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36話
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「うむ…」
「言わせていただきますが、ヒュアキントス令嬢はまだ王族ではありません。男爵令嬢が侯爵令嬢に吐ける暴言ではありませんでしたし、ましてや人としていかがなものかと思われるような言葉です。
そして、王子の恋人であるならば、外で他の男性と腕を組み親しげに歩くなどあるまじき事ではありませんか?こちらの国ではそのようにしても良いとの教えなのでしょうか?
それならば、フェンリエッタ嬢は随分と慎ましやかな令嬢に見えますが?」
ベルナルドがゆっくりと、だがはっきりしっかりと口にする。
「唇から落ちてしまった言葉は元へは戻りません。私達の大切な娘を貶められてしまった責任を取っていただくために来ております」
「陛下が処罰されないのであれば、それはそれで結構ですわ、その代わりに私どもが有するすべてのものを止めて他国に移るだけですもの…ただ、全てとなると、この国の半分近くは流通も止まると思われますが…」
どうします?と、義母が先程の手紙をそっと机の上に滑らせる。
陛下はそれを読んで青ざめた。
「全部…か?」
「勿論ですわ」
「…時間をくれないだろうか…」
「できません。それに、陛下の御璽を使用し、我々を呼び出した挙げ句、話を誤魔化す為に陛下の側室になれと言う事まで書いているのです…皇后陛下にも見て頂くことにいたしましょうか」
「それ…は」
皇后と伝えると、皇帝の顔が一気に引きつった。
「お姉さまはこう言うことは嫌いですものね…」
義母の言葉にフェンリエッタは義母を見る。
「ふふ、本当の姉ではありませんわ、従姉妹になりますわね。フェンリエッタちゃんのお母様、私のお姉さまと年齢が近かったので良く遊んでいただいたわ?今でも手紙のやり取りは欠かさないもの」
お義母様…どれだけ人脈が広いのですかとあんぐりとしてしまう。
「貴方、聞きましてよ」
静かに扉から入ってきたのは、渦中の皇后だった。
「王妃っ」
「陛下におかれましてはご機嫌麗しく…ございませんわね?また何かやったのかと気にしてみたら、まさか…あの馬鹿」
口許でパチンパチンと扇を開いたり閉じたりする王妃の声は静かになった部屋に響いた。
「皇后陛下におかれましては…」
「良いわよ、ゲンティアナ侯爵。皆も座って頂戴。
そちらは初めてね?」
「初めてお目にかかります、隣国から参りましたベルナルド・リコリスと申します」
「ほう、今はリコリスを名乗るのね…」
何やら訳知り顔で頷いた王妃は軽く頭を下げてから陛下の隣に座る。
段々話が大きくなってしまったわ…フェンリエッタは不安そうにベルナルドを見上げた。
「言わせていただきますが、ヒュアキントス令嬢はまだ王族ではありません。男爵令嬢が侯爵令嬢に吐ける暴言ではありませんでしたし、ましてや人としていかがなものかと思われるような言葉です。
そして、王子の恋人であるならば、外で他の男性と腕を組み親しげに歩くなどあるまじき事ではありませんか?こちらの国ではそのようにしても良いとの教えなのでしょうか?
それならば、フェンリエッタ嬢は随分と慎ましやかな令嬢に見えますが?」
ベルナルドがゆっくりと、だがはっきりしっかりと口にする。
「唇から落ちてしまった言葉は元へは戻りません。私達の大切な娘を貶められてしまった責任を取っていただくために来ております」
「陛下が処罰されないのであれば、それはそれで結構ですわ、その代わりに私どもが有するすべてのものを止めて他国に移るだけですもの…ただ、全てとなると、この国の半分近くは流通も止まると思われますが…」
どうします?と、義母が先程の手紙をそっと机の上に滑らせる。
陛下はそれを読んで青ざめた。
「全部…か?」
「勿論ですわ」
「…時間をくれないだろうか…」
「できません。それに、陛下の御璽を使用し、我々を呼び出した挙げ句、話を誤魔化す為に陛下の側室になれと言う事まで書いているのです…皇后陛下にも見て頂くことにいたしましょうか」
「それ…は」
皇后と伝えると、皇帝の顔が一気に引きつった。
「お姉さまはこう言うことは嫌いですものね…」
義母の言葉にフェンリエッタは義母を見る。
「ふふ、本当の姉ではありませんわ、従姉妹になりますわね。フェンリエッタちゃんのお母様、私のお姉さまと年齢が近かったので良く遊んでいただいたわ?今でも手紙のやり取りは欠かさないもの」
お義母様…どれだけ人脈が広いのですかとあんぐりとしてしまう。
「貴方、聞きましてよ」
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「陛下におかれましてはご機嫌麗しく…ございませんわね?また何かやったのかと気にしてみたら、まさか…あの馬鹿」
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「ほう、今はリコリスを名乗るのね…」
何やら訳知り顔で頷いた王妃は軽く頭を下げてから陛下の隣に座る。
段々話が大きくなってしまったわ…フェンリエッタは不安そうにベルナルドを見上げた。
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