11 / 11
後書き
しおりを挟む
この度は拙作を最後までご覧下さってありがとうございましたm(_ _)m
こちらは母の従姉の遺品を整理していた時に、彼女から聞いたり、生前親戚から耳にした戦時中の話を思い出し、「従軍聖女追放モノ」のテンプレに違和感があるのはコレか......と思い至った時に一気に書き上げました。
母の従姉である薔子おばさまは名前の通り聡明で華麗な美貌のご令嬢でした。
彼女は従軍看護師として関東軍に随行し、敗戦後は八路軍に投降し国府軍との戦闘に随行、5年後に抗戦が終わってから更に3年間、日中友好協会の尽力で引き揚げられるまで元日本赤十字病院に勤務していたそうです。
戦時中から戦後にかけて、日本軍や入植者による理不尽な暴力や悲惨な戦闘、八路軍やレジスタンスによる報復やリンチ、国府軍と八路軍の泥沼の抗戦……と何年もの間、地獄を見続けた彼女は戦後50年以上経ってからも心は満州の大地をさまよっていました。
特に声を荒げたり、声高に悲惨な体験を語る事のない彼女でしたが、いつも黙って上品に微笑んでいるだけなのに、異様な緊張感を周囲に強いる、存在そのものが砕けたガラスのような人でした。
他の親戚の話では、戦後も従軍看護師に対する根強い差別があり、縁談が壊れるなどの辛い経験を重ねたそうです。
恥ずかしながら、私は幼心に彼女のピリついた空気が苦手で、親戚の集まりの時もあまり近くに寄りすぎないようにしていました。
最後にお目にかかったのは阪神淡路大震災のあと、自宅兼アトリエが全壊して他の親族の家に身を寄せておられた時です。
元々どこか壊れたような印象のある方でしたが、あの震災の後、完全に人であることをやめてしまい、施設に入ってまもなく亡くなりました。
日本画家でもあった彼女は、私に一枚の絵を遺してくれました。
その絵は黄色と鶸色、若葉色を基調とした背景に薄橙と薔薇色で描かれた、ふっくらとした可愛らしい菩薩像です。
暖色系で描かれた可愛らしい絵にもかかわらず、どこか不安定で危ういものの漂う、独特の迫力のある作品で、これを見るたびに穏やかで上品ながら、殺気とすら言えるような独特の緊張感の漂うおばさまの笑顔を思い出します。
ろくに推敲もせず、一気に書きあげた作品なので荒削りですが、戦後何十年経っても心だけを陰惨な戦場に置き去りにして生きざるを得ない人々がいた事、彼らと平和な暮らししか知らない我々ではどうしても越えられない一線があるのだという事が伝われば幸いです。
※作中に出てきた「フェレティング公女の手記」を別作品として投稿しております。
そちらも併せてお楽しみいただければ幸いです<(_ _)>
「幸福とは死者の群れの中に生者を見出すこと~セプテントリオの妖精姫~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/127841768/52537770
こちらは母の従姉の遺品を整理していた時に、彼女から聞いたり、生前親戚から耳にした戦時中の話を思い出し、「従軍聖女追放モノ」のテンプレに違和感があるのはコレか......と思い至った時に一気に書き上げました。
母の従姉である薔子おばさまは名前の通り聡明で華麗な美貌のご令嬢でした。
彼女は従軍看護師として関東軍に随行し、敗戦後は八路軍に投降し国府軍との戦闘に随行、5年後に抗戦が終わってから更に3年間、日中友好協会の尽力で引き揚げられるまで元日本赤十字病院に勤務していたそうです。
戦時中から戦後にかけて、日本軍や入植者による理不尽な暴力や悲惨な戦闘、八路軍やレジスタンスによる報復やリンチ、国府軍と八路軍の泥沼の抗戦……と何年もの間、地獄を見続けた彼女は戦後50年以上経ってからも心は満州の大地をさまよっていました。
特に声を荒げたり、声高に悲惨な体験を語る事のない彼女でしたが、いつも黙って上品に微笑んでいるだけなのに、異様な緊張感を周囲に強いる、存在そのものが砕けたガラスのような人でした。
他の親戚の話では、戦後も従軍看護師に対する根強い差別があり、縁談が壊れるなどの辛い経験を重ねたそうです。
恥ずかしながら、私は幼心に彼女のピリついた空気が苦手で、親戚の集まりの時もあまり近くに寄りすぎないようにしていました。
最後にお目にかかったのは阪神淡路大震災のあと、自宅兼アトリエが全壊して他の親族の家に身を寄せておられた時です。
元々どこか壊れたような印象のある方でしたが、あの震災の後、完全に人であることをやめてしまい、施設に入ってまもなく亡くなりました。
日本画家でもあった彼女は、私に一枚の絵を遺してくれました。
その絵は黄色と鶸色、若葉色を基調とした背景に薄橙と薔薇色で描かれた、ふっくらとした可愛らしい菩薩像です。
