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96話
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あれから直ぐに俺は馬上の人になっていた。
と、言ってもゴトゴト進むのは荷馬車。
少し薄汚れた服と乱れた髪。
馬を操るのは街人の格好をしたフェイ。
俺の両脇には二人、俺と背格好のかわらない青年。
これから俺達は行商人と途中で拾われた花街に売られる青年という役だ。
荷馬車には食料を沢山乗せている。
荷馬車だから乗り心地は良くないし、騎馬では無いから時間もかかる。
それでも俺達は交代で馬車を走らせた。
通り過ぎる村で食料が少なければ荷馬車から少し荷物を下ろし、微々たる報酬を貰う。
「ありがとう、きっと王様たちが勝ってくれるからもう少し我慢して」
村人を励まし、時には宿に泊めて貰いながら進んだ先に漸く花街が見えてきた。
独特の色をした建物。
その周りには嫌な感じの男共がうろうろしているように見えた。
「フェイ!」
「えぇ……では」
俺は片方の青年と俯き、そっと抱き合う。
「おい、止まれ」
野太い声が聞こえて、フェイが馬の足を止めた。
「お前ら何処へ行くんだ」
「へぇ、俺らこの先の花街へ食材を運ぶ行商人でね、特に連絡が無かったからいつも通りに運んできたんですよ。ただ、来る途中の宿は金じゃなくて物がいいって言うもんでねだいぶ食材は少なくなっちまったけどね、此処の楼主には恩があるからさぁ、来ない訳にはいかなかったんだよ」
そう言いながらわざとらしくフェイは俺たちの方を見る。
下手に隠すよりはバラした方がいい時もある。
「何だ、俺たちにも寄越せ」
「すいませんねぇ、分けたいのはやまやまなんですがね……花街に届けねぇと、信用問題になりますからねぇ」
そう言いながらフェイは手綱を握った。
「仕方ねぇな行けよ」
追い剥ぎにでもあわないかと一瞬ヒヤリとしたが、どうやら大丈夫なようだった。
俺達も特に見られることも無く、花街の裏手側に馬車を停める。
「おーい、わりぃな頼まれてる食料と花を二輪連れてきたぜ?」
フェイは、俺達に降りろと言いながら片方の腰を抱く。
夫婦の演技だ。
「あぁ、いつもの行商人か……中に運び込んでくれ。食材が心許なくてなぁ……助かったよっつーか、こんな時期に花なんか連れて来られてもなぁ」
そう言ったのは、楼主だった。
「まぁ、訳ありなんだろう。顔を見せろよ、売りもんになるか見てやる」
おい、行け。とばかりにフェイに押し出され、俺は楼主の前に出た。
「ふぅん、元は良さそうだ。上手くすりゃ売りもんになるかもなぁ。どっちも顔は良さげだ。まぁ、支払いがあるから中に入れ。その前に食材を運ぶんだな手ぇ貸せ」
楼主が店に向かって声をかけると、何人もの姉様達が一斉に荷物を運び、馬車の中は綺麗になった。
馬を繋ぐと俺達は裏口から店に入る。
それまでずっと演技は続くのだった。
と、言ってもゴトゴト進むのは荷馬車。
少し薄汚れた服と乱れた髪。
馬を操るのは街人の格好をしたフェイ。
俺の両脇には二人、俺と背格好のかわらない青年。
これから俺達は行商人と途中で拾われた花街に売られる青年という役だ。
荷馬車には食料を沢山乗せている。
荷馬車だから乗り心地は良くないし、騎馬では無いから時間もかかる。
それでも俺達は交代で馬車を走らせた。
通り過ぎる村で食料が少なければ荷馬車から少し荷物を下ろし、微々たる報酬を貰う。
「ありがとう、きっと王様たちが勝ってくれるからもう少し我慢して」
村人を励まし、時には宿に泊めて貰いながら進んだ先に漸く花街が見えてきた。
独特の色をした建物。
その周りには嫌な感じの男共がうろうろしているように見えた。
「フェイ!」
「えぇ……では」
俺は片方の青年と俯き、そっと抱き合う。
「おい、止まれ」
野太い声が聞こえて、フェイが馬の足を止めた。
「お前ら何処へ行くんだ」
「へぇ、俺らこの先の花街へ食材を運ぶ行商人でね、特に連絡が無かったからいつも通りに運んできたんですよ。ただ、来る途中の宿は金じゃなくて物がいいって言うもんでねだいぶ食材は少なくなっちまったけどね、此処の楼主には恩があるからさぁ、来ない訳にはいかなかったんだよ」
そう言いながらわざとらしくフェイは俺たちの方を見る。
下手に隠すよりはバラした方がいい時もある。
「何だ、俺たちにも寄越せ」
「すいませんねぇ、分けたいのはやまやまなんですがね……花街に届けねぇと、信用問題になりますからねぇ」
そう言いながらフェイは手綱を握った。
「仕方ねぇな行けよ」
追い剥ぎにでもあわないかと一瞬ヒヤリとしたが、どうやら大丈夫なようだった。
俺達も特に見られることも無く、花街の裏手側に馬車を停める。
「おーい、わりぃな頼まれてる食料と花を二輪連れてきたぜ?」
フェイは、俺達に降りろと言いながら片方の腰を抱く。
夫婦の演技だ。
「あぁ、いつもの行商人か……中に運び込んでくれ。食材が心許なくてなぁ……助かったよっつーか、こんな時期に花なんか連れて来られてもなぁ」
そう言ったのは、楼主だった。
「まぁ、訳ありなんだろう。顔を見せろよ、売りもんになるか見てやる」
おい、行け。とばかりにフェイに押し出され、俺は楼主の前に出た。
「ふぅん、元は良さそうだ。上手くすりゃ売りもんになるかもなぁ。どっちも顔は良さげだ。まぁ、支払いがあるから中に入れ。その前に食材を運ぶんだな手ぇ貸せ」
楼主が店に向かって声をかけると、何人もの姉様達が一斉に荷物を運び、馬車の中は綺麗になった。
馬を繋ぐと俺達は裏口から店に入る。
それまでずっと演技は続くのだった。
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