完結【BL】紅き月の宴～Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

35話

「ルーカス嬢？」
「っは、ぁの……息、できな……」
唇が離れて一気に新鮮な空気が流れ込んでくるのと同時に唇の端を唾液が落ちた。
「もしかして、初めてでしたか？」
シルフェ様の問いにこくりと頷く。
「なら、責任をとらないといけませんね、私と結婚していただけますか？」
唇を指先で拭われるようにされていたが、シルフェ様の言葉に思考が停止する。
結婚？
婚約ではなく？いきなり？違う、そうじゃない。
自分は花街の人間になったのだし、シルフェ様は貴族であり騎士団長なのだ。
何を言っているのだろう。
「あの、私はこの楼閣に売られましたので、楼主様が出した分のお金は稼がないといけませんし……それに、初めてがシルフェ様だったので、とても幸せでした……」
そう言うと、そのまま寝台に押し倒された。
「ルーカス嬢が望むなら、これから20年、30年先の分までアイツに払ってやりますよ」
シルフェ様がアイツと呼んだのは楼主様のこと。
公式ガイドにある設定。二人は公にしていないが幼馴染みである。
シルフェの屋敷の下働きの子だった楼主は、歳も近いせいか二人で良く一緒に遊んだらしい。
それも、シルフェの騎士団入りが決まるまで。
シルフェが騎士団に入る少し後に楼主も色々あり家を出たと書いてあった。
それからこの花街の楼主になり主人公と出逢って過去を語る。
そんなシーンを思い出した。
「ふふ、楼主様と仲直りをされたのですか？幼馴染みですものね」
つい溢してしまった言葉にシルフェの目が細められた。
「それをアイツが言ったのですか」
ひやりとした冷たい声。
それにしまったと息が止まる。
「誰に聞いたのですか……」
「え」
「私には聞く権利がありますが」
「……お、同じ地方のイントネーションが……それに、楼主様のシルフェ様を見る目が懐かしそうにしていたので……違いましたか？」
俺のしどろもどろの問い掛けに、シルフェ様は深い溜め息を吐いた。
「まぁ、仕方ありませんね人の口に戸は立てられませんから……」
「シルフェ様……」
「ルーカス嬢が、アイツに関心があるのかと少し嫉妬しただけです……怖がらせてしまいましたか？」
すみませんと謝ったシルフェ様はそっと俺の頬にキスをした。
見上げる形になっているが、シルフェ様の瞳は優しくなって見えた。
少しホッとしながらも、この話はもうシルフェ様には出来ない。
ゲームに関する話は要注意なのだと学んだのだった。