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10話
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「あぁ、ルーカスは初めてか。数ヶ月前から騎士団が侵略者の討伐に出ているって話は?」
「知っていますが」
「その帰還だから、この花街に泊まるんだよ。疲れた騎士様達を慰めるのが仕事だ」
「そうなんですか」
確かに騎士団が討伐に出たのは知っている。
確か、今回は赤騎士団だった。
赤騎士団の団長は確かシルフェ様。
遠目にお目にかかったくらいで、言葉を交わした事はない。
艶やかな濃茶の緩やかに波打つ髪を括っている。
凛とした風貌の美丈夫だ。
しっかりと、見たことも無いのに言い切れるのが、それはシルフェ様が攻略対象だからだ。
白い騎士団の制服は所々で差し色で深紅のラインが入る男の俺から見ても格好いいと思うもの。
騎士団はβが中心となる。
Ωがいて、集団の中でヒートが起こると手がつけられなくなるからだ。
「ルーカスも対象なのかなぁ」
ぽつりと相手が溢した言葉に首を傾げた。
「俺?」
「そ。団長であるシルフェ様は花街に馴染みを作らないから、来たらくじ引きで相手を決めるんだよだから、騎士に馴染みがいない奴の全員分の名前を書いた玉を箱に入れてそれを引いて貰うんだ」
「流石に俺は店に出てないし、騎士団様の相手なんてできないよ」
騎士団長だけでなく、他のお客様の相手もまだできないのだ。
門前の灯籠に火が入る。
一気に賑わいを増した店の端でチクチクと刺繍をする。
頼まれものが更に増えたから寝ずにやらなければ終わらない。
指を刺す回数も増えて、同じところには小さな血の染み。
それでも俺は出来ることがないから灯籠の火が消えて花街が静寂に包まれるまで目を擦りながら指を動かすのだった。
それから数日、その日は陽が昇った頃から花街は動き出していた。
薄曇りの少し風があるが、気持ちのいい天気。
「ルーカス悪い、湯あみを手伝って!」
皆に声を掛けられてその手伝いをする。
髪を洗い、肌には香油。
髪を乾かすのを手伝っていくのはかなり重労働だ。
自分も貴族の一員の時は従者にこんな大変な事をさせていたのだなと思う。
それにまだ、俺の髪は長いままなのだ。
切って売るつもりでいたが、花街では髪が長い方が喜ばれる事が多いと言われてそのままにさせられているのだ。
括る事が多く少し邪魔でもあるが、必要なときには売れる唯一のものだから……。
「先頭が見えた!」
誰かの声が聞こえると、一斉に皆が窓際へ向かう。
遠くの山裾にぽつりと肉眼でかろうじて赤が目に入る。
騎士団がまもなく到着するのだろう。
迎え入れる支度は済んでいるようで、周囲は楽しそうに笑いながら自分たちの部屋に向かったり、指名を受ける座敷に向かったりした。
俺はできるだけ刺繍をしてしまおうと、手伝いは無いかと声を掛けながら部屋に戻った。
「知っていますが」
「その帰還だから、この花街に泊まるんだよ。疲れた騎士様達を慰めるのが仕事だ」
「そうなんですか」
確かに騎士団が討伐に出たのは知っている。
確か、今回は赤騎士団だった。
赤騎士団の団長は確かシルフェ様。
遠目にお目にかかったくらいで、言葉を交わした事はない。
艶やかな濃茶の緩やかに波打つ髪を括っている。
凛とした風貌の美丈夫だ。
しっかりと、見たことも無いのに言い切れるのが、それはシルフェ様が攻略対象だからだ。
白い騎士団の制服は所々で差し色で深紅のラインが入る男の俺から見ても格好いいと思うもの。
騎士団はβが中心となる。
Ωがいて、集団の中でヒートが起こると手がつけられなくなるからだ。
「ルーカスも対象なのかなぁ」
ぽつりと相手が溢した言葉に首を傾げた。
「俺?」
「そ。団長であるシルフェ様は花街に馴染みを作らないから、来たらくじ引きで相手を決めるんだよだから、騎士に馴染みがいない奴の全員分の名前を書いた玉を箱に入れてそれを引いて貰うんだ」
「流石に俺は店に出てないし、騎士団様の相手なんてできないよ」
騎士団長だけでなく、他のお客様の相手もまだできないのだ。
門前の灯籠に火が入る。
一気に賑わいを増した店の端でチクチクと刺繍をする。
頼まれものが更に増えたから寝ずにやらなければ終わらない。
指を刺す回数も増えて、同じところには小さな血の染み。
それでも俺は出来ることがないから灯籠の火が消えて花街が静寂に包まれるまで目を擦りながら指を動かすのだった。
それから数日、その日は陽が昇った頃から花街は動き出していた。
薄曇りの少し風があるが、気持ちのいい天気。
「ルーカス悪い、湯あみを手伝って!」
皆に声を掛けられてその手伝いをする。
髪を洗い、肌には香油。
髪を乾かすのを手伝っていくのはかなり重労働だ。
自分も貴族の一員の時は従者にこんな大変な事をさせていたのだなと思う。
それにまだ、俺の髪は長いままなのだ。
切って売るつもりでいたが、花街では髪が長い方が喜ばれる事が多いと言われてそのままにさせられているのだ。
括る事が多く少し邪魔でもあるが、必要なときには売れる唯一のものだから……。
「先頭が見えた!」
誰かの声が聞こえると、一斉に皆が窓際へ向かう。
遠くの山裾にぽつりと肉眼でかろうじて赤が目に入る。
騎士団がまもなく到着するのだろう。
迎え入れる支度は済んでいるようで、周囲は楽しそうに笑いながら自分たちの部屋に向かったり、指名を受ける座敷に向かったりした。
俺はできるだけ刺繍をしてしまおうと、手伝いは無いかと声を掛けながら部屋に戻った。
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