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桃園の昼顔
違和感(1) (コノシェンツァ・スキエンティア視点)
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顔合わせから数日後、二人で実際に花街に行って従業員名簿と帳簿を確認することに。
最初の見世では若僧二人だけで来たので足元を見られたのか、露骨にそっけない態度を取られてしまった。
ヴォーレは街の様子を見て気になる事があったらしく、色々と訊きだそうとしきりに娼館主に話しかけていたのだが、適当にあしらわれてしまっている。
何とか食い下がって従業員名簿の写しは作ってもらえることになったのだが、俺は結局何も役に立てず仕舞い。
ようやく最低限の目的を果たして見世を出るとどっと疲れてしまった。
まだまだ始まったばかりなのに先が思いやられる。
すると、ヴォーレが少しだけ茶屋に寄ろうと誘ってきた。
何か考えがあるようだ。
おとなしくついて行くと、個室のあるこじんまりとした趣味の良い店に連れて行かれた。
注文した茶と茶菓子が届いて店の従業員がいなくなると、出てきた茶を一口味わってからヴォーレが口を開く。
「ふぅ、慣れない事したからちょっと緊張しちゃった。
やっぱり本来の業務じゃないと勝手がわからなくて困るよね」
悪戯っぽく笑うと「今日は顔合わせのために各娼館の主に挨拶に行くだけにして、戻って第四中隊の担当者と今後の方針を話し合って決めよう」と告げてきた。
やはり足を引っ張ってしまっていたようだ。
「で、今日はどうするんだ?」
「とりあえず娼館主に一通りあいさつ回りして、ついでに噂話を色々と聞いてくるつもり。
ちょっと街の様子で気になる事があるから、今後の方針を考える前に情報収集して街の現状を把握したいんだ。
できれば姐さんたちや下働きの子にも話を聞きたいけど、それは無理しないで次に回しても良いと思う。
手伝ってくれる?」
そう言われれば否やはない。
現状、全く役に立っていない自覚があるので、ここは大人しく彼の判断に従うことにしよう。
その後のあいさつ回りは呆れるほどスムーズに済んだ。
ヴォーレは人懐っこい笑顔で娼館の主や従業員に話しかけては、手際よく知りたい事を聞きだしている。
最近の客の入りはどうなのか、客層が変わったりはしていないか。
「みんな働き者だね。
すごく忙しそうだけど、人手は足りてるの?」
「姐さんとっても綺麗ですね。
最近のご贔屓さんはどんな旦那です?」
瞳を輝かせて好奇心いっぱいの少年といった風情で話しかけると、街の住人は気持ち良く答えを返してくる。
一つ一つは他愛のない噂や愚痴のようなものだが、彼にとっては重要な情報が隠れているらしい。
次第に質問の方向性が定まってくる。
見事としか言いようがない。
いくつかの娼館を回った後、再度茶屋に誘われた。
「この街、少しおかしいね。
花街で下働きや娼妓見習いの子が足抜けして行方不明になるのは、実は珍しい事ではないんだけれども……
さすがにちょっと多すぎるような気がする」
どうやら何らかの犯罪を疑っているらしい。
見習いや下働きの他、出入りの商人など、この街で見かけなくなった子供の数が多すぎるのだとか。
同じ話を聞いていたはずなのに、全く気付かなかった。
人手不足で娼妓や見習いの質が落ちて、そのせいで客層も落ちる悪循環に陥ってるのだという。
いずれは税や戸籍など、各所に提出された書類を照らし合わせて矛盾を探し出してほしいと協力を頼まれた。
話が済んで再び訪れた娼館は、どこも男娼をおく見世ばかりだった。
なぜかヴォーレにねっとりと迫ってくる顔役が多く、違和感を覚える。
彼は確かに小柄で可愛らしい顔立ちではあるが、綺麗に鍛えられた体格も、元気いっぱいの立ち居振る舞いも、快活な少年そのものである。
男娼として好まれる、中性的な線の細さはどこにもないのに、なぜあんなに絡まれるのだろう。
男娼を置く見世でも見習いや下働きの失踪は多く、ヴォーレはただの脱走ではないと確信したようだ。
