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12話

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人の身体は凄く重いものだと思う。
この、騎士様が特別大きいのかも知れないが、手足を綺麗にしてからそっと顔を拭いてあげると、眉間に寄っていた皺が少しやわらかくなる。

「良かった」

そっと上掛けを掛け直してから俺は再び刺繍を始めた。
ゆらゆらと揺れる灯りが消えるまではそれを続けていた。


ふわりと何かに包まれて、身体が持ち上げられるような感覚に目を覚ます。
一瞬、何処にいるかわからなくてビクッとするが、記憶がだんだんと蘇ってきてゆっくりと瞬きをした。

「悪い、起こしたか」

降ってきた声にハッと上を見ると、其処には昨夜の騎士の顔。
膝の裏にある圧迫感。

「あの……」
「俺が寝台を占領したから眠れなかったんだろう?悪かったな。俺は十分寝かせてもらったから寝台は返す」

そう言われてふわりと寝台に寝かされると、上掛けを掛けられた。

「あ、いえ。寝台を貸す約束でしたから、俺のことは気になさらないでください」

上掛けの端を握り起き上がろうとするのをやんわりと制されてしまう。
大きな手は父様よりもゴツゴツして見えた。

「お前の寝場所を取ってしまったのだから、許せ」
「大丈夫です、それが仕事ですから。まだ、店には出させて貰えませんが少しでもお役に立てれば嬉しいので……俺、まだやらなきゃならない仕事があるので寝てられないのですよ」
「あぁ、刺繍か?上手いもんだ」

ちらりと騎士がテーブルを見やる。
其処にはまだ途中の刺繍がそのまま残っていた。

「休みながらやった方が集中できるぞ?」

そう言われると確かにそうなのだか、お客をそのままで自分だけが眠るわけにはいかない。
もう一度身体を起こそうとすると、今度は制されなく起き上がることができた。

「俺も少し休みますから、騎士様も横になってください。身体を休めるだけでも疲れが違いますから」
「アサドだ」
「え?」
「騎士様ではなく、アサドでいいそう呼んでくれ」

そう言われてまばたきをする。

「アサド……様」
「そうだ。名前は?」
「俺はルーカスです」
「そうか、覚えておこう」
「狭くなってしまいますが、こちらへどうぞ?」

俺は上掛けを持ち上げて隙間を作ってやる。
そうするとアサド様が大きな身体を滑り込ませてくる。
俺はそっとその隣に並び目を伏せる。
ほんのりと温かい体温が気持ちいいと睡魔が直ぐにやって来るのだった。
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