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84話
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「そろそろ、向かってもいい時刻かな」
ちらりと時刻を確認してからフェイに馬車を頼む。
建物の隙間から見える尖塔は王宮の一部で、その近くにシルフェ様がいらっしゃる。
そう思うだけで、鼓動が早くなる気がした。
ガタガタと揺れる馬車が、通りを抜けて王城へ向かう道から逸れる。
もうすぐ逢える。
そう思った瞬間、騎士団の入口、門の前に居るはずがないシルフェ様の姿が見えた。
「え?」
早く到着しないかと、馬車の窓から前方を見ていた俺。
「フェイ、シルフェ様が……」
フェイに声を掛けたが聞こえているのか、馬車の外で手綱を握るフェイはこくりと頷いた。
少しだけ早くなったように感じる馬車のスピード。
ぐんぐんと近くなるシルフェ様との距離。
馬車が止まると、俺は待ちきれないとばかりに扉が開くのを待てずにノブに手を掛けた。
だが、そのノブが動き扉が外側に向かって開く。
「わっ!」
引っ張られる感覚と同時にギュッと抱き締められた。
「ルーカス、来てくれたのか」
抱き締めてくれたのはシルフェ様。
「シルフェ様。来てしまいました。着替えと今日はクッキーを……焼いてきました」
「そうか、時間があれば一緒にお茶でもどうだ?」
「是非。シルフェ様のお時間が許すなら」
俺の時間などあってないものなのだ。
シルフェ様の手を借りて馬車を降り、フェイが着替えやバスケットを持って立っている。
「では、私の執務室に行きましょうか。まだ入ったことは無いでしょう?フェイも、こちらです」
静かに頭を下げたフェイを見てシルフェ様は頷くと俺の手を握りながらゆっくりと歩き出した。
建物に入り、長い廊下を何度か曲がる。
階段を一階分上がると、重厚な扉が現れシルフェ様がそれを引いて開いた。
「少し執務をしていましたから、散らかっていますがそちらのソファーは大丈夫ですので、座っていてくれ。お茶は紅茶でいいか?」
「え、シルフェ様が?」
「そのくらいはできる」
「でも」
ちらりと後ろに付いてきたフェイを見ると、フェイは小さく頭を振った。
「ルーカス様、こちらにシルフェ様のお着替えと、バスケットを……」
そう言うと、フェイは静かに執務室を出ていった。
二人きりにしてくれるのだろう。
その気遣いを嬉しく思いながら、俺はバスケットの中から包んだクッキーを取り出した。
折角なのだから二人でお茶請けにしようと思ったのだった。
ちらりと時刻を確認してからフェイに馬車を頼む。
建物の隙間から見える尖塔は王宮の一部で、その近くにシルフェ様がいらっしゃる。
そう思うだけで、鼓動が早くなる気がした。
ガタガタと揺れる馬車が、通りを抜けて王城へ向かう道から逸れる。
もうすぐ逢える。
そう思った瞬間、騎士団の入口、門の前に居るはずがないシルフェ様の姿が見えた。
「え?」
早く到着しないかと、馬車の窓から前方を見ていた俺。
「フェイ、シルフェ様が……」
フェイに声を掛けたが聞こえているのか、馬車の外で手綱を握るフェイはこくりと頷いた。
少しだけ早くなったように感じる馬車のスピード。
ぐんぐんと近くなるシルフェ様との距離。
馬車が止まると、俺は待ちきれないとばかりに扉が開くのを待てずにノブに手を掛けた。
だが、そのノブが動き扉が外側に向かって開く。
「わっ!」
引っ張られる感覚と同時にギュッと抱き締められた。
「ルーカス、来てくれたのか」
抱き締めてくれたのはシルフェ様。
「シルフェ様。来てしまいました。着替えと今日はクッキーを……焼いてきました」
「そうか、時間があれば一緒にお茶でもどうだ?」
「是非。シルフェ様のお時間が許すなら」
俺の時間などあってないものなのだ。
シルフェ様の手を借りて馬車を降り、フェイが着替えやバスケットを持って立っている。
「では、私の執務室に行きましょうか。まだ入ったことは無いでしょう?フェイも、こちらです」
静かに頭を下げたフェイを見てシルフェ様は頷くと俺の手を握りながらゆっくりと歩き出した。
建物に入り、長い廊下を何度か曲がる。
階段を一階分上がると、重厚な扉が現れシルフェ様がそれを引いて開いた。
「少し執務をしていましたから、散らかっていますがそちらのソファーは大丈夫ですので、座っていてくれ。お茶は紅茶でいいか?」
「え、シルフェ様が?」
「そのくらいはできる」
「でも」
ちらりと後ろに付いてきたフェイを見ると、フェイは小さく頭を振った。
「ルーカス様、こちらにシルフェ様のお着替えと、バスケットを……」
そう言うと、フェイは静かに執務室を出ていった。
二人きりにしてくれるのだろう。
その気遣いを嬉しく思いながら、俺はバスケットの中から包んだクッキーを取り出した。
折角なのだから二人でお茶請けにしようと思ったのだった。
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