いくつかの見世の娼館主と協力の約束をして、それなりの手ごたえを感じている様子で最後の娼館に向かった。
最初の見世では若僧二人だけで来たので足元を見られたのか、露骨にそっけない態度を取られてしまった。
ヴォーレは街の様子を見て気になる事があったらしく、色々と訊きだそうとしきりに娼館主に話しかけていたのだが、適当にあしらわれてしまっている。
何とか食い下がって従業員名簿の写しは作ってもらえることになったのだが、俺は結局何も役に立てず仕舞い。
ようやく最低限の目的を果たして見世を出るとどっと疲れてしまった。
まだまだ始まったばかりなのに先が思いやられる。
すると、ヴォーレが少しだけ茶屋に寄ろうと誘ってきた。
何か考えがあるようだ。
おとなしくついて行くと、個室のあるこじんまりとした趣味の良い店に連れて行かれた。
注文した茶と茶菓子が届いて店の従業員がいなくなると、出てきた茶を一口味わってからヴォーレが口を開く。
「ふぅ、慣れない事したからちょっと緊張しちゃった。
やっぱり本来の業務じゃないと勝手がわからなくて困るよね」
悪戯っぽく笑うと「今日は顔合わせのために各娼館の主に挨拶に行くだけにして、戻って第四中隊の担当者と今後の方針を話し合って決めよう」と告げてきた。
やはり足を引っ張ってしまっていたようだ。
「で、今日はどうするんだ?」
「とりあえず娼館主に一通りあいさつ回りして、ついでに噂話を色々と聞いてくるつもり。
ちょっと街の様子で気になる事があるから、今後の方針を考える前に情報収集して街の現状を把握したいんだ。
できれば姐さんたちや下働きの子にも話を聞きたいけど、それは無理しないで次に回しても良いと思う。
手伝ってくれる?」
そう言われれば否やはない。
現状、全く役に立っていない自覚があるので、ここは大人しく彼の判断に従うことにしよう。
その後のあいさつ回りは呆れるほどスムーズに済んだ。
ヴォーレは人懐っこい笑顔で娼館の主や従業員に話しかけては、手際よく知りたい事を聞きだしている。
最近の客の入りはどうなのか、客層が変わったりはしていないか。
「みんな働き者だね。
すごく忙しそうだけど、人手は足りてるの?」
「姐さんとっても綺麗ですね。
最近のご贔屓さんはどんな旦那です?」
瞳を輝かせて好奇心いっぱいの少年といった風情で話しかけると、街の住人は気持ち良く答えを返してくる。
一つ一つは他愛のない噂や愚痴のようなものだが、彼にとっては重要な情報が隠れているらしい。
次第に質問の方向性が定まってくる。
見事としか言いようがない。
いくつかの娼館を回った後、再度茶屋に誘われた。
「この街、少しおかしいね。
花街で下働きや娼妓見習いの子が足抜けして行方不明になるのは、実は珍しい事ではないんだけれども……
さすがにちょっと多すぎるような気がする」
どうやら何らかの犯罪を疑っているらしい。
見習いや下働きの他、出入りの商人など、この街で見かけなくなった子供の数が多すぎるのだとか。
同じ話を聞いていたはずなのに、全く気付かなかった。
人手不足で娼妓や見習いの質が落ちて、そのせいで客層も落ちる悪循環に陥ってるのだという。
いずれは税や戸籍など、各所に提出された書類を照らし合わせて矛盾を探し出してほしいと協力を頼まれた。
話が済んで再び訪れた娼館は、どこも男娼をおく見世ばかりだった。
なぜかヴォーレにねっとりと迫ってくる顔役が多く、違和感を覚える。
彼は確かに小柄で可愛らしい顔立ちではあるが、綺麗に鍛えられた体格も、元気いっぱいの立ち居振る舞いも、快活な少年そのものである。
男娼として好まれる、中性的な線の細さはどこにもないのに、なぜあんなに絡まれるのだろう。
男娼を置く見世でも見習いや下働きの失踪は多く、ヴォーレはただの脱走ではないと確信したようだ。
いくつかの見世の娼館主と協力の約束をして、それなりの手ごたえを感じている様子で最後の娼館に向かった。
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