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121話

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「また、そんな事を!」
「仕方ないだろう緊急事態だ」
侍従さんに叱られるシルフェ様が可愛らしい。
幼い時のシルフェ様が見えた気がした。
「ルーカス……そんな、笑う事は無いだろう?」
「笑っておりませんよ?シルフェ様」
そう言いながらも口元が緩んでしまう。
無意識に差し出した手をとり、シルフェ様は俺の手の甲に唇を当てた。
「ルーカス、ひとつ報告と相談がある……ルーカスには辛い選択になるかもしれないが、聞いて欲しい……此処で話してしまってもいいだろうか、それとも屋敷に帰りたいか?」
「戻りたいです。どんな事を聞かされることがあっても」
シルフェ様の手を取り、そっと頬に触れさせる。
ゴツゴツしたシルフェ様の指先が気持ち良かった。
「なら、急いで戻りましょう。馬車の用意を」
「済んでおります」
「では、行きましょうか」
辛い選択。
どんな事を聞かされるのだろうか。
やはり、俺は相応しくないと断頭台に送られてしまうのか。
それとも……。
それでも、シルフェ様から引導を渡されるのであれば辛くは無い。
悪役令息がここまで長らえられたのだから。
「ルーカス、私はルーカスがどのような選択をしても、常に一緒に居ると決めているからね?心配はしなくていいよ……」
シルフェ様の優しい声と頬を撫でる手。
ふわりと抱き上げられる事に慣れてしまい、変だと思わなくなってしまっている自分に苦笑しながら、俺はシルフェ様に抱きついた。
「しっかり掴まっていてくださいね?」
歩き出したシルフェ様にぎゅっと抱きつくと、シルフェ様はくすりと笑う。
用意されていた馬車は多頭引きの速度が出るもの。
「悪かったな」
シルフェ様が振り向きもせずに呟く。
「立派なお姿を見ることが出来るのは、幸せにございますよ。また、いらしてくださいませ」
そう、背中側から帰ってきた言葉に俺はそっと顔を動かした。
シルフェ様の数歩後ろには侍従さんが立っている。
俺と目が合うと、直角に頭を下げてくれた。
俺が口を開く前に、シルフェ様は俺を馬車に乗せると、その隣に自らも乗り込む。
「出せ」
扉が閉まり、シルフェ様の短い命令に御者の掛け声と、車輪の動き出す音がし始めて小さな振動がするようになる。
俺達は宮殿を後にしてシルフェ様の屋敷に戻る。
短いような長いような道程は、長く長く感じたのだった。
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