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41話

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「で、話を戻すが、ヒュアキントス男爵は宜しいか?」
「良くありませんぞ侯爵、そのような男がこの場にいて良い筈がない。ですなぁ、陛下…」

男爵は鬼の首を取ったかのように陛下に向かって言う。

「あら、男爵…彼は娘の婚約者でもありますし、娘を叩いたときの大切な目撃者ですのよ?」

義母が扇の裏側でホホホと笑った。
猫を被る母の様子に強く出ることができると踏んだのだろう男爵が嫌な笑みを張り付ける。

「ですがな、侯爵婦人…」
「男爵、リコリス卿は本来ならば言葉を交わすことができる存在ではなくてよ?」

パチンと扇を閉じた義母が軽い笑みを向ける。
いいから少しは黙っていなさいという圧力を感じ取れた男爵はたじろぎながらも静かに口を引き結んだ。

「それで、どうしてかな、フェンリエッタを叩いた理由は」

父が、話を戻してから目を伏せる。
マリアが素直に話をするまでは動かないスタンスだ。
マリアは、戻ってしまった話をどうはぐらかそうかと考えているのか、視線だけはあちらこちらを彷徨っていたが、やがて何かを諦めたように口を開いた。

「理由は…私が殿下に相応しくないと…言われまして」
「それは…私が確かに申し上げました。王室に嫁ぐには白でなければならないと」

そう手を上げたのはベルナルド。
それに激昂したマリアが叩いたのだ。
何故。
恐らく、言われたことが図星でベルナルドを叩くのは躊躇ったがその怒りの捌け口として怒りが向かった先がフェンリエッタだったのだ。

「それについては私の落ち度です。私の軽率な言動でフェンリエッタ嬢を巻き込んでしまったことをフェンリエッタ嬢並びにゲンティアナ侯爵、侯爵婦人にお詫び致します」

椅子から立ち上がり頭を下げたベルナルドに、そっと私は立ち上がる。

「ベルナルド様…」

そっとベルナルドの腕に触れる。
誰もベルナルドを責めてもいないのだ。

「ベルナルド様を責めてはいませんよ、どうかお座りください」

フェンリエッタの言葉にベルナルドは頭を上げてから椅子に座り直す。
ベルナルドにはむしろ感謝をしているくらいなのだ。

「で、その場にいた…殿下…は、どうされたのですか?」

止める訳でもなくただ聞いていた。フェンリエッタの記憶にはベルナルドに殴りかかろうとしていた気がする。
論点はずれるかもしれないが、この事件もフェルディナンドの婚約に関係してくるのだ。

「…陛下、殿下の婚約は可能なのですか?」

フェンリエッタの口から溢れた言葉。
そのとき部屋の中はシンと静まった。
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