暖色系で描かれた可愛らしい絵にもかかわらず、どこか不安定で危ういものの漂う、独特の迫力のある作品で、これを見るたびに穏やかで上品ながら、殺気とすら言えるような独特の緊張感の漂うおばさまの笑顔を思い出します。
ろくに推敲もせず、一気に書きあげた作品なので荒削りですが、戦後何十年経っても心だけを陰惨な戦場に置き去りにして生きざるを得ない人々がいた事、彼らと平和な暮らししか知らない我々ではどうしても越えられない一線があるのだという事が伝われば幸いです。
※作中に出てきた「フェレティング公女の手記」を別作品として投稿しております。
そちらも併せてお楽しみいただければ幸いです<(_ _)>
「幸福とは死者の群れの中に生者を見出すこと~セプテントリオの妖精姫~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/127841768/52537770
0
お気に入りに追加
33
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(12件)
あなたにおすすめの小説
幸福とは死者の群れの中に生者を見出すこと~セプテントリオの妖精姫~
歌川ピロシキ
ファンタジー
私はかつてセプテントリオの妖精姫、と綽名されていたらしい。
未来の王太子妃として厳しい教育と公務に耐えながら、貼り付けた笑顔で愛想を振りまいていた、遠い時代の残滓だ。
今の私をそんな典雅な名で呼ぶものはいないだろう。
5年もの間ずっと泥の中を這いずり回って戦って、ようやく生還した私を待っていたのは、平和に浮かれる人々の空っぽの賛辞と、冷たい拒絶だった。
---------
「卑怯で臆病な僕は血塗れの聖女を受け入れることができない(https://www.alphapolis.co.jp/novel/127841768/516534973)」の中に出てくるフェレティングの手記です。
6人の戦友の思い出と、戦場で知り合った女性兵士たちのエピソードがフェレティングとプーブリスクスの視点で綴られます。
相変わらずのゆるふわ設定で、軍の組織や作戦などはものすごく適当です。
作者はミリタリー全くわからないので、何かおかしな点(特に戦車!!)ございましたらコメントにて教えていただけると泣いて喜びます<(_ _)>
関東軍の従軍看護師だった母の従姉の思い出や、今まで読んだり人から聞いたりした戦争体験がごちゃまぜに入っています。
どこかで聞いたようなエピソードがまじっていても生温かくスルーしてください<(_ _)>
登場人物のほとんどは戦死したり、戦後も差別や戦闘後遺症のため普通の生活が送れなくなるので、基本的にバッドエンドです。
苦手な方は回避してください。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
(完結)皇帝に愛されすぎて殺されましたが、もう絶対に殺されません!
青空一夏
恋愛
Hotランキング37位までいった作品です。
皇帝が深く愛する妃がお亡くなりになった。深く悲しんで帝は食事もあまり召し上がらず、お世継ぎもまだいないのに、嘆き悲しみ側室のもとにも通わない。困った臣下たちは、亡くなった妃によく似た娘、を探す。森深くに住む木こりの娘だったスズランは、とてもよく似ていたので、無理矢理連れていかれる。泣き叫び生きる気力をなくしたスズランだが、その美しさで皇帝に深く愛されるが周囲の側室たちの嫉妬により、罠にはまり処刑される。スズランはそのときに、自分がなにも努力しなかったことに気づく。力がないことは罪だ‥‥スズランが悔やみ泣き叫んだ。今度こそ‥‥すると時間が巻き戻って‥‥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
Twitterで作品の紹介いただきありがとうございます。
良い点
・冒頭の惹き
→ プロローグの最後の文章が惹きつけている事
・読みやすい文章
→ 朗読させても違和感がなく、サクサク読みやすい文章
・没頭する物語
→ サクサク読めるので苦痛なく、物語に没頭させてくれる。
気になる点
・世界観が薄く感じる。
→ 魔法・王制・貴族制度・戦争が話で見えてくるが、冒頭で他の解説がない..
戦争でも近代的なのか? 中世的なのか? 中世以前のものなのか?
これが描かれていたら満点でした。
丁寧に感想ありがとうございます((ヾ(≧∇≦)〃))
読みやすくするために、投稿前に何度か音読したので「読みやすい」とおっしゃっていただけて嬉しいです。
世界観の薄さは確かにネックですね。
無駄を省こうと思って省きすぎたかもしれません。
今後改稿して別サイトのコンテストに出すつもりなので、アドバイス参考にさせていただきます<(_ _)>