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15話【アルメリア】
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アサド様達が発ってから一月ほど、俺は初見世……初めてのお客を取る事になった。
流石に刺繍だけではやっていけない。
楼主からその話があってから、知識としてどんなことをするかを学ぶ。
再度、学び直したと言えばいいのだろうか。
理由があるらしく、手解きは受けなかった。
初見世前夜から、俺は色々な人の手を借りて準備をする。
花は【アルメリア】。
濃いピンクの愛らしい花だ。
切る予定だった髪を結い上げて、アルメリアを模した簪を挿す。
少し薄手の白い布で作られたドレスは胸元のリボンで留められている。
「やっぱり元が違うんだろうなぁ……ルーカスは」
「喋らなきゃ美人なんだよ」
「どれどれ?」
静かに座って時間を待っていると、周囲からじろじろと値踏みされた。
まぁ、楼閣のお姉様……と、便宜上呼んでいるのだが、同じ楼閣で寝起きするひとたちが俺を見ていく。
その中でも、特に俺の面倒を見てくれたこの店ナンバー3のリュカが、退いた退いたと蹴散らしてくれた。
「リュカさん、俺……」
「大丈夫だよ、まだ誰が買ってくれたのか知らないのか?」
「はい」
買い手が決まったとしか知らされていないのだ。
「俺も何回か楼主にそれとなく聞いてみたけど、絶対に言わねぇんだよなアイツ」
「仕方ありませんよ、俺は待つだけですから」
軟らかな波打つ水色の髪を下ろしてカスミソウのピンで飾ったリュカは、綺麗な柳眉をしかめて見せた。
「まぁ、どんな相手かわからないけど、あの楼主が決めたから悪い奴じゃないとは思うんだけどな……何かあったらちゃんと言えよ?出入り禁止にとかもできるからな」
「ありがとうございます」
リュカにポンポンと背中を叩かれて俺は顔が強張っているのに気づく。
思ったよりも緊張しているらしい。
遠くで開店を告げる鐘が鳴り、お姉様方は部屋などへ別れていく。
俺は一人ぽつんとお客を待つ。
だが、待てど暮らせどお客は来なかった。
どんなお客様なのだろうと考えたりもしていたが、次第に自分を買ったことを後悔したのだろうかとかという考えにもなった。
そんなことはないと思いたい。
それならば、それで仕方ないのだけれど……。
あまり良い行為ではないが、心を落ち着けるために紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと扉にノックがあった。
「は、はい……」
上擦ってしまった声。
慌てて俺は立ち上がり扉の取っ手に手を掛けた。
流石に刺繍だけではやっていけない。
楼主からその話があってから、知識としてどんなことをするかを学ぶ。
再度、学び直したと言えばいいのだろうか。
理由があるらしく、手解きは受けなかった。
初見世前夜から、俺は色々な人の手を借りて準備をする。
花は【アルメリア】。
濃いピンクの愛らしい花だ。
切る予定だった髪を結い上げて、アルメリアを模した簪を挿す。
少し薄手の白い布で作られたドレスは胸元のリボンで留められている。
「やっぱり元が違うんだろうなぁ……ルーカスは」
「喋らなきゃ美人なんだよ」
「どれどれ?」
静かに座って時間を待っていると、周囲からじろじろと値踏みされた。
まぁ、楼閣のお姉様……と、便宜上呼んでいるのだが、同じ楼閣で寝起きするひとたちが俺を見ていく。
その中でも、特に俺の面倒を見てくれたこの店ナンバー3のリュカが、退いた退いたと蹴散らしてくれた。
「リュカさん、俺……」
「大丈夫だよ、まだ誰が買ってくれたのか知らないのか?」
「はい」
買い手が決まったとしか知らされていないのだ。
「俺も何回か楼主にそれとなく聞いてみたけど、絶対に言わねぇんだよなアイツ」
「仕方ありませんよ、俺は待つだけですから」
軟らかな波打つ水色の髪を下ろしてカスミソウのピンで飾ったリュカは、綺麗な柳眉をしかめて見せた。
「まぁ、どんな相手かわからないけど、あの楼主が決めたから悪い奴じゃないとは思うんだけどな……何かあったらちゃんと言えよ?出入り禁止にとかもできるからな」
「ありがとうございます」
リュカにポンポンと背中を叩かれて俺は顔が強張っているのに気づく。
思ったよりも緊張しているらしい。
遠くで開店を告げる鐘が鳴り、お姉様方は部屋などへ別れていく。
俺は一人ぽつんとお客を待つ。
だが、待てど暮らせどお客は来なかった。
どんなお客様なのだろうと考えたりもしていたが、次第に自分を買ったことを後悔したのだろうかとかという考えにもなった。
そんなことはないと思いたい。
それならば、それで仕方ないのだけれど……。
あまり良い行為ではないが、心を落ち着けるために紅茶を飲みながら待っていると、コンコンと扉にノックがあった。
「は、はい……」
上擦ってしまった声。
慌てて俺は立ち上がり扉の取っ手に手を掛けた。
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