上 下
56 / 94
本編

P18 恥知らずには天罰を

しおりを挟む
 数日後、またプルクラ様からのお便りがございました。
 ピンク色の可愛らしいクッションが添えられておりまして、そっと縫い目をほどいてみますと、中からエスピーア様からのお便りが入っております。プルクラ様からのお便りでは、わたくしたちの愛する教会にこのところ無作法な人たちが出入りするようになったと、少し不穏な事が書かれておりました。
 炊き出しなどの奉仕活動に参加してくださるのはよろしいけれども、炊き出しのスープの材料を事細かに聞き出そうとしたり、施しを受けに来た人々に、どこに住んでいて普段何をしているのか、どのくらいの頻度でここに来るのかを根掘り葉掘り聞き出して、委縮させてしまったり……
 悪気はないのかもしれませんが、むやみに詮索されるのは誰にとっても嫌な事。
 ましてや施しを受けるなどという、人として恥ずかしい事をしている惨めな人々にとってはどれほどの屈辱でしょう。
 そんな人たちがウロウロしていては、憐れな貧民が施しを受けに来られなくなってしまいます。どうかその人たちが一日も早く己の非を悟って悔い改めますように。

 エスピーア様からのお便りには、わたくしの苦しみの諸悪の根源はやはりあのお方だろうと書かれていました。実はあの方が仕掛けた卑怯な罠のせいで、僻地で貧しい子供たちを救うために活動している高潔な志を持つ下位貴族が多数、無実の罪で逮捕されてしまったのだそうです。教会に不審な人々が押しかけているのもあのお方の差し金かもしれないとか。
 それだけではありません。孤児院の周辺も何かコソコソと嗅ぎまわっている輩が出没していて、それを後ろで糸を引いているのがあのお方の可能性があるのだと。
 あのお方が旦那様の正妻であるわたくしを妬んで貶めようと必死なのはわかっておりますが、だからといってわたくしの大切な癒しの場を次々と荒らしまわるとは、神をも恐れぬ所業でございます。
 何とかして一刻も早くあのお方に正義の鉄槌を下し、わたくしたちの大切な癒しの場である教会と孤児院を守らねばなりません。
 そして二度と生意気な顔ができないよう、身の程を思い知らせてやらなくては。

 わたくしはすぐさまプルクラ様、エスピーア様にお返事を書きました。
 邪悪なあのお方の野望を砕き、わたくしたちの癒しの場である教会と孤児院を守るためなら、どんなことでもする所存です。わたくしはお二人へのお返事で、わたくしにできる事なら何でもします、どんな事でも良いのでお申しつけ下さいと書き送りました。

 あのお方が教会や孤児院に悪しき介入をしている邪悪な人間であることがわかってから、わたくしは今まで以上にあのお方と接するのが苦痛になりました。
 また今朝も早い時間に叩き起こされ、あの方とアナトリオの下らない散歩に付き合わされ、苛立ちもひとしおでございます。なぜこのような無駄な事に時間を費やさなければならないのでしょう?  

「今日もアナトリオの散歩はディディがつきあってるのか?パトリツァはディディにアナトリオを取られたくないから自分で面倒を見ると言う話ではなかったのか?
 結局は全てディディに任せきりで、自分では何もしていないではないか」

 出勤の支度を済ませた旦那様が、苛立ちを隠そうともせずに乳母に文句を言っておられます。まるでわたくしが自分で言い出した事も守ろうとせず、わたくしのなすべきことをあのお方に押し付けているようではございませんか。
 実際はあのお方が好きで出しゃばって下らない事にえんえんと時間をかけているだけ。高位貴族として生まれ育ったわたくしには赤子の世話なんて汚くて臭い、賤しい真似はとてもできないだけです。
 なぜそんな当たり前の事がわからないのでしょう。
 頭脳明晰と評判の高い旦那様とは思えない愚かしさ、やはり愛人という邪な存在が聡明な旦那様の眼をも曇らせているのでしょうか。

 やはり1日も早くあのお方に相応しい罰を与え、2度とわたくしに逆らおうと思えぬようにしっかりと躾けてやらなければ。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...