完結【BL】紅き月の宴～Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

124話

「ルーカス……これで番との縁は切れた……」
「はい、でもシルフェ様……俺、何も変わった事はありません……」
身体の何かが変わった感覚は無い。
繋がっていたような物が切れる感覚があると、何かで読んだ気がした。
やっぱり駄目だったのか。
他人の命を犠牲にしても。
「申し訳……ありません……」
俺には謝る事しかできなくて、頭を下げる。
ぽたぽたと涙が落ちて消えていった。
「全て終わらせろ、報告は後で聞く」
シルフェ様はそう言うと、椅子から立ち上がる。
「ルーカス、少し部屋で休もうか。私の執務室でいいか？」
「はい、すみません」
立ち上がろうと差し出された手を握ろうとした瞬間、ふわりと抱き上げられる。
だいぶ抱き上げられる事に慣れてきてしまっている自分。
「シルフェ様、俺、歩けますよ？」
「気にしなくていい」
気にしなくていいわけなんてないのに。シルフェ様の優しさが嬉しい。
「ありがとうございます」
つい、すみませんと言いがちだがこちらの世界ではありがとう。感謝を伝える方が喜ばれるのだと気付いた。
「気にしなくていい。私が好きでしている事だからな」
シルフェ様の視線と同じ高さで周りを見ると、騎士達は静かに頭を下げていた。
あの男を俺の視界から隠すように数名の騎士達が立ってくれている。
その優しさに目頭が熱くなる。
「シルフェ様、皆様に後でお礼を言わせてくださいね……」
「どうした？」
「皆様の優しさが嬉しいので」
そう、俺が言うとシルフェ様は頷いた。
訓練所から出ると、騎士団の建物までは少し距離がある。それをシルフェ様は颯爽と慣れた足取りで歩いていく。
「少し休んだらフェイを呼ぼう？そうしたら、一度家に帰りなさい」
「シルフェ様と一緒にいてはいけませんか……いえ、シルフェ様はお仕事ですから……大丈夫です、馬車をお貸しいただければ、一人でも帰ることはできますので」
俺はシルフェ様を見る。
こうして仕事より俺を優先してくれるシルフェ様だが、あまりにも俺が我儘を言ってしまうのは良くないからだ。
「部屋で待てるなら一緒に帰るか？」
「え……」
「私も仕事がありますがルーカスを一人にもしたくないので、執務室で休んでくれるなら一緒に帰れますが」
「いいのでしょうか……お邪魔になりませんか？」
「いえ、ルーカスを構えないのは申し訳ありませんが、それで良ければ」
シルフェ様の言葉に、俺はギュッとシルフェ様に抱きついた。