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本編
P19 深夜の密談
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またプルクラ様とエスピーア様からのお便りが届きました。
やはりあのお方を排除しなければ、わたくしの自由も教会や孤児院の未来もあり得ないようでございます。お二人からは、何とかして機会を作ってあのお方を誘い出し、少しだけ痛い目を見させて反省させようという提案がございました。
近々あのお方にとても大事な役目が回ってきて、しばらくの間は旦那様とは共に行動できなくなる予定なのだそうです。その時期にあのお方をわたくしと一緒に外出させて、ちょっとしたお仕置きをする所存でございます。
あ の方の優雅で儚げな美貌が恐怖と屈辱に歪む様を思い描くと、それだけで底知れぬ快感がこみあげてきて背筋がゾクゾクする思いがいたしますわ。
プルクラ様たちからのお便りがあった数日後、このところ夜あまり眠れなくなってしまったわたくしがまたテラスに向かっておりますと、執務室から話し声がしました。
いえ、白状しましょう。
今夜も旦那様とあのお方が二人きりで過ごしているかと思うと腸が煮えそうなほど怒りがこみあげてきて、せめてどんな会話をしているかだけでも知りたくてたまらなくなってしまったのです。立ち聞きなど淑女にあるまじき振る舞いとは重々存じてはおりますが、どうしても止めることができません。
あの夜以来、旦那様はわたくしに微笑みかけてくださることが一切なくなりました。それどころか目の前にいても視界に入っていないかのように無視されるか、せいぜいが侮蔑のこもった冷たい目で一瞥されるだけかのどちらかしかございません。
夕飯をご一緒することもなくなりました。わたくしの事などもはや一瞬たりとも視界に入れたくない、そんな態度を露骨に取られてしまい、わたくしは惨めで悔しくて情けなくて、日夜泣きぬれて暮らしております。
さて、そんな旦那様は今宵はいったいどんな睦言をあの泥棒猫とかわしておられるのでしょうか?
「どうしても断れないのか?時期が時期だし、どう考えてもあやしすぎる。だいたいついこの間だって無茶な願いを聞いてやったばかりだろう?どうしてお前がここまでしてやらなければならないんだ」
「たしかに神殿側の言い分は胡散臭いし、時期を考えても罠だとは思う。でもね、苦しんでいる患者さんがいるという事実は変わらないんだよ。だったら、僕は僕にできる精一杯の事をするしかないじゃないか」
「そんな事を言って……消費されるのはお前の生命だろう!?このままじゃ寿命を削り取られて死んでしまうんじゃないか? 前回倒れてからまだ一か月も経ってないんだぞ!?」
「大丈夫だから。僕を信じて?」
何やら物騒な話をしています。
あのお方が勝手に何かを引き受けてしまって、旦那様がそれを止めようとしているのでしょう。やはりあのお方は身勝手で我儘ですね。
寿命を削り取られて死ぬ?たいへん結構ではござざいませんこと?あの薄汚い泥棒猫が死んでしまえば、さしもの旦那様の目も覚めようというものでございますわ。
ああ、一日も早くあの根性悪にお灸を据えて、二度と逆らえないようしっかりと躾をしなくては。
「ディディ、俺はお前を人身御供に出さなければ己を守れないほど不甲斐ない人間ではないつもりだ。お前に危険な真似はして欲しくない。本当は一回だってあんな奴らに協力させたくないんだ。わかってくれないか」
旦那様のこんなにも熱の籠った声を未だかつて聞いたことがございません。
切ない声で必死に訴える旦那様。やはり旦那様の愛はあのお方にあったのですね。
もう絶対に赦せません。あのお方を徹底的に懲らしめて、二度と旦那様の前に出られなくなるようにしなければ……
やはりあのお方を排除しなければ、わたくしの自由も教会や孤児院の未来もあり得ないようでございます。お二人からは、何とかして機会を作ってあのお方を誘い出し、少しだけ痛い目を見させて反省させようという提案がございました。
近々あのお方にとても大事な役目が回ってきて、しばらくの間は旦那様とは共に行動できなくなる予定なのだそうです。その時期にあのお方をわたくしと一緒に外出させて、ちょっとしたお仕置きをする所存でございます。
あ の方の優雅で儚げな美貌が恐怖と屈辱に歪む様を思い描くと、それだけで底知れぬ快感がこみあげてきて背筋がゾクゾクする思いがいたしますわ。
プルクラ様たちからのお便りがあった数日後、このところ夜あまり眠れなくなってしまったわたくしがまたテラスに向かっておりますと、執務室から話し声がしました。
いえ、白状しましょう。
今夜も旦那様とあのお方が二人きりで過ごしているかと思うと腸が煮えそうなほど怒りがこみあげてきて、せめてどんな会話をしているかだけでも知りたくてたまらなくなってしまったのです。立ち聞きなど淑女にあるまじき振る舞いとは重々存じてはおりますが、どうしても止めることができません。
あの夜以来、旦那様はわたくしに微笑みかけてくださることが一切なくなりました。それどころか目の前にいても視界に入っていないかのように無視されるか、せいぜいが侮蔑のこもった冷たい目で一瞥されるだけかのどちらかしかございません。
夕飯をご一緒することもなくなりました。わたくしの事などもはや一瞬たりとも視界に入れたくない、そんな態度を露骨に取られてしまい、わたくしは惨めで悔しくて情けなくて、日夜泣きぬれて暮らしております。
さて、そんな旦那様は今宵はいったいどんな睦言をあの泥棒猫とかわしておられるのでしょうか?
「どうしても断れないのか?時期が時期だし、どう考えてもあやしすぎる。だいたいついこの間だって無茶な願いを聞いてやったばかりだろう?どうしてお前がここまでしてやらなければならないんだ」
「たしかに神殿側の言い分は胡散臭いし、時期を考えても罠だとは思う。でもね、苦しんでいる患者さんがいるという事実は変わらないんだよ。だったら、僕は僕にできる精一杯の事をするしかないじゃないか」
「そんな事を言って……消費されるのはお前の生命だろう!?このままじゃ寿命を削り取られて死んでしまうんじゃないか? 前回倒れてからまだ一か月も経ってないんだぞ!?」
「大丈夫だから。僕を信じて?」
何やら物騒な話をしています。
あのお方が勝手に何かを引き受けてしまって、旦那様がそれを止めようとしているのでしょう。やはりあのお方は身勝手で我儘ですね。
寿命を削り取られて死ぬ?たいへん結構ではござざいませんこと?あの薄汚い泥棒猫が死んでしまえば、さしもの旦那様の目も覚めようというものでございますわ。
ああ、一日も早くあの根性悪にお灸を据えて、二度と逆らえないようしっかりと躾をしなくては。
「ディディ、俺はお前を人身御供に出さなければ己を守れないほど不甲斐ない人間ではないつもりだ。お前に危険な真似はして欲しくない。本当は一回だってあんな奴らに協力させたくないんだ。わかってくれないか」
旦那様のこんなにも熱の籠った声を未だかつて聞いたことがございません。
切ない声で必死に訴える旦那様。やはり旦那様の愛はあのお方にあったのですね。
もう絶対に赦せません。あのお方を徹底的に懲らしめて、二度と旦那様の前に出られなくなるようにしなければ……
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