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夕顔の惑わし
捜査開始(1)
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昼前にジェーンとピオーネに正式な捜査協力のお願いをする手紙を送っておいたら、夕方には二人とも返事を届けてくれた。
もちろん捜査への協力を快諾してくれていてありがたい。
ピオーネは実家の伝手で噂話も集めてくれているそうだ。
彼女も広報補佐官になってからすっかり積極的になって頼もしい限りだ。
さて、他の商店で行方不明者が出ていないかをどう調べるか......
雲を掴むような話だとは思うが、それなりの数の失踪者がいるなら全て無届けのままということもあるまい。
働く子供たちの全てが住み込みとは限らないのだ。
失踪者の捜索願いを一通り調べてみよう。
あとは巡回の時に何か異変がなかったか、部隊の巡回記録と日誌に目を通す。
まだ犯罪にまで発展していないけれども街の中でちょっとした異変が起きている時、巡回中の警邏騎士がその兆候を見ている事がある。
その時は何だかわからず見過ごされたことも、後から見ると何かの事件の一部だったりするのだ。
だから、彼らの日誌をきちんと読み込んで行方不明者の兆候がないか目を皿のようにして探した。
事務所の隅の自分の机で書類の山とにらめっこしていると、ふとさっき井戸端で話しかけてきた従騎士たち2人がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「どうしたの?
ちょっと今取り込んでるから、稽古ならまた後でつけてあげるね」
「いえ、俺たちちょうど師匠に言われていた仕事が終わったところで。
もしお手伝いできることがあれば、やらせてもらえませんか?」
「ありがとう。
気持ちはとても嬉しいけど、ちゃんと師匠の許可は取った?」
「ああ、それはいいんだ。
使ってやってくれ」
手伝いを申し出てくれた子たちに、念のため自分の上官の許可を得るよう促すと、僕の同僚で彼らの師匠でもあるエサド・シャアバーニ准尉が笑って言った。
「さっきお前が武具の手入れ教えてくれただろ?
おかげでこいつら一人前にできるようになったみたいだからさ、役に立ちたくてしょうがないらしいんだ」
「ありがとう。
それではお言葉に甘えて、ドレインもエドンも手伝ってくれる?」
「「はい!!」」
気持ちの良い返事と共に2人の従騎士が駆け寄って来た。
素直に慕ってくれるのは少しくすぐったい気分だけど、本当に可愛い。
「この2か月間の日誌から、子供が声をかけられた事例やどこかに連れて行かれそうになった事例、身体を触られた事例を拾ってくれる?
日時と場所と、被害に遭った子供の年齢、性別、記述があればおおまかな体格も」
「かしこまりました」
事務所の隅の空いている作業机に連れて行って日誌と反故を渡し、関係のありそうな事例を箇条書きするように指示すると、二人は争うように日誌に目を通し始めた。
かなり集中しているようで、手早くページをめくりながら次々と気になる事例を書き出している。
彼らの様子を見ながら自分も失踪届のリストの確認を始めると、隣に座ったエサドが書類の束を一つ手に取ってめくり始める。
「だいぶ張り切っているが、大きな山か?」
「まだわからないけど、10~15歳くらいの子供が消えてるみたい。
性別は男女どちらもいなくなってるね」
「見境なしかよ」
「それはわからないけど……
ほとんどが単なる足抜けだと思われて届けが出てなかったみたい。
でも、数が多すぎるから……」
「ただの脱走にしちゃおかしい、と」
「うん、一つの事件なのか、偶然が重なっただけなのかは、調べてみないと何ともわからない。
わかっているのは、娼館で働いている子や、仕事で娼館に出入りしていた子がいなくなってるって事だけ。
というわけで、該当する年齢の子供の失踪届を拾ってくれる?」
「了解」
「ありがとう、助かるよ」
頼もしい助っ人のおかげで、夕方の訓練の時間までにはあらかた書類の確認が終わった。
娼館でいなくなった子供たちについては失踪届は出ていないようだ。
逆に、普通の商会の子供たちで個別に失踪届が出ているものがちらほらあって、娼館への出入りがあったかどうか調べてみる必要がありそうだ。
この年頃の行方不明者が急に増えたのはここ2か月ほどらしい。
残念ながら、イリュリアで人がいなくなるのはそこまで珍しいことではなく、失踪者が増えたのも特定の年齢の子供だけだったため、気付くのが遅れてしまった。
彼らが自分の意思で姿を消したならともかく、そうでないならば、一刻も早く、1人でも多く救出しなければ。
もちろん捜査への協力を快諾してくれていてありがたい。
ピオーネは実家の伝手で噂話も集めてくれているそうだ。
彼女も広報補佐官になってからすっかり積極的になって頼もしい限りだ。
さて、他の商店で行方不明者が出ていないかをどう調べるか......
