上 下
12 / 39
桃園の昼顔

違和感(1) (コノシェンツァ・スキエンティア視点)

しおりを挟む
 顔合わせから数日後、二人で実際に花街に行って従業員名簿と帳簿を確認することに。
最初の見世では若僧二人だけで来たので足元を見られたのか、露骨にそっけない態度を取られてしまった。
ヴォーレは街の様子を見て気になる事があったらしく、色々と訊きだそうとしきりに娼館主に話しかけていたのだが、適当にあしらわれてしまっている。
何とか食い下がって従業員名簿の写しは作ってもらえることになったのだが、俺は結局何も役に立てず仕舞い。
ようやく最低限の目的を果たして見世を出るとどっと疲れてしまった。
まだまだ始まったばかりなのに先が思いやられる。

 すると、ヴォーレが少しだけ茶屋に寄ろうと誘ってきた。
何か考えがあるようだ。
おとなしくついて行くと、個室のあるこじんまりとした趣味の良い店に連れて行かれた。
注文した茶と茶菓子が届いて店の従業員がいなくなると、出てきた茶を一口味わってからヴォーレが口を開く。

「ふぅ、慣れない事したからちょっと緊張しちゃった。
やっぱり本来の業務じゃないと勝手がわからなくて困るよね」

 悪戯っぽく笑うと「今日は顔合わせのために各娼館の主に挨拶に行くだけにして、戻って第四中隊の担当者と今後の方針を話し合って決めよう」と告げてきた。
やはり足を引っ張ってしまっていたようだ。

「で、今日はどうするんだ?」

「とりあえず娼館主に一通りあいさつ回りして、ついでに噂話を色々と聞いてくるつもり。
ちょっと街の様子で気になる事があるから、今後の方針を考える前に情報収集して街の現状を把握したいんだ。
できれば姐さんたちや下働きの子にも話を聞きたいけど、それは無理しないで次に回しても良いと思う。
手伝ってくれる?」

 そう言われれば否やはない。
現状、全く役に立っていない自覚があるので、ここは大人しく彼の判断に従うことにしよう。

 その後のあいさつ回りは呆れるほどスムーズに済んだ。
ヴォーレは人懐っこい笑顔で娼館の主や従業員に話しかけては、手際よく知りたい事を聞きだしている。
最近の客の入りはどうなのか、客層が変わったりはしていないか。

「みんな働き者だね。
すごく忙しそうだけど、人手は足りてるの?」

「姐さんとっても綺麗ですね。
最近のご贔屓さんはどんな旦那です?」

 瞳を輝かせて好奇心いっぱいの少年といった風情で話しかけると、街の住人は気持ち良く答えを返してくる。
一つ一つは他愛のない噂や愚痴のようなものだが、彼にとっては重要な情報が隠れているらしい。
次第に質問の方向性が定まってくる。
見事としか言いようがない。
いくつかの娼館を回った後、再度茶屋に誘われた。

「この街、少しおかしいね。
花街で下働きや娼妓見習いの子が足抜けして行方不明になるのは、実は珍しい事ではないんだけれども……
さすがにちょっと多すぎるような気がする」

 どうやら何らかの犯罪を疑っているらしい。
見習いや下働きの他、出入りの商人など、この街で見かけなくなった子供の数が多すぎるのだとか。
同じ話を聞いていたはずなのに、全く気付かなかった。
人手不足で娼妓や見習いの質が落ちて、そのせいで客層も落ちる悪循環に陥ってるのだという。
いずれは税や戸籍など、各所に提出された書類を照らし合わせて矛盾を探し出してほしいと協力を頼まれた。

 話が済んで再び訪れた娼館は、どこも男娼をおく見世ばかりだった。
なぜかヴォーレにねっとりと迫ってくる顔役が多く、違和感を覚える。
彼は確かに小柄で可愛らしい顔立ちではあるが、綺麗に鍛えられた体格も、元気いっぱいの立ち居振る舞いも、快活な少年そのものである。
男娼として好まれる、中性的な線の細さはどこにもないのに、なぜあんなに絡まれるのだろう。

 男娼を置く見世でも見習いや下働きの失踪は多く、ヴォーレはただの脱走ではないと確信したようだ。
いくつかの見世の娼館主と協力の約束をして、それなりの手ごたえを感じている様子で最後の娼館に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...