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80話

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「え。本気?」
俺は静かに立っているダーウェルを見上げた。
このお屋敷には非戦闘員は一人も居ないらしい。
全員が元騎士でそれなりの使い手だと。
俺も王子妃教育の一環で多少の武術の心得はあるけれど、戦闘員とは言えない。
「えぇ、私も多少ですが腕に憶えはございます」
にっこりと微笑むダーウェルのかっちりとしたお仕着せの下は盛り上がった筋肉があるのだろうか。
「ダーウェル、俺も何か武術を習いたい。自分の身はできるだけ自分で守りたい」
「ルーカス様」
「有事の際にダーウェル達がこの屋敷を守るんだろ?だったら少しでも俺も戦えた方がいいだろう?」
そう告げるが、ダーウェルは頭を振る。
「なりません……ルーカス様」
「何故?シルフェ様に言われている?」
困ったように笑うダーウェルに、俺はお願いと手を合わせた。
何度もお願いをすると、漸くダーウェルが小さく息を吐く。
「仕方ありませんね、ルーカス様は何を好まれますか?」
「俺は体術から剣術、槍術、弓術くらいの経験だな」
俺は一つ一つ指を折って答えた。経験があると言っても本当に戦えるような技量は持ち合わせていないのはわかっている。
基本的な所作くらいで、それがどの程度通用するかもわからない。
「畏まりました、得意な者を集めましょう。それと、乗馬の稽古もしていただきますが大丈夫でしょうか」
「あぁ、大丈夫だ。明日から少しづつ訓練をしたいから着替えもお願いをしたい」
「勿論です」
ダーウェルに頼むと、やるならば完璧に!と、笑われてしまった。
そんな話をしていると、扉にノックがあり緊張した表情の侍従から調香師がやってきたと報告が上がった。
さっきの今だよとダーウェルを見上げると、何か問題でも?と、ばかりに口元が上がっている
「では、調香師は応接室に。ルーカス様のご好意で香水を買ってくれる。と言うから欲しい人は集まりなさい」
ダーウェルさんの指示で侍従達がわらわらと蜘蛛の子を散らすように散っていくのが面白い。
どれだけ調香にこの屋敷の皆の気が向いているのか、今の俺にはわからない。
とりあえず俺はシルフェ様とフェイ、ダーウェルにも似合う香水を決めなければと気合いを入れて立ち上がった。
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