120 / 131
119話
しおりを挟む
どのくらい経っただろうか、シルフェ様が出て行ってから俺は寝台の上で独りごちていた。
誰とも会話をせず静かに時を過ごす。
「……はぁ、シルフェ様……いつお戻りになられるのだろう」
シルフェ様は此処で待つようにと言っていたが、あまり此処に居ても良くないかもしれないと、俺はチリンとベルを鳴らした。
それに、王宮はあまり良い思い出がないため、それならばシルフェ様の屋敷に戻りたいと思ってしまう。
だが、勝手にそれを決めることも出来ないためシルフェ様に判断を仰ごうとした。
やってきた侍従は年配であり、ダーウェルよりも年上に見えた。
「お待たせ致しました、何かございましたでしょうか」
皺ひとつないお仕着せ。
片目にモノクルを掛けた彼は深く腰を追って挨拶をしてくれた。
「すみません、着替えをお手伝いいただけますか?それと騎士団宿舎かシルフェ団長様のお宅に戻りたいと思いますので、シルフェ様にご連絡と出来ましたら馬車をお願いしたく」
「勿論ですとも、何をお召になられますか?各種取り揃えておりますが」
「動きやすいものを」
「かしこまりました、先ずは団長様への連絡と馬車のご用意をしてまいります。その後にお着替えを致しましょう」
そうして一度部屋を出ていった侍従が戻ってきた時に揃えられていたものは、チャイナカットソーに似た襟の詰まった服にキュロットというか、スカンツと言うか、スカートに見えるが足がわかれている不思議な服だった。
王宮でこれはどうなのだろうかと思いながらも出されたものだからとそれを身につける。
倒れる前に着ていた服は綺麗にたたまれて箱に入っていた。
喉にあるチョーカーは外されないままカットソーの襟で上手く隠れる。
「少し、御髪を整えましょう」
そう言われ、椅子に座らされると手早く髪を整えてくれた。
「シルフェ団長様から、もう少しだけお待ち頂きたいとの伝言をいただきましたので、宜しければ気晴らしにお庭の散策などいかがでしょうか?」
「ありがとうございます、でも……」
「大丈夫ですよ、王宮と言っても離れておりますので滅多なことでは王族の方にお会いすることはありませんので」
俺の言い淀んだ部分を的確に判断してくれ笑みを浮かべた侍従にでは少しだけと頷くと、お待ちくださいとまた何処かに向かうと、運んできたのは車椅子に似た物だった。
「倒れたばかりですので、歩くのは良くありませんし、わたくしめが抱き上げて差し上げるのは絶対に駄目だと坊っちゃま……こほん、シルフェ団長様より申しつかっておりますので」
くすりと茶目っ気たっぷりに片眉を上げて見せた侍従に、俺は目を見開いたのだった。
誰とも会話をせず静かに時を過ごす。
「……はぁ、シルフェ様……いつお戻りになられるのだろう」
シルフェ様は此処で待つようにと言っていたが、あまり此処に居ても良くないかもしれないと、俺はチリンとベルを鳴らした。
それに、王宮はあまり良い思い出がないため、それならばシルフェ様の屋敷に戻りたいと思ってしまう。
だが、勝手にそれを決めることも出来ないためシルフェ様に判断を仰ごうとした。
やってきた侍従は年配であり、ダーウェルよりも年上に見えた。
「お待たせ致しました、何かございましたでしょうか」
皺ひとつないお仕着せ。
片目にモノクルを掛けた彼は深く腰を追って挨拶をしてくれた。
「すみません、着替えをお手伝いいただけますか?それと騎士団宿舎かシルフェ団長様のお宅に戻りたいと思いますので、シルフェ様にご連絡と出来ましたら馬車をお願いしたく」
「勿論ですとも、何をお召になられますか?各種取り揃えておりますが」
「動きやすいものを」
「かしこまりました、先ずは団長様への連絡と馬車のご用意をしてまいります。その後にお着替えを致しましょう」
そうして一度部屋を出ていった侍従が戻ってきた時に揃えられていたものは、チャイナカットソーに似た襟の詰まった服にキュロットというか、スカンツと言うか、スカートに見えるが足がわかれている不思議な服だった。
王宮でこれはどうなのだろうかと思いながらも出されたものだからとそれを身につける。
倒れる前に着ていた服は綺麗にたたまれて箱に入っていた。
喉にあるチョーカーは外されないままカットソーの襟で上手く隠れる。
「少し、御髪を整えましょう」
そう言われ、椅子に座らされると手早く髪を整えてくれた。
「シルフェ団長様から、もう少しだけお待ち頂きたいとの伝言をいただきましたので、宜しければ気晴らしにお庭の散策などいかがでしょうか?」
「ありがとうございます、でも……」
「大丈夫ですよ、王宮と言っても離れておりますので滅多なことでは王族の方にお会いすることはありませんので」
俺の言い淀んだ部分を的確に判断してくれ笑みを浮かべた侍従にでは少しだけと頷くと、お待ちくださいとまた何処かに向かうと、運んできたのは車椅子に似た物だった。
「倒れたばかりですので、歩くのは良くありませんし、わたくしめが抱き上げて差し上げるのは絶対に駄目だと坊っちゃま……こほん、シルフェ団長様より申しつかっておりますので」
くすりと茶目っ気たっぷりに片眉を上げて見せた侍従に、俺は目を見開いたのだった。
205
お気に入りに追加
909
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
まさか「好き」とは思うまい
和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり……
態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語
*2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる