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43話

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「わっ!」
揺れた馬車にバランスを崩して、あろう事かシルフェ様に抱きついてしまう。
だけど、元々が屈強なシルフェ様の身体は俺が抱きついてもびくともしなかった。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません……」
強く背中を抱かれながら、シルフェ様は片膝を立てた。
「どうした」
短く馭者に問う声に、普段の優しさが消えている。
「申し訳ありません、石に乗ったみたいで問題はありません」
外から聞こえてきた声に、ホッと息を吐いたシルフェ様は、俺の腰に回していた手を離した。
「街道に出てしまえば夜でも走れますが、馭者にも馬にも無理をさせるわけにはいきませんから、宿がある所で休憩や宿泊をしましょう、ルーカスは少しなら王都に戻るのが遅くなっても大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です。俺は本当に乗っているだけしか出来ないので、御者の方に無理をなさらないよう……お願いします」
「宿屋に着くまではゆっくりしましょう、横になるには髪留め等が邪魔になりますよね?外しましょうか」
店を出る時に着飾らせてくれた姉様たち。
「自分で」
「見えないだろう?嫌でなければ私にさせて欲しい……」
そう言われてしまうと、やってもらうしかない。
「では、お願いします」
姉様たちが丁寧に髪を梳いてくれたから、絡まったりはしていないだろうけれど。
やはり、髪を触られるのは少し恥ずかしい。
「ルーカスの髪は綺麗ですね、切って売るつもりだったと聞きましたが……それだけは、修道院でなく花街に連れていった輩には感謝しないといけませんね……」
するすると抜かれた簪が、床に置かれていく。
その数はかなり多かった。
小さなピンクの花が先端に付いた簪。
【アルメリア】を模すようになっているのは、おそらく姉様たちの計らいだろう。
「こんなに……」
いくつあるのだろう。
「それだけルーカスが愛されていた証拠でもある……いつかまた、顔を見せに行かなければなりませんね」
全部外してくれたのだろう、シルフェ様はポケットから小さな櫛を取り出して俺の髪を梳いてくれた。
「これでいいか」
シルフェ様は笑みを浮かべてから、軽く俺の髪にキスをした。
そんな姿も惚れぼれするほど絵になっている。
そうシルフェ様を見た瞬間、俺の心臓がドクンと大きく鼓動した。
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