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本編
E30 断罪の日々
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あれから俺は徹底して月虹教団の勢力を削ぐことに専念した。
まず炊き出しの食糧に麻薬を混入し、スラム街の住人を薬物依存に陥らせてから薬を売りさばいたり、薬を餌に悪事を働かせていた教会に強制捜査に入り、そことつながりのある教会も片端から捜査のメスを入れる。
もちろんディディが一番に潰したがっていた、孤児たちを仕込んでパトロンたちに性的な奉仕をさせていた孤児院は人身売買の疑いで警邏騎士団から二個小隊を派遣して急襲した。
職員は全て逮捕、ありとあらゆる拷問を加えて余罪を追及した。そこから教会付属の複数の孤児院で児童売春や人身売買が行われていた証拠を押さえ、それぞれ拠点を押さえる。
これらの犯罪とは直接関係のなかった教会も、同じ教団の連帯責任として糾弾し、何か後ろ暗いところがあればどんなに僅かな不正でも厳しく取り締まった。最終的にはこの国から月虹教団を完全に排除してやろう。
「さすがにやりすぎではないのか?何事もバランスというものが大事だろう」
俺を自分の執務室に呼びつけたマリウス殿下が嘆息しながら言う。
曰く、教会派が勢力を持ちすぎるのは問題だが、全くいなくなれば別の勢力がのさばって御しにくくなる。ある程度手足をもいでからこちらの掌で転がしてやれば良いのだ、と。……正直、どの口が言うんだと思う。
殿下が教会派の奴らに貸しを作って勢力を拡大するため、さんざんディディに重病人や重傷者を治癒させて「奇跡」の安売りをさせた。
その代償に彼の生命がどれほど消費され、寿命が削られたことか。最終的にエスピーアごときに後れをとったのも、度重なる奇跡の大安売りで消耗していたから。
俺かディディのどちらかが狙われていると吹き込めば、彼の性格を考えれば自分を囮にしようと思い立つとわかりきっていただろうに、俺のいないところで余計な事を吹き込みやがって……自分のものにならないと悟った途端にディディを捨て駒にしやがった。ディディが無理をおしてパトリツァと出かけたのも、自ら囮になるためだ。
彼は、罠だと最初からわかっていてパトリツァの誘いに乗った。
教団の奴らの手足をもぐために、俺は全てを失った。俺にとって、自分の命や名誉よりもはるかに大切なものを。
殿下もそれに加担している以上、そのツケは必ず払ってもらう。
政権が不安定になれば内戦が起きて、国そのものが大国に飲み込まれて消える?それがどうした?
下らない政治のバランスゲームのためにディディはさんざんに利用されて、しまいには生命を落としたんだ。
彼を最期の最期まで食い物にしてその生命を吸い尽くしたこの国なんて滅びてしまえば良い。もちろんその時はこの俺も道連れだ。
俺自身が憎まれ狙われるとも言われたが、それだって要らぬ心配だ。
俺がまだ死なずにいるのは、自ら死を選んだらディディが悲しむからだ。誰かが殺してくれて、彼と同じところに行けるなら、願ってもない幸運というものだ。
むしろ感謝してやっても良いくらい。
粛清、粛清、また粛清。
次から次へと逮捕者を出し、その大半に死刑判決をつきつけた。
人身売買に薬物汚染、破壊工作の数々。
どれもこれも証拠は腐るほどある。今まで放置されていたのが不思議なくらいだ。その気になれば、面白いほどサクサクと処理してしまえる。どいつもこいつも詰めが甘いんだよ。
どうしてこの程度の連中を野放しにしておいたのか、正直に言って理解に苦しむほかはない。
そうやって俺から大切なものを奪った者たちをあるいは追い詰め、あるいは自滅させ。生き急いでいたある日のこと。
屋敷に戻った俺を妙な女が待ち構えていた。
妙にキラキラした印象の、プリズムのような瞳が印象的な、10代半ばの少女に見えるモノ。しかしその本質はもっとおどろおどろしく、そしてとてつもなく大きな力を内包しているのは一目でわかった。
「アンタねぇ、いい加減にしなさいよ!!限度ってものを知らないの!?
このままじゃ内戦よ内戦!!アンタの大事なお国がボロボロになってもいいわけ!?」
ヒステリックに喚きたてる女の顔をしたモノ。ぎゃあぎゃあと、どうでも良いことを喚いているが、そんなもの俺の知った事か。
というか、ここはどこだ?ついさっき屋敷に戻って玄関に入ったつもりが真っ白な何もない空間に放り出されている。
お前は誰だ?口には出さなかったが俺の疑問が伝わったらしい。
その女は自分の都合を一方的にまくしたてた。
「あたしはこの世界の創造者、月と虹を司る女神イシュチェルよ!!
なんか教会の連中があたしを無視してコソコソやっててどうしようかと思ってたら、もう好き勝手叩いてくれちゃって……これじゃこの国内だけじゃなくて他の国でも教団が活動しにくくなるじゃないっ!!
しかも教団だけじゃなくて、あたしの評判までだだ下がりだし!!
このまま身動き取れなくなって信仰が薄れて、あたしの力が殺がれちゃったらこの世界そのものの存続が危なくなるのよ!?」
そんなものはどうでもいい。俺が欲しいのはディディだけだ。
彼がいない世界なんて滅びたところで俺の知ったことじゃないだろう?