雲を掴むような話だとは思うが、それなりの数の失踪者がいるなら全て無届けのままということもあるまい。
働く子供たちの全てが住み込みとは限らないのだ。
失踪者の捜索願いを一通り調べてみよう。
あとは巡回の時に何か異変がなかったか、部隊の巡回記録と日誌に目を通す。
まだ犯罪にまで発展していないけれども街の中でちょっとした異変が起きている時、巡回中の警邏騎士がその兆候を見ている事がある。
その時は何だかわからず見過ごされたことも、後から見ると何かの事件の一部だったりするのだ。
だから、彼らの日誌をきちんと読み込んで行方不明者の兆候がないか目を皿のようにして探した。
事務所の隅の自分の机で書類の山とにらめっこしていると、ふとさっき井戸端で話しかけてきた従騎士たち2人がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「どうしたの?
ちょっと今取り込んでるから、稽古ならまた後でつけてあげるね」
「いえ、俺たちちょうど師匠に言われていた仕事が終わったところで。
もしお手伝いできることがあれば、やらせてもらえませんか?」
「ありがとう。
気持ちはとても嬉しいけど、ちゃんと師匠の許可は取った?」
「ああ、それはいいんだ。
使ってやってくれ」
手伝いを申し出てくれた子たちに、念のため自分の上官の許可を得るよう促すと、僕の同僚で彼らの師匠でもあるエサド・シャアバーニ准尉が笑って言った。
「さっきお前が武具の手入れ教えてくれただろ?
おかげでこいつら一人前にできるようになったみたいだからさ、役に立ちたくてしょうがないらしいんだ」
「ありがとう。
それではお言葉に甘えて、ドレインもエドンも手伝ってくれる?」
「「はい!!」」
気持ちの良い返事と共に2人の従騎士が駆け寄って来た。
素直に慕ってくれるのは少しくすぐったい気分だけど、本当に可愛い。
「この2か月間の日誌から、子供が声をかけられた事例やどこかに連れて行かれそうになった事例、身体を触られた事例を拾ってくれる?
日時と場所と、被害に遭った子供の年齢、性別、記述があればおおまかな体格も」
「かしこまりました」
事務所の隅の空いている作業机に連れて行って日誌と反故を渡し、関係のありそうな事例を箇条書きするように指示すると、二人は争うように日誌に目を通し始めた。
かなり集中しているようで、手早くページをめくりながら次々と気になる事例を書き出している。
彼らの様子を見ながら自分も失踪届のリストの確認を始めると、隣に座ったエサドが書類の束を一つ手に取ってめくり始める。
「だいぶ張り切っているが、大きな山か?」
「まだわからないけど、10~15歳くらいの子供が消えてるみたい。
性別は男女どちらもいなくなってるね」
「見境なしかよ」
「それはわからないけど……
ほとんどが単なる足抜けだと思われて届けが出てなかったみたい。
でも、数が多すぎるから……」
「ただの脱走にしちゃおかしい、と」
「うん、一つの事件なのか、偶然が重なっただけなのかは、調べてみないと何ともわからない。
わかっているのは、娼館で働いている子や、仕事で娼館に出入りしていた子がいなくなってるって事だけ。
というわけで、該当する年齢の子供の失踪届を拾ってくれる?」
「了解」
「ありがとう、助かるよ」
頼もしい助っ人のおかげで、夕方の訓練の時間までにはあらかた書類の確認が終わった。
娼館でいなくなった子供たちについては失踪届は出ていないようだ。
逆に、普通の商会の子供たちで個別に失踪届が出ているものがちらほらあって、娼館への出入りがあったかどうか調べてみる必要がありそうだ。
この年頃の行方不明者が急に増えたのはここ2か月ほどらしい。
残念ながら、イリュリアで人がいなくなるのはそこまで珍しいことではなく、失踪者が増えたのも特定の年齢の子供だけだったため、気付くのが遅れてしまった。
彼らが自分の意思で姿を消したならともかく、そうでないならば、一刻も早く、1人でも多く救出しなければ。
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