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69話

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「大変なことになっちゃったんだけど」
俺は部屋に戻ると、俺はソファーに腰掛けながらお茶をいれてくれているフェイを見上げた。
「大丈夫ですよ、ルーカス様なら今まで王子妃教育をされていらっしゃったじゃないですか。しかもほぼ教育は終わっていると聞いていますが」
フェイはそっと紅茶を注いだカップを置いた。
「確かに教育はされてきたけれど、自信無いよ……」
あくまでも王子妃教育は王子を補佐するものが中心だ。
王子に足りないものを補う事と、子を宿すこと。
そればかりを叩き込まれてきた。
だが、シルフェ様に不足しているものなどわからないし、シルフェ様が行ってきたように采配などできないのだ。
「なら、アーデルハイド家に戻りますか?伯爵様なら何も言わずに受け入れてくれますよ」
そう言いながら、音を立てずに焼き菓子が乗った皿をフェイは置く。
「……家には戻らない、何かあればダーウェルさんと相談して決めるよ」
「それがようございます」
俺は所在なげに小さく溜息を吐くと同時に扉にノックがある。
どうぞ。俺はそう声を掛けると静かに扉が開く。
「シルフェ様からのお手紙と新しい便箋をお持ちしました」
扉を開きダーウェルが静かに頭を下げる。
手にしていた銀盆の上には白い封筒と、一輪の花。
そして新しいレターセット。
「まずはこちらを」
差し出してきたのはシルフェ様からの手紙で、フェイが隣からそっとペーパーナイフを渡してくれた。
「ありがとう」
俺は隙間からナイフをいれて封を切る。
ダーウェルが開封をしていないことを確認したのだ。
別に開封してあっても問題ないのだけれど。
「ゆっくり読んで返事を書きたいから一人にしてくれる?」
「かしこまりました。差し出がましいようですが、ルーカス様どうぞ次に書かれる手紙には封緘をされてください。こちらに蝋をご用意してありますので好きなお色を。印はどうぞ好きなものがありましたらお使いください」
ずらりと並べられた蝋。
「印は昔から使っているものでいい?それならフェイ俺のバッグの中に……」
アーデルハイド家から薬と一緒に持ってきたものがある。
もう使うことは無いだろうと思っていた封蝋の印。小さな花に囲まれた猫。
「蝋は、インクに合わせたいから今回は青で」
新しい便箋はほんのりと水色で染められ、小さな花が描かれている。
「かしこまりました。ではレターセットはこちらに置かせていただきますね」
ダーウェルがレターセットと封蝋一式を机の上に並べてくれる。
「ありがとう。二人とも下がっていいよ、手紙が書けたらシルフェ様にお願い」
そう言うと、静かに二人は下がっていく。
俺は紅茶を飲み干してから焼き菓子をそのままに机に向かいシルフェ様からの手紙を開いたのだった。
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