上 下
58 / 80

57話

しおりを挟む
「ルーカス、大丈夫か?」
「はい」
シルフェ様に抱き締められて俺は頷いた。
少し喉が痛い。
掠れてしまった声も恥ずかしい。
でも、シルフェ様を受け入れて愛された時間は至福の時なのだ。
「ほらこれを。口を開けて?」
全裸のまま二人で寝台の上に寝転んでいると、シルフェ様がふと起き出してから何かを手に取る。
言われるがまま口を開くと、シルフェ様が指先で何かを摘み俺の口に入れたのだった。
ふわりと広がる甘味は優しくて、カラコロと口の中を転がる。
「美味しい」
「甘いだろう?」
「はい、以前いただいた飴ですか?」
優しいミルクの風味。花街にいた時に差し入れされた飴と同じ味がした。
「喉に良いかもしれないから、少しの間舐めていて。もっと食べたい時には此処に瓶があるから、開けて食べていい。ルーカスへプレゼントだよ」
そう言いながらシルフェ様は掌くらいの大きさの瓶をそっとヘッドボードへと置いた。
可愛らしい丸い瓶に白くて小さな玉がたくさん詰められている。
「ありがとうございます、優しい味がします」
「お茶を用意して貰うから待っていて。窓を少し開けようか」
寝台から降りたシルフェ様は大きな窓をそっと開くと、薄いレースのカーテンが入ってきた風にはためいた。
動けない俺の身体にそっとガウンを掛けてくれたシルフェ様は、自分もガウンを羽織ると前を帯で締めてからチリンとベルを鳴らした。
「失礼いたします」
部屋に入ってきたのはフェイで、何も言っていないのにワゴンを押していた。
ふわりと鼻腔をくすぐるのは蜂蜜だろうか。
「そちらに置いておいてくれ、後はやる」
「畏まりました」
カチャカチャとフェイはテーブルの上にティーカップやポットを置いて行った。
「ルーカス、フェイが軽食も用意をしてくれたが、食べる気力はあるか?」
フェイが扉から出ていくのを音で確認してから起き上がる。流石に全裸を見られるのは恥ずかしい。
「はい、少しなら」
まだ飴が口の中にあるから、それが無くなってから軽食ををつまもうと思いながら俺は寝台を降り、掛けて貰っていたガウンを来てからソファーに向かおうとして足を踏み出したが、その一歩が何も無い所で躓き転ぶと思った瞬間シルフェ様に抱き止められていた。
「も、申し訳ありません!」
ギュッとシルフェ様のガウンを掴んでしまったが、転ばないとわかると掴んだ手から力抜いた。すると、ふわりと身体が浮き上がりシルフェ様に抱き上げられていた。
「足に力が入らないか?なら、抱いて行こう」
そう、シルフェ様は嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

[完結]Good-bye Darling

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:517

もう悪役には生まれたくなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:427pt お気に入り:551

悪役Ωは高嶺に咲く

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:34

【完結】婚約破棄…さぁ、これからが本番です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,666

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:1,225

【完結】婚約破棄は受けますが、妹との結婚は無理ですよ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:420

処理中です...