上 下
33 / 94
本編

E14 生まれ変わった妻とおかしな友人

しおりを挟む
 ティコス男爵家のプルクラ嬢とよく出歩くようになったパトリツァ。
 毎日よほど充実しているようで、以前のようにすぐに癇癪を起こすようなこともなくなり、人が変わったように朗らかで穏やかになったのだが……
 やはり色々とおかしいだろう。

 教会のバザーや炊き出しにはさほどおかしな点はないような気がする。
 ……一度こっそり見に行った時に何か妙な違和感があったような気がしない訳ではないんだが。
 まぁ、そこまでおかしな印象はなかった。
 少なくとも俺はその場でどこがおかしいと指摘できるほどの異常を見つける事はできなかった。

 問題は孤児院だ。
 パトリツァの話を聞いていると、とても孤児院とは思えない。
 孤児院なんてどこも小汚くて、行儀の悪い子供がせわしなく走りまわっているものだ。まともに大人から躾や教育を受けさせてもらえる環境にはなかった子がほとんどだから、無作法で乱暴なものが多い。
 いろいろと厳しい環境で生きてきた結果、病気や怪我で目立つ傷跡のある子も珍しくない。みんなあちこち傷だらけでみすぼらしくて、下品で乱暴で大人に対して猜疑心さいぎしんをむき出しにしている。
 それが当たり前だし、その責任は子供たち自身ではなく彼らをそんな境遇においてしまっている我々大人……特に社会を支えるはずの貴族にある。
 だからこそ、そういった心身の傷や病を乗り越えさせて、一人で生きて行けるような教育を与えてやれるようにするのが我々貴族の務めノブリスオブリージュの一つであるのだが。

 それなのに、パトリツァの知る孤児院は小綺麗で、子供たちはおちついていて礼儀正しく、綺麗なお仕着せを着ていて、大人には決して逆らわないらしい。
 乱暴な子や悪戯をする子は一人としておらず、みなとても美しい容姿をしているとか。それどころか子供なりに健気に来訪者をもてなそうと一生懸命はげんでいるという。
 ……それは本当に孤児院か?
 どう考えてもおかしすぎる。

 しかし、パトリツァがあまりに毎日充実した様子で、嬉しそうに恵まれない人々への奉仕のすばらしさを語るので、なかなかに禁止しづらいものがある。
 貧しい者たちを蔑み、派手に着飾り宝石を見せびらかすことで自己顕示欲を満たそうとしていたパトリツァが、多少の傲慢さはあるものの、苦しい環境にある者に何かをしてやりたいと思えるようになったのであれば、頭から否定してはいけないと思うのだ。

 もっとまともな犯罪とは無縁の友人を作ってやるのが一番良いのはわかっている。
 しかし、パトリツァの今までの行状が酷すぎる上、未だに高位貴族として振舞えるだけのマナーも教養もまったく身についていない。勉強するようにうるさく言うと逆上して暴れるだけ。
 侯爵家の名を出していくら頼み込んでも、まともなご婦人ならば誰もまともに相手にしようとしないだろう。
 かつては俺から見て「まっとう」な貴婦人を紹介しようともしたのだが、彼女らはパトリツァに言わせれば「退屈で頭の悪い腹黒偽善者」なのだそうで、そんな人間と付き合えば自分まで下らないゴミのような存在に成り下がると反発して、耳を覆いたくなるような罵詈雑言を並べられた。
 これでは当分はまともに社交界で友人を作ることは難しいだろう。

 どうしたものかと思い悩みながら、他にはどんな人物が出入りしているのか、どんな事をしたのか、できるだけ詳しく聞き出す事しかできていない。
 そのおかげでまた関与が疑わしい貴族や商人の洗い出しもできたので、それはそれで良いのだが……
 孤児院に行った時は、くれぐれも一人で子供たちの対応をしないようにとだけ言い聞かせ、当分の間は様子を見るようにする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...