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55話

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「ルーカスは、何でも似合うからな。肌は白いからどんな色もいいが、淡く優しい色がいいな」
シルフェに促され並んでソファーに座りながらお茶を飲む。
ふわりと花の香りがするフェイがいれてくれたお茶だ。
眠る前だからと摘めるように簡単な焼き菓子も添えてくれている。
「だが、ルーカスはどんな色を好む?」
そう聞かれて俺は言葉を失った。
今まで選んできたのは髪色に合わせて寒色系の服ばかりで、花街で渡された軟らかな薄桃色の服に驚いたのだ。
「……好きな色と言うのは今まで無く……用意いただいたものを着ていましたから、必然と青が多く……」
あの、王子の瞳の色や髪の色に合わせてデザインされたものが多かったなと今思い返すと苦笑しかない。
「確かにルーカスは青も似合うが、紫からピンクも似合うと思うしモノトーンも良いな。動きやすいものを好むのは知っているが、露出の多いものは私の前だけにしてくれると有難い」
ちらりとシルフェ様の視線が俺の胸元で止まるような気がした。
特に自分の視界におかしなものは見えていないと思った瞬間、俺はショールを胸の前で掴む。
微かに残る痕。
身体はフェイに洗ってもらったため、まじまじと自分の身体を見ることも無く。
でも、よくよく見ると太ももや足の甲にも痕が残っていた。
フェイ、言ってくれよ!
そう思いながらも、フェイに指摘されるのも恥ずかしくて俺はどうしていいかわからず視線を逸らす。
「そんなに怯えないでくれ。今夜はしないから……だが、少しルーカスと一緒に居たい」
「怯えてなんかいません、恥ずかしいだけで……」
「可愛い」
ギュッと抱き締められて一瞬息が止まりそうになる。
「シルフェ様……あの」
「本当にルーカスは可愛いな」
「そんな事、言われた事ありません……俺に一番似合わない言葉ですよ」
婚約者であった王子に言われた事は一度も無い。
言われたいと思ったこともあったが、ついぞ婚約破棄までそんな甘い時間はあの王子とは無かったのだ。
「そんな事ない。ルーカスは自己肯定感が低いよ。美人だし優しい。それに可愛いしいやらしいところも素敵だと思う」
そんな事を真面目な顔でそう告げてくれる。
「……ありがとう、ございます」
その言葉以外出てこない。腰に手を回され近い距離で囁かれると耳が擽ったい。
俺は無意識に目を伏せると、そっと唇に触れるものがあった。
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