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56話

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「シルフェ様……」
唇が触れただけで甘い声が漏れる。
シルフェ様がαで、いくらΩに対する服従フェロモンを出せるからと言って、この屋敷にもし俺以外のΩがいたらどうするのだろうか。
くらくらとする視界。
ぼんやりとシルフェ様を見上げて、俺はそっとシルフェ様のシャツを握った。
心拍数が上がって、顔が赤くなっているのか火照ったように感じる。
「ふは」
口から変な吐息を漏らして、シルフェ様の広い胸にことりと額を押し当てた。
「ルーカス?」
「シルフェ様酷い。何もしないって言ったのに……キスだけで俺……」
シルフェ様のフェロモンが屋敷に入った時から少し強く感じるのは、他に誰か好きな人が屋敷の中に居てそちらへ意識が行ってるからかもしれない。
それなのに、俺にもそのフェロモンは効いてしまうから、一緒にいたら身体が辛いのだ。
「悪い、自宅に帰ってきたから気が緩んでいるのだろうか……自宅ならどうやってルーカスに無理をさせないで抱けるかを考えてしまうからかな?」
笑みを浮かべたシルフェ様の、逞しさを感じる美貌を間近で見て、俺は辛くなる。
「シルフェ様に無理をされた事なんてありませんが?でも、今まで以上に甘く抱いてくださるのですか?」
浅く早くなる呼吸を何とか誤魔化してシルフェ様を見上げると、何故かシルフェ様は破顔した。
「ルーカスは優しく気持ちいいのが好きか?少し強引なのも好きと認識しているが」
「……どちらも、シルフェ様に抱かれるのは至福の時なのです」
背中を支えられながら、俺はそっとシャツを握る側の手とは反対の手でシルフェ様の太腿に触れた。
鍛え抜かれた筋肉の塊のようでありながら、シルフェ様の身体は筋骨隆々ではない。
「シルフェ様、今夜はもう駄目ですか?」
向かい合うようにして俺はシルフェ様の太ももに跨るように座る。
「ん、ふ……シルフェ様……」
「ルーカス、今日の昼にもしたのだぞ?」
「はい。でも、欲しくなってしまいました……はしたないですか?」
確かにはしたない事だと思う。
自分からシルフェ様を欲しがるなんて。
シルフェ様が俺を抱きたい時には俺は何時でも足を開かなければならないのは楼閣のお姉様方に言われてきた事なのだから。
「ルーカス、はしたなくないし私は嬉しいが無理だと思ったら止めるからな?」
シルフェ様の手が俺の頬を撫でていく。
その気持ちよさに目を伏せてシルフェ様の指先から与えられる快楽に身を任せていくのだった。
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