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53話

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「こちらです、ルーカス様」
ダーウェルが開けた扉の向こうには豪華な調度が並んでいた。
扉の前でシルフェ様にチュッと額にキスをされてから、私の部屋は奥ですからと離れて行った。
「お好きな色がわかりませんでしたので、とりあえずアイボリー系で揃えさせて頂きました。不都合がございましたら何なりと申し付けくださいませ。それと、本日よりルーカス様の従者になります者をご紹介してもよろしいでしょうか?」
部屋の中を見回す俺にダーウェルが言葉を掛ける。
「あぁ、構わないけれど」
「畏まりました、フェイ入りなさい」
ダーウェルが廊下を見ると、そこにはお茶用のカトラリーをワゴンに乗せて運んで来た従者がいた。
「フェイ!?」
間違えるはずが無い。
アーデルハイド家で使えてくれていたフェイだった。
「フェイと申します。ルーカス様の従者となりました。これからよろしくお願い致します」
頭を下げたフェイ。
「ルーカス様、お疲れでしょう?お茶はいかがでしょう」
「貰おうかな。ダーウェルもありがとう。シルフェ様にもお礼をお伝えしてくださいこんな素晴らしいお部屋をいただいてしまうなど......」
「いえ、では私は失礼いたします。フェイ頼みましたよ」
ダーウェルは静かに一礼してから部屋を出て行った。
「フェイ......」
「はい、ルーカス様」
「どうして此処にいるの?」
俺はフェイのいれたお茶を飲みながら、静かに控えたフェイに声を掛けた。
「アーデルハイド家はどうしたの?お父様やお兄様たちは」
「前の職場の事をお話するのは違反になりますので......独り言とさせてください」
コホンと咳払いをしたフェイは、あの穏やかな声で話し始めた。
俺が家を出て修道院に向かった後に行方不明になった知らせが入り父親の影が動いたこと。
花街で発見されたこと。
様子を見るからと、俺をそのままにした所でシルフェ様に見請けをされてしまい、慌てた所でシルフェ様より連絡があったこと。
婚約を許す署名をしたこと。
そして、たまには顔を見せなさいと俺に伝言を託して送り出したこと。
「そっか、近いうちにお父様達に会いに行かなきゃ。シルフェ様も許してくれたし......フェイはこちらに来てしまって良かったの?」
「ルーカス様が許してくださるなら、私の居る場所はルーカス様の傍でありたいので」
しっかりと頷いたフェイに、俺は目を伏せた。
「ありがとう、これからもよろしく。でも、俺に付いたらフェイの地位が下がるんじゃないかな。愛人の従者なんて......」
「ルーカス様......湯あみの支度をいたして参りますね」
そう言うとフェイは部屋を出て俺は一人になったのだった。
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