完結【BL】紅き月の宴~Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

梅花

文字の大きさ
上 下
48 / 131

47話

しおりを挟む
「ほら、脱がせるからね?」
なんだかんだで食事を終えると、シルフェ様は俺に湯あみをさせると言う。
自分で出来ると言うも、髪を洗いたいだろうと言われ馬車の中でぐしゃぐしゃになってしまった髪を解きたいと思ってはいたけれど。
脱衣場で服を脱がされ、そのまま俺はバスルームに入れられた。
腕まくりをしたシルフェ様にバスタブに入るように言われ、タオルを巻いた姿で湯に浸かった。
ふわりと香る甘い香りは入浴剤だろうか。白く濁ったお湯のため、自分の裸体がシルフェ様に晒されないのを安心しながら仰向けになると、シルフェ様は濡れるのも構わずに椅子を引き寄せ俺の傍に座る。
「シルフェ様、濡れてしまいますよ」
「構わない」
「でも」
「ぬれたら、直ぐに湯に浸かるから大丈夫だ。ほら、目を閉じてくれ髪を濡らす」
仰向けになるよう促され、風呂の縁に首を預けると、たっぷりとお湯を入れた桶の中にシルフェ様は俺の髪を浸ける。
「本当に綺麗な髪だな……淡い色が良く似合う」
髪に気を使ってきた俺にはそれは嬉しい言葉だった。
修道院に入る時に切ろうと思っていたその髪は、ある意味俺の財産なのだ。
「ありがとうございます。シルフェ様は長い方がお好きですか?」
シルフェ様の好みに合わせたい。そう思いながら聞くと、シルフェ様は石鹸を泡立てながら笑う。
「長くても短くても、ルーカスに似合うだろうからどちらでもいい」
優しい言葉に涙が出そうになった。
「私はルーカスだから好きなのであって、外見は気にしないよ?ルーカスが可愛いおじいさんになっても愛せる」
その言葉でふとスチルが浮かんだ。
騎士団のベンチで主人公に膝枕をしながら、主人公の髪を撫でるシルフェ様。
そのスチルを見た時に、どれだけの人が主人公になって髪を撫でられたいと思っただろうか。
それは、その前のイベントでさらわれた主人公を助け出す際に、ざっくりと髪を切られてしまった主人公に対しての後悔を吐露するシーンだった。
「……っ、ありがとうございます……」
あの時、主人公はどう答えたか。
俺に選択肢のコマンドなんて見えるわけがない。
「いや、本心だから……早く自宅に戻って婚姻式をしよう?」
「え?」
「嫌かな」
俺の顔を覗き込んでくるシルフェ様。
「お望みのままに」
流石に本当の婚姻は難しいだろうけれど、真似事でもしてくれるのなら嬉しい。
「婚約もまだなのに気が早いな……できるだけ早くするつもりだから……ルーカスの意見も聞きたいし、どうしたい?盛大に行いたいかい?」
シルフェ様の髪を洗う指が気持ちいい。
「え?いえ、シルフェ様だけがいらっしゃれば」
ひっそりと誰にも知られずシルフェ様のお傍にいられれば幸せなのだから。
「欲が無いね。全て私に任せてくれるだろうか?」
「はい、シルフェ様のお心のままに」
俺はそっと目を伏せた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...