まず炊き出しの食糧に麻薬を混入し、スラム街の住人を薬物依存に陥らせてから薬を売りさばいたり、薬を餌に悪事を働かせていた教会に強制捜査に入り、そことつながりのある教会も片端から捜査のメスを入れる。
もちろんディディが一番に潰したがっていた、孤児たちを仕込んでパトロンたちに性的な奉仕をさせていた孤児院は人身売買の疑いで警邏騎士団から二個小隊を派遣して急襲した。
職員は全て逮捕、ありとあらゆる拷問を加えて余罪を追及した。そこから教会付属の複数の孤児院で児童売春や人身売買が行われていた証拠を押さえ、それぞれ拠点を押さえる。
これらの犯罪とは直接関係のなかった教会も、同じ教団の連帯責任として糾弾し、何か後ろ暗いところがあればどんなに僅かな不正でも厳しく取り締まった。最終的にはこの国から月虹教団を完全に排除してやろう。
「さすがにやりすぎではないのか?何事もバランスというものが大事だろう」
俺を自分の執務室に呼びつけたマリウス殿下が嘆息しながら言う。
曰く、教会派が勢力を持ちすぎるのは問題だが、全くいなくなれば別の勢力がのさばって御しにくくなる。ある程度手足をもいでからこちらの掌で転がしてやれば良いのだ、と。……正直、どの口が言うんだと思う。
殿下が教会派の奴らに貸しを作って勢力を拡大するため、さんざんディディに重病人や重傷者を治癒させて「奇跡」の安売りをさせた。
その代償に彼の生命がどれほど消費され、寿命が削られたことか。最終的にエスピーアごときに後れをとったのも、度重なる奇跡の大安売りで消耗していたから。
俺かディディのどちらかが狙われていると吹き込めば、彼の性格を考えれば自分を囮にしようと思い立つとわかりきっていただろうに、俺のいないところで余計な事を吹き込みやがって……自分のものにならないと悟った途端にディディを捨て駒にしやがった。ディディが無理をおしてパトリツァと出かけたのも、自ら囮になるためだ。
彼は、罠だと最初からわかっていてパトリツァの誘いに乗った。
教団の奴らの手足をもぐために、俺は全てを失った。俺にとって、自分の命や名誉よりもはるかに大切なものを。
殿下もそれに加担している以上、そのツケは必ず払ってもらう。
政権が不安定になれば内戦が起きて、国そのものが大国に飲み込まれて消える?それがどうした?
下らない政治のバランスゲームのためにディディはさんざんに利用されて、しまいには生命を落としたんだ。
彼を最期の最期まで食い物にしてその生命を吸い尽くしたこの国なんて滅びてしまえば良い。もちろんその時はこの俺も道連れだ。
俺自身が憎まれ狙われるとも言われたが、それだって要らぬ心配だ。
俺がまだ死なずにいるのは、自ら死を選んだらディディが悲しむからだ。誰かが殺してくれて、彼と同じところに行けるなら、願ってもない幸運というものだ。
むしろ感謝してやっても良いくらい。
粛清、粛清、また粛清。
次から次へと逮捕者を出し、その大半に死刑判決をつきつけた。
人身売買に薬物汚染、破壊工作の数々。
どれもこれも証拠は腐るほどある。今まで放置されていたのが不思議なくらいだ。その気になれば、面白いほどサクサクと処理してしまえる。どいつもこいつも詰めが甘いんだよ。
どうしてこの程度の連中を野放しにしておいたのか、正直に言って理解に苦しむほかはない。
そうやって俺から大切なものを奪った者たちをあるいは追い詰め、あるいは自滅させ。生き急いでいたある日のこと。
屋敷に戻った俺を妙な女が待ち構えていた。
妙にキラキラした印象の、プリズムのような瞳が印象的な、10代半ばの少女に見えるモノ。しかしその本質はもっとおどろおどろしく、そしてとてつもなく大きな力を内包しているのは一目でわかった。
「アンタねぇ、いい加減にしなさいよ!!限度ってものを知らないの!?
このままじゃ内戦よ内戦!!アンタの大事なお国がボロボロになってもいいわけ!?」
ヒステリックに喚きたてる女の顔をしたモノ。ぎゃあぎゃあと、どうでも良いことを喚いているが、そんなもの俺の知った事か。
というか、ここはどこだ?ついさっき屋敷に戻って玄関に入ったつもりが真っ白な何もない空間に放り出されている。
お前は誰だ?口には出さなかったが俺の疑問が伝わったらしい。
その女は自分の都合を一方的にまくしたてた。
「あたしはこの世界の創造者、月と虹を司る女神イシュチェルよ!!
なんか教会の連中があたしを無視してコソコソやっててどうしようかと思ってたら、もう好き勝手叩いてくれちゃって……これじゃこの国内だけじゃなくて他の国でも教団が活動しにくくなるじゃないっ!!
しかも教団だけじゃなくて、あたしの評判までだだ下がりだし!!
このまま身動き取れなくなって信仰が薄れて、あたしの力が殺がれちゃったらこの世界そのものの存続が危なくなるのよ!?」
そんなものはどうでもいい。俺が欲しいのはディディだけだ。
彼がいない世界なんて滅びたところで俺の知ったことじゃないだろう?
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