えば……このおびただしい数の蟲たちだ。
ざっと見ただけでも数千匹……いや数万匹いるかもしれない。
どう考えても死後丸一日経っていないにもかかわらず、これだけの数の虫が集まって遺体を食い荒らすのはあまりに不自然だ。
そう言えば、呪歌と呼ばれる特殊な歌に、小動物を呼び寄せるものがあるとどこかで聞いた覚えがある。
その歌声が続く限り、掌に乗る程度の大きさの小動物や小鳥を歌い手の周囲に召喚するのだ。
今回集まっていたのは蟲だが、似たような効果の呪歌があるかもしれない。
強力な呪歌の歌い手は、古代語魔法の使い手よりは数が少ない。
一般に知られていない特別な呪歌であればなおのこと。
さっそく調査してみよう。
頭痛をこらえて施策を巡らせていると、その様子を見た先輩騎士に声をかけられた。
さきほどからやたらと顔色が悪く、脂汗を浮かべている。
「おいサリヴァン、さっきからぼーっとして大丈夫か?
まさか血の臭いに酔ったんじゃないだろうな?」
さすがに大丈夫、その程度で参ったりはしない……と言いたいところだが、もしかするとこの頭痛はそのせいかもしれない。
特に死体が発見されたソファの周辺は妙に甘ったるい匂いが充満していて、なんだか吐きそうだ。
「すいません、ハリス先輩。
なんかこのソファのあたりとかすごい匂いで、頭痛いと言うか吐きそうというか……」
「まったく、しょうがないな……
む?これは血臭ではないな……!?」
嘆息しながらやってきた先輩騎士は、においをかぐと急に険しい顔になり、周囲の検分を始めた。
やがてソファの下から小さな香炉を発見すると、軽く匂いをかいでからしまった、という顔になり、慌てて小ぶりの麻袋の中に放り込んだ。
「お手柄だ、オーウェン・サリヴァン。
お陰で薬物使用の証拠の一部が見つかった。
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なんとか証拠品をいくつか押収することに成功した捜査陣は、鑑定のため、いったん撤収する事となった。
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