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1話 断罪
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「私はルーカス・アーデルハイドとの婚約を解消する」
広間の中央に立つ、青年の口から放たれた言葉をただ静かに聞いていた。
ざわめきが消え、あるのはただ静寂だけ。
「どうして、ですか?」
「自分の胸に手を当てて考えるといい。今までしてきた自分の行いをな」
冷たい声に突き放される。
「そんな、俺は何も」
「どの口がそんな、世迷い言を。まぁいい、私に愛する人ができたのを知って嫌がらせ等をしたのだろう?知らないとでも思ったか。それにお前の悪行は父も知るところだ」
静寂の中、朗々と響く声。
「……国王陛下も……?」
震える声は自分のもの。
見上げる先にはさらさらのプラチナブロンドを緩く結び濃紺のジャケットに白のトラウザーズを履いた、この国の第2王子であるアーサー・シュテルンハイムが、その腕に愛らしい青年を抱いて立っていた。
「あぁ。今なら素直に婚約破棄を認めれば、アーデルハイド家のとりつぶしはしないように言うこともできるが?」
「そう、ですか……わかりました」
冷たく響くその言葉に涙が零れそうになって、それを目を伏せる事によって堪えると鼻の奥がツンと痛んだ。
大丈夫、泣くな。
まだ最悪の終わり方じゃない。
「ルーカス様、申し訳ございません……」
気弱そうに眉を寄せたアーサー王子の腕の中にいる青年は、柔らかな薄桃色の髪がさらさらと揺れ大きな緑色の瞳が印象的な愛らしいと言う言葉がぴったりな青年だった。
「お前が謝ることはないシリル。私の気持ちはシリルにしか向かないのだから」
俺に告げた冷ややかな声とは全く違う優しさのこもった声。
これ以上何かを言っても駄目なのだろうと理解して、俺は頭を下げた。
「婚約破棄を受け入れますが、まずは父宛にその旨の書類をお願いいたします。わたくしたちの婚約は陛下のお決めになった事ですので。
では、わたくしはこの場より失礼いたします……どうか、お幸せに」
何とかそれだけ絞り出すとくるりと王子に背を向けてその場所から退出する。
踏み出す足には力が入らない。
くずおれそうになるのを気力で堪え、扉の外に出るとそこは静かに雨が降っていた。
わかっていた。
わかっていたけれど、やはり辛い。
この世界が紅き月の宴というゲームの世界だと気付いたのは二日前。
痛む頭を抱え意識を失って目覚めたら、自分の中にもう一人の自分がいた。
今まで生きてきた世界ではない、全く違う世界で生きてきた俺は今の世界がゲームなのだと言っていた。
それに、俺はそのゲームの中の主人公であるシリルを虐める悪役令息なのだと。
シリルはたくさんの人から愛される。
その中には自分の婚約者であるアーサー王子もいるのだ。
最後、シリルが攻略対象の誰を選ぶかで俺の未来が決まる。
アーデルハイド家のとりつぶし、極刑、追放……どれになっても、それだけの事をしてしまったのだろうかと言うくらい厳しい未来。
扉の外は静かに雨が降っていた。
広間の中央に立つ、青年の口から放たれた言葉をただ静かに聞いていた。
ざわめきが消え、あるのはただ静寂だけ。
「どうして、ですか?」
「自分の胸に手を当てて考えるといい。今までしてきた自分の行いをな」
冷たい声に突き放される。
「そんな、俺は何も」
「どの口がそんな、世迷い言を。まぁいい、私に愛する人ができたのを知って嫌がらせ等をしたのだろう?知らないとでも思ったか。それにお前の悪行は父も知るところだ」
静寂の中、朗々と響く声。
「……国王陛下も……?」
震える声は自分のもの。
見上げる先にはさらさらのプラチナブロンドを緩く結び濃紺のジャケットに白のトラウザーズを履いた、この国の第2王子であるアーサー・シュテルンハイムが、その腕に愛らしい青年を抱いて立っていた。
「あぁ。今なら素直に婚約破棄を認めれば、アーデルハイド家のとりつぶしはしないように言うこともできるが?」
「そう、ですか……わかりました」
冷たく響くその言葉に涙が零れそうになって、それを目を伏せる事によって堪えると鼻の奥がツンと痛んだ。
大丈夫、泣くな。
まだ最悪の終わり方じゃない。
「ルーカス様、申し訳ございません……」
気弱そうに眉を寄せたアーサー王子の腕の中にいる青年は、柔らかな薄桃色の髪がさらさらと揺れ大きな緑色の瞳が印象的な愛らしいと言う言葉がぴったりな青年だった。
「お前が謝ることはないシリル。私の気持ちはシリルにしか向かないのだから」
俺に告げた冷ややかな声とは全く違う優しさのこもった声。
これ以上何かを言っても駄目なのだろうと理解して、俺は頭を下げた。
「婚約破棄を受け入れますが、まずは父宛にその旨の書類をお願いいたします。わたくしたちの婚約は陛下のお決めになった事ですので。
では、わたくしはこの場より失礼いたします……どうか、お幸せに」
何とかそれだけ絞り出すとくるりと王子に背を向けてその場所から退出する。
踏み出す足には力が入らない。
くずおれそうになるのを気力で堪え、扉の外に出るとそこは静かに雨が降っていた。
わかっていた。
わかっていたけれど、やはり辛い。
この世界が紅き月の宴というゲームの世界だと気付いたのは二日前。
痛む頭を抱え意識を失って目覚めたら、自分の中にもう一人の自分がいた。
今まで生きてきた世界ではない、全く違う世界で生きてきた俺は今の世界がゲームなのだと言っていた。
それに、俺はそのゲームの中の主人公であるシリルを虐める悪役令息なのだと。
シリルはたくさんの人から愛される。
その中には自分の婚約者であるアーサー王子もいるのだ。
最後、シリルが攻略対象の誰を選ぶかで俺の未来が決まる。
アーデルハイド家のとりつぶし、極刑、追放……どれになっても、それだけの事をしてしまったのだろうかと言うくらい厳しい未来。
扉の外は静かに雨が降っていた。
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